第4話 安全第一で戦闘開始!
ローム先生とは森でキノコを探して散策中に偶然出会った。なぜか知らないけど酷く酒に酔っていて木に手を当てゲーゲー吐いていた。当時の俺は純粋ゆえにつらそうにしていた妖精を放っておけず、声をかけた。今の俺ならきっと妖精の酔っぱらい………幻滅して声をかけなかったに違いない。
「あの〜大丈夫ですか?」
「なんじゃ〜小僧………みせもの……じゃないのじゃ〜オェ~」
妖精は千鳥足で完全に酔っ払っていた。
汚い……と今の俺なら思うだろうが、当時の俺は純粋無垢、急いで川辺に行き布に水を濡らして持っていった。
「ちゅべたい!ちゅべたいぞ!やめい!」
「ダメだよ!酔って気持ち悪くなったら、まずは水をいっぱい飲まないと治らないんだって、もっといっぱい飲んで〜」
「わー大きさが違うんだ、滝みたいにかけるでないのじゃ〜!」
しばらくそんなやり取りをしていると、ずぶ濡れになりながらも妖精は酔いが少し良くなったようだ。
「小僧、やり方はともかく助かっわ。なんとも恥ずかしいところを見られたようじゃ」
「気にしないで妖精さん!ボクのお母さんも良く。お酒飲んでゲーゲーしてるから介護には慣れてるだ〜」
「そうか〜お前の母も酒が好きなのか………」
「妖精さん、飲み過ぎは体に良くないよ!父さんが母さんによく言ってるんだ。お酒は美味しいけど飲み過ぎると体を壊すって、ボクは母さんが苦しんでたら悲しいからいつもお水をたくさん持って行くの!」
「ふ〜んそうかい飲まないでとは言わないのかい?」
「うん!お酒を飲んでる時のお母さん幸せそうだからボクも見ていて嬉しくなるから止めたりはしないよ!だってお酒って美味しくて楽しくなるんでしょ!ボクもいつか飲めたいな〜」
「くふふ、そうじゃなお酒は美味しい飲み物楽しんで飲まんとな〜辛い時に飲むものではなかったのじゃ小僧、名をなんという?」
「ボク?ボクの名前はタクト」
「そうかい……タクト良い名前じゃ!我の名前はローム妖精族ではそれなりに名が通った芸術家じゃ」
「芸術家……な〜にそれ?」
「それはな………」
…………………▽
それから先生はちょくちょくボクに顔を出すようになった。偶然俺に精霊が見えると分かった途端精霊魔法を覚えろと強く言われ、仕方なく仕事の合間に訓練させられたんだった。おかげで色々な事が出来て魔物も倒すことも出来るようになったんだ!今思えば盗賊に捕まった時、記憶を取り戻さなければ逆に逃げれたかもしれない。なんか残念……
「ローム先生すいません。ボケかましちゃってどうしたんです。いつもならまだ寝ている時間じゃなかったでしたっけ?」
「…………こないだも思ったのじゃが。お前タクトか?」
ギクギク……あ、怪しまれている。
「どうもおかしいのじゃ、さっきイジメられている時もそうじゃが態度と言葉遣いに違和感があり過ぎる」
「…………ん〜そんな事ないと思います〜いつも通りの素直でかわいいタクトちゃんですよ〜せんせい!」
「嘘くさいーー」
ビューンっと飛んでくる飛び蹴りを今度はギリギリ躱す。
「やはり……おかしいのじゃ、いつものタクトなら躱せても躱さないのじゃ」
「なんかそれっておかしくありません〜」
しかし自分の事だから分かる。タクトは確かに躱せても躱さない。ローム先生の蹴りは愛情のあるツッコミみたいなもの、躱すのは失礼とか思っていた。
「はぁー分かりました!ローム先生には話しますね」
俺はタクトとしての付き合いからローム先生に話しても良い気がした。それに誰かに話たかったのかもしれない。
「はぁーーー!!」
いい反応だねーローム先生。でも妖精ぽくないッス。アゴが外れそうな勢いで口をあんぐりして驚くローム先生。
「まさか!?そんな事が……ん〜タクトは嘘をつくとは思えんないし、しかしそもそもお前がタクトではないという可能性も捨てきれん。しかし我は相手の魔力で本人かどうかを判別できる。そしてお前がタクトだと分かっておる。しいて言えば操られていた場合は分からんが………」
「えーっと先生、正直ボク自身もまだ良くわかってなくって、もしかしたらしこたま殴られたんで頭がイカれた可能性もあるかもしれないです。何にしてもこれについては黙っておいて下さい。特に母さんが心配するんで」
「ん〜〜分かったのじゃ、しばらく様子を見よう。タクトも親には心配をかけたくないであろう」
「先生ありがとう!助かります。しばらくは静養します。身体は治ってますけど」
なんとかローム先生の了承を得られ、ほっと一息した時、
「キャー助けてーー」
少し離れた場所から女性の叫び声が聞こえてきた。
「なんだ!?今の……」
叫び声が聞こえた方を見ていると草むらから女性が飛び出してきた。なにか虫でも見つけて驚いたのかな〜と思っていたら、女性のあとから出てきたのは体長が三メートルくらいの大きな人……いや違う。
「なんでこんなところに………オーガが!?」
何こいつコワッ!
