第391話 そこはあなたが居ていい場所ではない
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時は少し遡り、エリック王子とラウラ王女が謁見の間に到着したところ。
「エリック兄さん……」
「あ〜分かっているよラウラ」
王の座に就いたことで、偉そうな態度が前以上だと見てわかる。そしてその憎たらしい顔も前以上ということも、私達の叔父にあたる男、ボルジア公爵が居た。
ボルジア公爵の視線が二人に向かう。
ズーン!?……身体にかかる重圧。
エリック王子とラウラ王女は今までボルジア公爵から感じたことのない感覚に驚きつつも警戒力を上げた。
「どうした?エリック、ラウラよ。そんなところで、
もっと近くにこんか」
二人は動かなかった。
ボルジア公爵の得体の知れない気配が二人の足を止めていた。
「ん?どうしたのだ二人共、叔父である私に挨拶もないのか?」
「……………叔父上お久しぶりでございます」
エリック王子はお辞儀をして礼を尽くす。
ラウラ王女も不満ながら頭を下げた。
「うむ!二人共元気そうでなによりだ。二人が行方不明になり、兄上も随分と心配しておったぞ」
「そうですか……ご迷惑をおかけしました……」
エリック王子はそこで一度区切り、落ち着いてから再び口を開いた。
「叔父上、なぜその椅子に座っておられるのですか、その椅子はこの国の王、我が父ハドリアヌスの席、今すぐ退いて頂きたい」
ボルジア公爵はつまらなさそうに頬杖でついて答える。
「エリックよ。そんなことも分からないのか?考えるまでもないであろう。王なるべき者がこの椅子に座る。そうであろう。お前の父ハドリアヌスでは足りなかった。そういうことであろう。なぁ〜エリックよ」
エリック王子、ラウラ王女は顔をしかめ、怒りを露わにする。
「そこはあなたが居ていい場所ではない!」
「ほ〜う、なんだエリック、もしかして次は自分が座れるとでも思っておったのか?それは傲慢だな」
「叔父上これ以上冗談を聞くつもりはありません。退かないなら無理やりにでも退かさせて頂く」
「エリック、それは構わないが、身の程を知るだけだぞ。二人とも私の軍門に下れ、今なら猶子 (ゆうし)のよしみだ。今後は部下として使ってやろう」
「誰があんたなんかの部下に……お断りだ!」
「お兄様、もう我慢の限界ですわ!行きますわよ!」
「ま〜待て二人共、今ようやく客人が到着した。粗奴らが席に着くまで待て」
壁から何か人形の物体が押し出るように浮かび上がって来る。そしてそれが人であり誰か分かり二人は絶句する。出て来たのはハドリアヌス国王、ローラン侯爵、ブライアン侯爵、三人は捕まっていた。
「どうした?エリック、ラウラ、久し振りの再会であろう。しっかりと挨拶をしなさい」
三人は手と足からは血を流し苦痛の顔で顔を歪ませている。ここからでは判断出来ないが、あの量の血を流し続ければ命に関わるのが分かった。
二人は感情のまま一直線に突っ込んで行った。
しかし、ボルシア公爵の身体から黒いオーラがモヤのように上がり消えると、次の瞬間悲鳴と共にエリック王子とラウラ王女は壁に叩きつけられた。
二人は全く攻撃を察知できず、受け身が全く取れなかった。背中を打ち上手く呼吸が出来ない。まともに立てなかった。
そこに追い打ちをかけようとボルジア公爵が手を上げた時、ガコッと大きな音がして扉が勢い良く開いた。
◆タクトの視点
ヤベェー派手にやっちまった。
こっ……これって俺が弁償しないといけないよな〜
喋る扉っていくらくらいなんだろう。
エミリアの想定外の力と行動に動揺しまくる俺、しかし部屋の中を見て状況を把握、それについては後で考えることに、こっからは本気で行くぞと意気込み部屋へと足を進めた。
「あぁ?貴様何者だ?こんなところまで、一体兵士共は何をしておる。こんな小さな虫けらを城内に入れるとは」
すこぶる不機嫌そうにボルジアは言った。
ボルジア公爵………初めて会ったけど、なんでハドリアヌス国王と兄弟なのにこんなに見た目が違うのか?不思議でならない。
ボルジア公爵の姿は豚である。決して豚さんを愚弄しているわけではなく、あくまでそのくらいデップリとしてブヒブヒと言ってそうな見た目と言うこと。オークと違って贅肉ダラダラだな。日頃の不摂生が見て取れる。
「お前は何をボーっとしておる。私がお前に声をかけておるのだぞ、答えるどころか返事もせんとは、万死に値する。どうせただの虫けら、叩き潰してしまうか」
ボルジアがなんかブツブツと言っている。知らんが、答えなかったくらいで殺されたらたまったもんではない。ま〜これが貴族だったり王族のやり方なら断固拒否だな!本当に今なら思えるけど自分の町を作って良かった〜。
「おい!お前どこまで私を愚弄する。お前は見ているとイラつくな!さっさと死ね」
ボルジアから黒いオーラが吹き出しスッと消えた。
へぇ〜早いね!
すでにヘルメットによる空間を加速。
そして安全靴よる空間反射は発動済み。
高速で移動する黒いオーラの塊を見定める空間反射で跳ね返す。
「ヘボウエ!?」ボルジアは変な声をあげて横断歩道で良くある標識みたいなポーズでめり込む。