第410話 颯爽と現れた小さき者
◆タクトの視点
(お〜い!地面が破裂するぞ〜!早く逃げろ〜)
突然地面から声が?この声……地の精霊か?
誰だか分からなかったが、その声が俺を心配しているように聴こえたので敢えて完全に動きを止めて安全靴のスキル空間反射で対応する。
声の通り地面が炸裂し地面は隆起する。もしも気がつかなかったら、俺は岩で押しつぶされていた。
そしてその声の主が現れる。
「驚いた。まさか大精霊がこんなところにいるとは」
地面から筋骨隆々の髭を蓄えたおっさんが、見た目はドワーフによく似ている。
「日頃はこんなところにいねぇ〜よ!なんか騒がしいから見に来ただけだ。それにしても危なっかしいからオイラは帰るわ」
「わぁ!?ちょっと待って!せっかくだったら手伝ってよ!」
「うあ?手伝えだと、なんでお前の手伝いをオイラがしないといけないんだ」
「なんでって!?………」
あれ?いつもはこんなに言わなくても手伝ってくれるのに……あ!そう言えば先生が前言ってたっけな。精霊は上位の存在になるほど偏屈になるって、冗談かと思っていたけど本当だったか、ま〜そもそも今までちょっと頼んだくらいで手伝ってくれた精霊が優しかっただけって言うのもあるけどさ。
「良し!オイラが協力しよう」
交渉は上手くいった。ただ意外と現金なヤツだった。以前ダンジョンで手に入れた魔鉱石をあげると言ったら二つ返事で協力を取り付けることが出来た。
ちなみに魔鉱石は食べるらしい。アゴと歯が壊れなければいいが。
しかしここで地の大精霊の協力は非常に助かる。戦略の幅が広がる。
『地の大精霊頼んだ!』
(おうよ!)
呪文でも技名でもないけど、それでも俺は精霊使い、言葉がなくても伝わる。周辺の地面が隆起し砂の四匹の大蛇を召喚、アトラスに向かわせる。
アトラスは飛翔し魔法を放つ。
『トルネード』風魔法の上級魔法、それもこちらに合わせて四つ、砂の大蛇は切り刻まれ取り込まれた。俺は砂嵐の様になったのを見計らって地面に潜った。
(おかしいだろ。いくらなんでも多彩過ぎる。あの化け物のスキルだけでなく風と地の上級魔法まで使えるなんて、間違いなくアトラスのユニークスキルの効果、これで間違いなく相手を取り込み、そいつのスキル使えるようになることが分かった。問題はどんだけ取り込んで強くなったか、見た目かわいいくせに化け物じゃないか!)
地の精霊のおかげで地面の中でアトラスがいる位置が分かる。悪いがまずは不意打ちさせてもらう。
マイナスドライバー(貫通Ver)をアトラスが居る方向に向けてハンマーで叩く、それと同時に地の精霊にマイナスドライバーが通るトンネルを作ってもらった。マイナスドライバーグングン上がって行く。
「ん!?」
アトラスはマイナスドライバーに直前で気づきアークフィールドを張る。しかし僅かに間に合わなかった。マイナスドライバーは白の翼を貫き半分千切れ落ちる。
「シャーー!チャ〜ンス」
地の精霊にロケットの様に一気に地面の上まで上げてもらい、そのままアトラスをぶん殴り更に上へ、半壊した天井に叩きつけると、すぐに空間障壁で足場を作り精密ドライバーを持つ。
(いける!このタイミングなら………)
その時、凄まじく嫌な予感がした。俺は無意識的にヘルメットの空間加速を最大60倍まで引き上げる。
加速することで周辺の空間がスローに見える。
周りを見渡し探す。一体何が?
……………そして見つけた。明らかな違いに……
アトラスの様子がおかしい。身体が黒い翼に包まれ、目が鋭く、歯をむき出しにしてまるで獣の様な変化をしていた。
アトラスの左腕に羽が纏わり付き刃物が大量に付いたような状態に、腕は俺を攻撃しようと向かって来る。そして嫌な予感の意味が分かった。腕を振る速さがスローじゃない。これはつまり今までになく尋常じゃない速さで向かって来ることを意味する。
タクトに向けて即死級の攻撃が迫る。
「おっと!危ないのだ!」
俺の前に小さき者が割って入って来た。そいつは前足なのか後ろ足なのか分からないが、膨大な闘気を纏い、アトラスの腕を叩き落とした。
「ニキ……おまえ…来てくれたのか!」
「友達として当然なのだ!それよりちょっと待ってろよ」
アトラスは体勢を崩し落下しているところに、チョコンっと後ろ足を上げ短い足でかかと落とし、攻撃を受けたアトラスは隕石が落下したような勢いで地面に落ちた。
衝撃でクレーターの様に地面が陥没しアトラスは大の字で倒れていた。
俺とニキはゆっくりと警戒しながら地面に降り立つ。
「あ〜助かったよニキ、おかげで命拾いしたよ」
「ん?あ〜気にすんなタクト、間に合って良かったなのだ!」
なんてこともなさそうに言うニキ、しかし分かってはいたけど、ニキがここまで強いとは驚いた。流石は冥界の管理者ヘル姉の弟と言ったところか、きっとムッチャ鍛えられたんだろうな〜。
「んあ?タクト、なんでそんなに悲しそうな目で俺を見るのだ?」
俺はこの時盛大に勘違いをしていた。