デカい上に筋骨隆々の肉体、それに野性的な風貌をして恐怖をより感じる。
「運が悪い、こんな町の近くまで来ることなんて稀なんだけどな〜」
オーガは特別足が速いわけではないが遅くはない。その辺の農民ならすぐに追いつけるはず、その女性はところどころ怪我をしているようだが殺されていない。あのオーガは人を殺すのを楽しんでいるようだ!
必死で逃げる女性を切り裂こうとオーガの腕が伸びる。
『地の精霊頼む!大いなる手』
俺は地面に手をつき、地の精霊に呼びかける。
オーガの足元からニョキッと土で出来た手が現れると、足を掴みバランスを崩した。オーガは転倒しその間に女性はこちらに逃げて来る。
「タクトくん今のうちに逃げて、私が囮になるから」
女性は震えながらも俺に助けを求めるのではなく、逃げるように声をかけてくれた。よく見ると彼女はうちの近くに住んでいるお姉さんのパトリアさん、とっても優しく小さい頃よく遊んでもらっていた。
ところどころ服が裂け血を流しているのに、俺の心配か………本当にこの人は優しいな〜、そんな人を見捨てるのはタクトとしても拓哉としても許せそうにないな!
パトリアは大声を出し注意を引きながら、俺がいる場所から離れていく。
その後ろ姿を見て俺はオーガと戦う覚悟をする。
『地の精霊頼む!大いなる手』
地面から土で出来た手が生え、拳を握りしめオーガを殴るがその拳を殴って粉砕、止まらない!?
オーガは攻撃を仕掛けたのが俺だと分かると、こちらに向かって突進してきた。
パトリアさんは俺に逃げるよう叫んている。
「ならこれでどうだ〜大いなる手 連続パンチ」
ガン、グシャ、ガン、グシャ………
オーガを連続で殴るが動きを鈍られる事が出来てもこちらに徐々に近づいてくる。
「くっそ〜まだまだ〜………あれ?……力が抜ける」
急に身体から力が抜け倒れそうになるのを必死で立て直す。
「バカもん、そんな力技、誰が教えた!」
「先生!?」
そうだローム先生が居た!先生ならあいつを倒せるはず。
「先生、助けて下さい」
「あのくらい自分でなんとかせんか!」
「えーー助けてくれないんですか〜」
俺は驚きさらに力が抜け尻もちをついた。
「イテテ、何でですか!?かわいい弟子が死にそうなんですよ」
「自分でかわいいとか言うな!それにあれくらい一人で倒せんでどうする!頭を使え頭を!」
ローム先生は何があっても手を貸してくれないみたいだ。どうすればいいんだよ〜。
オーガがこちらに見てニヤリと笑い歩いて来る。
………一撃でも貰えば致命傷になる相手、接近されたら詰む。それなら遠距離、俺にはある程度ではあるが遠距離攻撃が出来る。でもそれが効かなかった。ならあれを使えば良い!
「安全第一で戦闘開始だ!『ツールボックス』来い!」