第406話 道具ではなく相棒
◆タクトの視点
(痛ってぇ〜……あとでメッチャ文句言われるだろうな)
腕に絆創膏を貼りながら一人ごちる。
タクトは初めてカンナに命令し強制的に退却させた。もちろんそれには理由がある。タクトはプラスドライバーとドリルを攻撃され破壊された。これ自体非常に問題なことなのだが、それ以上のことがあると思わされていた。それは破壊された二つの道具が出せないこと。本来ツールボックスの道具は魔力による具現化によるもので、破壊されてもまた作ることが出来る。しかし今はそれが出来ない。これがどう言う原理によるものか分からないが、スキル発動が出来なくされたか、そもそもスキルが消滅させられた可能性すらある。
もしも……もしもその効果がスキルを消滅させるものだったとしたら、カンナが死んでしまうかもしれない。カンナはツールボックスで道具でありただのスキルと言うヤツもいるかも知れないが、俺にとってカンナは相棒で大切な人、絶対に殺らせない。
俺はカンナを仕舞ってから地面に降りた。
「父さん、母さんありがとう助かったよ」
「良かった。タクトが無事で」
父さんは俺のことを心配してくれていたようで、俺の顔を見て安堵した表情に変わる。そして母さんは……
「会いたかったわータクちゃん、も〜う心配したのよ!でももう大丈夫だからね!悪いヤツは母さんが殺してあげるから」
母さんももちろん俺のことを心配してくれていた。顔を見た瞬間、タックルのような勢いで抱き着かれる。(力調整はされて)優しい声で俺を撫でながら、ちょっと物騒な言葉が聞こえたが気が付かなかったことにしよう。
さて、家族の感動の再会をもう少し感じていたかったけど、そうもいかない。今回は待ってはくれないようで、白と黒の羽がこちらに向かって飛んで来る。
俺は時間がないので、父さんと母さん、それに近くまで来ていたキョウカに簡潔に説明し指示を出すことにした。
「みんな聞いてくれ!コイツは相手のスキルを消すユニークスキルを持っているかも知れない。羽にはできる限り触れないでくれ!」
俺の言葉を理解してくれたようで、頷くとすぐに移動を始める。俺達が先程までいた場所に羽が大量に突き刺さる。羽は当然のように追尾機能を有しているようで、ばらけた俺達を追って来る。
「空間障壁」
俺は逃げながら空間障壁を張り羽を受け止める。「ボンッ」……羽は爆発し空間障壁は破られた。でも俺は手に着けている手袋を見てニヤリと笑う。
(予想通り……空間障壁は破られたけど、そのスキルを使う手袋には何の影響もない。つまり道具本体に攻撃を受けなければいい)
俺はヘルメットな空間加速で後方に回避、羽が地面に刺さり爆発!爆発!爆発!煙はほとんど出ないけど、爆発するたびに光を出し眩しい。かなりうざい。
俺が後方に下がっている時、キョウカは遠距離から上級以上の魔法でネビエルに応戦、羽を撃ち落としていた。
羽の物量はかなり多いが流石は大魔導師キョウカ、連射性の高い魔法で時間を稼いでくれている。その間に父さんと母さんが一気に接近していた。母さんは直接触れて『ペイン』を流そうとするがアークフィールドで止められる。そして同時に電撃を流された。攻撃を受けた母さんは電撃の痛みなどなんのそのとすぐに攻撃を仕掛ける。
怒涛の攻撃を仕掛ける母さん、しかしアークフィールドは硬く突破することは出来ない。
「ブラック切って!」
母さんはいつもと違い冷たく父さんに命令する。その姿は俺としてはあまり見たくなかった。優しい母さんはどこにと思ってしまうが、今はそんなことを思っている余裕はない。
父さんは母さんに言われた通り大鎌を振る。
父さんは大鎌を後ろに大きく下げ魔力を込める。
魔力はブラックのユニークスキルにより死の概念を纏う。
その力はこの世界にあるスキルの中で最強の一角、何故なら人も動物も植物も……そしてどんなものにも死の言う概念があるから、それは天使であるネビエルにとっても例外ではなかった。アークフィールドを切り裂く。そしてその隙間に母さんは入りネビエルに触れると最大出力で『ペイン』を流し込む。
「アッアガッ」
ネビエルはビクッと弓形に身体を動かし声を漏らす。痛みを感じたのは確実だが、それでも止めることは出来ない。ネビエルの拳が母さんを捕らえる。
普通に受ければ身体を貫かれるが、母さんは身軽な動きで腕に掴まり逆立ちをして、そのままネビエルにかかと落としをする。
劣勢になるかと思っていたが、完全にこちらが押している。ここはチャンスではないかと足を踏み出そうとした時、白い翼と黒い翼が高く伸びるのが見え、俺は急ブレーキをかけ、大声でみんなに指示を出す。
「みんな離れろ!爆発する!」
ネビエルの白と黒の翼を重ね合わせ擦り合わせると、今までにない大爆発を発生させた。