第395話 小さな者達
「ぷっぷっぷつ……身体が馴染んできたね。良い感じだよボルジア」
少年アトラスは謁見の間の出来ごとを楽しそうに笑って見ていた。
ここは不思議な空間だった。真っ暗な空間で謁見の間の映像が映されている。そこにはバロンやイグニス達が闇の中で鎖の様な物で腕と脚を拘束されていた。
「アトラス、ボルジアはどうなっているんだ?明らかに普通じゃないぜ!」
「えへへ、イグニス…教えてほしい?」
「おう!素直に聞くから教えてくれ〜」
「えへへ、じゃ〜仕方がないな〜特別だよ!」
無邪気な少年のような仕草で笑いアトラスは話を始める。
「逢魔の扉、宝物庫にあると聞いていたあの扉を開いたんだな。一体そこに何があったんだ!」
「もう!バロン、ボクが話そうとしているだから口出さないでよね!でもいい勘してるよ。正解!ボルジアは逢魔の扉を開いたんだよ」
「それはおかしい。ボルジアには開くことが出来なかったはずだ。どうして入ることが出来た?」
「ふ〜ん……そこまで知っているのなら話が早いや。逢魔の扉を開く条件は二つ、王族に連なる者の血を引いていないといけないこと。ボルジアは腐っても王族だからね」
「そんなことは知っている。問題はもう一つ。ボルジアは太陽の指輪を持っていない。それを持っているのはハドリアヌス国王のみだ。だから開けないはずなのに……」
「そう開いたのはボルジアではないけどね。そもそも条件を間違えているんだよ。みんなね!」
………………▽
◆謁見の間、タクトの視点
……………痛ってぇ〜肋骨が二本はいったな。
ガハッ……呼吸するたびに痛むのは地獄だな。
でも痛みのおかげで頭は冷静になれている。
まずやるべきことは治療。俺は絆創膏を貼る。
怪我をして三十秒ってところか、少し話でもしながら時間を稼ぐかね。
「やられたよ。完全に嵌められた。油断はするなってことだな。それにしても二人に増えるとか反則じゃねぇの?」
「反則?フッ…フッ…フッハッハッハッ、弱く無能な者はすぐに強く優れた者をひがむ。自分に力がないだけだというのに、腹立たしい。ゴミムシ分際で……ま〜仕方あるまいか、無能は頭が悪いのだ。考えることも出来ないんだろう」
こういう偉い人は話すのが好きなんだよ。ダラダラと理由の分からないことを、でもま〜こちらの思惑通り上手く時間は稼げた。治療完了っと!
俺は立ち上がった。
相手は二人に増えている。上手くやらないとな。
ボルジアは二手に分かれ俺を挟むように移動し立ち止まる。それぞれ片腕を上げると手の平から黒い魔力を放出する。俺はそれを片方はニッパー、もう片方をナイフで切り裂く。
ボルジアは魔力を球体に変え連続で投げて来た。俺はヘルメットのスキルで空間加速し高速移動、それを両サイドから挟むように追いかけながら魔力弾を投げ続ける。俺は目の前に配管を設置し走って入って空間転移。そのまま配管の行き先を片側のボルジアの後ろに設置、飛び出すと同時にハンマーでぶん殴る。
ボルジアは壁に衝突し倒れる。
来ている。強い敵意!隠すつもりは全くないな。
もう一人のボルジアが殴って来たので空間障壁で受け止めバーナーを向ける。
『空間延焼』
ボルジアの周辺2メートルが炎に包まれる。普通なら骨も残らないほどの熱量だが、炎の中で動く姿が見える。倒せてはいない。
「熱い。熱い。熱いなこのゴミムシがぁ!」
ボルジアは激昂しがむしゃらに空間障壁を殴る。「ドンドン」と重い衝撃のパンチ、金属をも変形させるほどの力ではあるが、この空間障壁は破れない。そのはずだった。
「ピキッ」…………なに!?
空間障壁に綻びが見える。
あり得ないぞ。コイツはそう簡単には壊せないはず。
しかし現実は、事実を突きつけてくるもの。
「バキッ」
チッ!……もう一人も立ち上がったか、出来れば早めに一人は倒しておきたかったんだがな。
ハンマーでぶっ飛ばしたボルジアも立ち上がり、殴って攻撃してきたのだが、空間障壁で防いだ。だが問題はたった一撃でヒビを入れたこと、さっきより更に威力が上がっている。次にまともに殴られたら、俺の闘気では防ぎ切れず、即死間違いなしだ。
ボルジアは急速に強さを増している。
このままどこまで上がるのか?
それに今のレベルでも対処するのが手一杯。
…………また余計なことを考えてる。
目の前に居る敵から意識を逸らすな!
二人のボルジアは相変わらず直線的に向かって来る。だがさっきとは違い油断はしていない。もう簡単には罠には引っかかってはくれそうにないな。
(もうあの攻撃を真正面から受け止めるのは得策じゃない。躱すかいなすか………え!?)
「タクトをいじめるな〜!」
小さいのに勇気がある。エメリアが俺の懐から飛び出しボルジアに突っ込む。その小ささから気にも止めなかったのか、あっさりとエメリアは懐に入ると強烈な頭突きを喰らわす!その小さな身体からは考えられない力でボルジアの一人は「ボゲェ」と変な声を漏らして転げ倒れる。
もう一人のボルジアは倒れた自分に何が起こったのか分からず足を止める。
「そうじゃな!タクトをイジメてもいいのは我だけなのじゃ」
地面がせり上がりもう一人のボルジアは天井にぶつかり潰される。
の小さな妖精が現れる。
「先生、弟子をイジメるのはダメだと思いますよ」
「なんじゃ?先生が弟子で遊ぶのは特権じゃろう」
「違いますよ。ローム先生、弟子は大切にしましょう」
「ふむ仕方あるまい。大切な弟子じゃ、守ってやるかのう〜」
俺の前にはローム先生とエメリアが居た。
戦いは仕切り直しになった。