第419話 誰も座っていない席
◆タクトの視点
なんでこうなった。今日何度目のことか。どうにも俺の理解を超えた出来ごとが連発し困惑させる。
「タクト聞いてる!ボクすっごく悩んでいるんだよ!どうしてバラクは分かってくれないのかな。ボクはボクなりに一緒懸命頑張っているのに!」
俺は今アトラスからお悩み相談を受けていた。
あれ〜アトラスって敵じゃなかったけ〜?
も〜う意味分からん!
最初のうちはややヤケクソ、もしくは逃げたくないと言う思いがあってアトラスの同じパフェを頼んだのだが、これが美味いのなんのって!驚かされた。甘い、これについてはその通りなのだが、マッスルと言う名前は伊達ではなかった。身体に力が漲る。俺は今健康になっている。そしてまた一口食べるとその甘みが更に美味しく感じる。これを繰り返しているうちにパフェがいつの間にかなくなってしまった!?くっ悔しいが……最高に美味しいパフェだったぜ。
いつの間にかアトラスのことを忘れ癒されていると、むさ苦しい声が聞こえてきた。
「フンッ…フンッ…フ〜ンッ!プン!プン!プン!……」
せっかく癒やされたのに………
この店名物マッスルダンスショー、筋骨隆々のオッサンが裸になってマッスルポーズを連発しながら踊る。一時間に一回行われるショーらしい。これが意外にも人気であとで聞いた話では筋肉フェチの奥様に大好評だとのこと。
マッスルショーのおかげで俺は冷静になれた。
「な〜さっきも聞いたがお前はここで何をしているんだ?もしかしてボクと同じで気分転換とでもいうつもりか?」
俺はムスッとした顔で頬杖をついて面倒くさそうに話をする。
「タクト!聞いてくれるの!ボクね。あんまり友達いないんだ。アロケルはね。話は聞いてくれるんだけど全部肯定してくれるからあんまり相談した意味があんまりないんだよ。その点タクトなら良ければ褒めてくれて、悪ければ叱ってくれそう。タクト話を聞いて!」
そんな感じでアトラスからお悩み相談を受けることになった。真面目な俺はなんやかんやでしっかりと話を聞く。
時はほんの少し遡る。
「はぁ〜……………やっとお腹治ったよ」
アトリスは自室に戻り堕天使ネビエルの暴走に耐えていた。尋常ではない魔力でスペースイーターの空間が破られるところだったが、聖杖結界から放たれた聖なる魔力を吸収することで堕天使の光と闇のバランスを取ることが出来た。そのおかげでネビエルの暴走が収まり今に至る。
気だるくなった身体を動かし部屋を出る。するとスーッと影から赤い肌をしたライオンの顔の男が現れた。
「お目覚めですかアトラスくん。ご気分はいかがですかな?」
「うーん、ま〜ま〜かな。身体に特に異常はないよ。でもすっごくお腹が空いちゃった〜。アロケル何か作ってもらっていいかな」
「ええ、それはもちろん。そうですな。病み上がりですし、あまり重いものは宜しくない。それでいて栄養価が高そうな料理となりますと、パムルの卵包みとキノコのスープにいたしましょう」
※パムルの卵包みはオムライスみたいなものと思ってください。
「うん!それ好き、それでお願い!」
「はい、畏まりました」
アロケルはアトラスの返事を聞くと再び影の中へと戻って行った。アトラスはそのまま通路を真っ直ぐに進み扉を開くと食堂に着く、部屋には大きな長机に十脚ほどの椅子がある。アトラスは中央にある席を避けてその横の席に座った。
「ふふっ……この場所に来ると落ち着くな〜。ここ最近は全然戻って来れなかったから、すごく懐かしく感じる」
テーブルに顔をしばらく伏せてから横を向き中央にある席を見る。
「やっぱり淋しいや。父さん早く会いたいな………」
そう言ってアトラスはしばらく誰も座っていないその席を眺めていた。しばらくすると、影から浮き出る様にアロケルが現れた。
「アトラスくん、お待たせ致しました」
アロケルは料理を配膳をして下がり少し離れた位置で控えた。
「ありがとうアロケル。パクっ!うん!うまいや!」
パクパクと小さな身体にどんどんと口の中に入れていく。
「あ!そう言えばバラク兄さんはどうしてる?」
「バラク様は丁重にグルグル巻の簀巻きにして客室に転がしてあります」
「あちゃ〜……そっか、簀巻きにね!もう少し説明してお願いすればよかったかな、ハハッ」
乾いた笑いが漏れる。
「アトラスくん何か問題がありましたでしょうか?」
アロケルは意味が分からず首を傾げる。
「いや、気にしないで、それよりバラク兄さんを連れてきてほしい。話がしたいんだ」
「はい、かしこまりました」
それから数分後、簀巻きで引きずられたバラクを見たアトラスは、また説明不足だったと反省する。