第388話 二人は不満でいっぱい
◆ブラックの視点
バエルは倒された。糸となった身体は完全に消滅しその姿はどこにもない。私には気配で分かる。これは『死』だと言うことを、苦戦を強いられたがなんとかタクトとの約束も果たせたし、早々に王城へ向いたいのものだが、そうもいかないか。
「バエルは完全に浄化されました。ご安心ください」
カミラさん私達の心配を察して教えてくれた。天使であるカミラさんが言ってくれれば間違いないだろう。
「そうですか……良かった」
聖女様はホッと胸を撫で下ろす。
聖女様は随分とお疲れの様に見える。バエルとは過去に色々と因縁があったようだし、少し休んで頂きたい。だけどそう言っても頑張ってしまうだろうな。仕方がない出来るだけ、私達で出来ることはやってしまおう。
「聖女様、まずは教皇様達と合流しましょう。聖杖結界が使えない今、手分けして悪魔を浄化していくしかありません」
「そうですね。………それしかありませんね……」
聖女様は聖杖結界の核となる水晶を見る。しかしそこには魔力がないことを再認識し私に同意する。
「ブラック!それではタクちゃんのところに行くのに時間がかかり過ぎるわ!なんとかしなさいよ」
ミルキーは不満を露わにする。
ぐぅっ……やっぱりそう言うよな。どうしようか、そう言われても悪魔は相当な数住民に憑依している。探すだけでもそれなりに時間がかかるのに、浄化することを考えると1日やそこらで対応出来ないぞ!
「ブラック!考えて!」
うっ……ミルキーの圧がいつも以上に強い。
そろそろ我慢の限界かも、こうなったらミルキーだけでもタクトのところに向かわせるか、タクトも怒りはしないはず、良し!そうしよう。
「分かったミルキー、ここは先に………」
「聖杖結界は使えないのですか?」
いけない!カミラさんに話を被せられて言えなかったぞ!
「そうなのです。聖杖結界を発動する魔力がないのです」
「そうですか、魔力が足りないだけならなんとかなると思います。私の魔力を使いましょう」
カミラさんあなた……天使にはそれだけの力があるということか。
聖杖結界を発動することが出来るのは許可されている者達のはずなのにカミラさんはあっさりとそれを動かし水晶に触れ何かを読み取っているようだ。
「魔力がないだけで魔術的繋がり、術の構成があるのであれば聖杖結界の発動は可能です。せっかくなのですいませんが少しイジらせてください」
「はい、カミラ様それは構いませんが、本当に発動は可能なのでしょうか?」
「ふふっ、驚きますよね。天使に転生したことで私の魔力は人であった時の十倍以上になりましたから」
カミラさん聖女様が驚いていますよ。
私達家族は以前からカミラさんと交流があったから知っているけど、カミラさんは元人間、聖女様であってもそれは知らなかったってことか、意外だな。
「ですが、流石に私一人では時間がかかり過ぎてしまいます。ここは彼女にも力をお借りしましょう。カンナさん出て来てください」
そうだ。カンナちゃんも居るんだった。
空間が歪カンナちゃんが出て来る。
ん?……様子がおかしいぞ。
カンナちゃんの顔……不機嫌そうにむくれている。
なんでそんな顔を……なにかしてしまっただろうか?
カンナちゃんはタクトのスキルから生まれた存在であるが、私もミルキーもすでに家族の一員であり娘だと思っている。その娘であるカンナがあんな顔をしているとは一大事、なんとしても機嫌を取らなければいけません。
「カンナちゃんどうしたのかな?ご機嫌がナナメのようだけど、もし良かったら相談に乗るよ」
まずは確認しよう。パパとして親身に対応せねば!
「ムッ!ブラックなんではよ呼んでくれなかったん!ウチははよタクトのところに行きたいねん」
あ!そういうことか。
「タクトは今も危険な目に遭っとるかもしれへん!きっとウチの助けを持ってるや!あ〜〜タクト待っててや〜、今すぐ相棒のカンナちゃんが行くでぇー!」
カンナちゃんは私の服を掴みガシガシと引っ張りながら訴える。
そういえばカンナちゃんもミルキーに負けず劣らずのタクトラブだった。今回の作戦を話し合うときも自分がタクトではなく。私達と同行することに強い不満を訴えていた。すでにそれなりの時間が経っている。カンナちゃんの我慢の限界に達したようだな。
「カンナさん、気持ちは分かるけど、もう少し付き合ってちょうだい。あなたの力が必要なの」
「ムゥ〜……でもカミラ〜」
カンナちゃんはより頬を膨れさせむくれ顔になる。
「気持ちは分かるわ。でもタクトくんに頼まれたのでしょ。それなら期待に応えて喜んでもらわないと、きっと褒めてけれるわよ」
カンナちゃんの表情がスーッと変わり、今度はデレデレ顔になり急激に顔が緩んでいる。何を想像しているのやら、………え!?なぜかミルキーまでデレてるよ!お前もかよ。まったく幸せな人達だよ。
しかしカミラさんのおかげで二人の不満は吹き飛んだな。これでもう少し、聖杖結界を張るまでは付き合ってくれそうだ。
タクトすまない!もう少し踏ん張ってくれよ!
父さん達は必ずタクト助けに行くからな!
私達は急ぎ聖杖結界の準備に取り掛かった。