第390話 謁見の間
真っ暗な空間、暑くもなく寒くもない。何もない空間、周りでは僅かに動く気配を感じるが誰もその場から動こうとはしていなかった。
「よっと」
闇の中に一筋の光が漏れる。そこに一人の少年が降りて来た。
「よぉ!起こしに来てくれたのか?」
「ふふっ、相変わらずだねイグニス、太々しいというか、鈍感と言うか」
「そんなの決まっているだろ。俺は大物だからよ」
「アハハ、ホント変わらないや!そうだねイグニス君は大物だよ」
突然現れイグニスと話をしているのは、ゴエティア九王の一人パイモンに取り憑かれているアトラスと言う少年。
「本当にお前は大物だよイグニス、私達は捕まったんだぞ。ちっとは慌てろよ。まったく……はぁ〜」
「なんだよ。ため息つくことないだろ。それに男がバタバタ慌てるなんてカッコ悪いだろ」
「ふ〜ん……それはカミラさんの前でも言えるかな」
「それは無理だ!俺はカミラに嫌われたくない」
「なんでそこは潔いんだよ。少しは男としての威厳をだな〜」
「それこそお前が俺に言えることかよ!奥さんにちっとは抵抗しろよ」
「ふざけるな!燃やされるわ」
「ん…うん…そうだな無理言った」
イグニスとバロンが言い合いをしている最中、ニコニコ顔でそれを見守るアトラス。
「二人共変なことするなよ。そいつはたぶん気がついてるぜ!」
「ん?君はアンディーじゃないか、こんなところで……君も捕まったのか」
「えぇそうですよ。バロンさん。それで言いましたけど変なマネしないでください。二人の腕が真っ赤に見える。そこの少年に攻撃を加えようとすると腕が千切れるから」
バロンとイグニスは顔を歪ませアトラスを見るとニターっと不気味に笑った。
「アンディーは良い眼を持っているね。そっか残念、少しは痛めつけておいた方が、後々操りやすいけど、ま〜いいや。一応説明しておくけど、ここに居るみんなにはボクに逆らえないように拘束させてもらってるんだ。見えないと思うけど君達はこの空間に囚われているんだよ。だから変なことしないでね」
「そいつの言う通りだ。私達の身体は常に赤く見える。これはいつでも大怪我をするリスクを意味している。絶対動くなよ」
「ウンウン、説得ありがとうアンディー。そういうことだから君達は黙って見ててよね」
「見る?いったい何を……」
バロン達が疑問に感じていると、徐々に目の前が開けて行き明るくなる。そしてその意味を理解し目を大きく見開いた。
バロンには見覚えのある場所。王との謁見の間、そしてその王が座るべき場所にボルジア公爵が座っていた。ボルジア公爵は尊大な顔をして見下ろす。その先にはエリック王子とラウラ王女が居た。
バロンはそれに気が付き顔をしかめた。
(まさかここまで来てしまっていたかと………)
エリック王子とラウラ王女は武器を構え警戒しながらもボルジア公爵と話をしていた。二人は話をしながら何かを訴えたり怒っているように見えていた。
状況からして話で解決出来る雰囲気ではない。もちろん元からそんなことにはならないと思ってはいた。しかしこのままでは戦いが始まってしまう。見たところボルジア公爵しか居ないが、ボルジア公爵本人には戦闘力は皆無、その状態で一人で居るとは考えづらい。つまり伏兵もしくは罠があると考えるのが妥当だ。頼む二人共油断するんじゃないぞ!
「ふっ…ふふっ、バロンそんなに心配な顔して、どうせどうにもならないんだから楽しんだら?」
「楽しむ?一体何を楽しむと言うんだ!お前達悪魔のことだ、ろくなことは考えていないだろう」
「う〜んどうだろうな。ボクは特に何もしていないからこの後どうなるのかは分からないけど……確かにボルジア公爵はつまんない男だよね。ホント滑稽で欲望深くて……でも最後まで見ていなよ。きっと楽しいよ。えへえへへへ」
アトラスは不気味な声で笑う。その姿にバロンだけは違和感を感じていた。
「あ〜いけないいけない。しっかりと見ていないとね。みんなも目を離しちゃダメだよ」
アトラスに言われバロン達は再び謁見の間に視線を向け驚く!状況はより悪化していた。ボルシア公爵の後ろの壁にはハドリアヌス国王、ローラン侯爵、ブライアン侯爵が磔にされていた。手と足からは血を流し苦痛の顔で顔を歪ませている。そしてボルシア公爵は笑う。
その瞬間エリック王子とラウラ王女の二人は怒りに囚われてしまい。無謀にも一直線に突っ込んで行った。
ボルシア公爵の身体から黒いオーラがモヤのように上がり消える。次の瞬間悲鳴と共にエリック王子とラウラ王女は壁に叩きつけられた。痛みで悶える二人を楽しそうに見下す。ボルシア公爵はさらに二人に何かをしようと手を上げた時だった。ガコッと大きな音がして扉が勢い良く開いた。
現れたのは少年……なぜか申し訳なさそうな顔で入ってくる。そして部屋の中の状況を確認すると怒りの声をあげた。




