第384話 バエル本体
◆ミルキーの視点
ブラックの指示で地面を這っている透明な糸を切っているのだが派手な服装をした女が攻撃をして来てウザい。
…………イラつく!
私は早くタクちゃんの下に向かいたいの!
今ももしかしたらタクちゃんが危険な目に遭っているのではないかと思うと居ても立ってもいられない。でも今は行くわけにはいかない。だってこの場をタクちゃんに任されているから、タクちゃんの期待を裏切ってガッカリさせたくない。
…………だからイラつく!さっさと死ね!
も〜う!早くコイツを殺す方法を指示しなさいよ!ブラック、あなたのタクちゃんへの想いはその程度なの!
そんなことを考えながら透明な糸を切り続けていたら、ブラックから別の指示が出る。
「ミルキー作戦変更だ!糸は私が切る。場所を教えてくれ!」
ふ〜ん、何か分かったようね!ブラック。
顔を見れば分かる。確信は近いのね。
それなら早く済ませないと
でもどうやろうかしら、糸の数はあと百本弱だけど、ブラックに分かるように印でも付けれれば良いけど、今は書く道具も持っていないし。
う〜ん………面倒ね!早く済ましたいし。
私は教えれば良いわけだし、ブルックに任せよう。
私は目に魔力を集中し最大出力で魔眼を発動する。
『イービルアイ……ペイン』
ウグッ!?……バエルは痛みに耐えながらも、大きく背を反らし苦しみの表情を浮かべた。
その姿を見て私は笑みを浮かべた。
「ブラック〜、サクッとお願い!」
「ん?……あぁ……了解だ!ミルキー良くやった」
二人は僅かなやり取りで意思を伝達し、ブラックは跳躍しバエルの上十数メートルで大鎌を構えた。
『デスサイズ ウインドエッジ』
ブラックは風魔法を大鎌に込めて振った。
大鎌から鋭い風の斬撃が流れる。
風の斬撃は確かに捉えた。見えない糸を……
なぜブラックは突然糸を感知することが出来たのか?
それは至ってシンプルな理由、気配を感じたから。
ブラックはミルキーほどではないが高い感知スキルを有している。しかし地面に這わされた糸は全く動かないため、気配を感知出来ずにいた。そこでミルキーがやったのは、バエルに強烈な痛みを与え激しく身体を動かせること。糸はバエルの身体と繋がっていたので、糸も僅かながら動く。そしてその僅かな揺らぎをブラックは見逃さない。
気配を感じる糸を大鎌を回転させながら次々と切って行く。
バエルは糸が切れるたびに痛みで身体を跳ねさせおり、動くことが出来ない。
ブラックの作戦は上手くいったようだと判断し、拳に闘気を集め、さらにペイン効果を付与、隙だらけのバエルに向かい拳を振った。インパクトの瞬間絶叫と共にバエルは吹き飛び壁に衝突、ズルっ…ズルっと背中を擦って腰を落とした。
◆ブラックの視点
気配を探れ!一本も見逃すな!
大鎌から放たれた風の斬撃は糸を切る。
バエルの反応から効果はあったと感じるが、悪魔は欺くもの、信用し過ぎてもいけない。ただ足踏みはもっとだ。時には思い切りも必要。
そう思ったのは、また別の可能性に気がついたから、地面を這っていた透明な糸をすべて切ったら目の前のバエルが本体から切り離されて動かなくなるかと思っていたが動いている。ここで考えられるのは糸がなくても遠隔操作が出来るのか?それとも目の前のバエルが本物なのか?もしそうならば試すべきだ!
私は行動を起こそうとしたら、先にミルキーがバエルを攻撃、ぶっ飛ばしてしまった。
「ミルキー待つんだ!それ以上攻撃をするな!」
私のスキルが知らせてくれる。
倒れているバエルから死の風を感じる。
これは自分が死ぬ前の風ではない。
相手を殺そうとしている風です!
「あぁ…あぁ…あぁ…つまんない。みんなは私のオモチャなんだよ。何勝手に動いているのさ〜死ねばいいのに…………ア〜〜ウザァイ」
バエルはユラリと立ち上がり、その濃密な殺気を私達に向けた。
バエルにはまだ余力がありそうだ。油断は一切出来ない。だが今の反応と気配で確信が深まった。今目の前にいるのがバエル本体だと。
今まで幾度かバエルを倒しているが、少しするとすぐ別のバエルが現れる。このことからバエルは何らかの方法で死を免れていることが分かる。
ここからは憶測にはなるが、バエルは常に取り憑く人間のストックを用意、地面を這わせた透明な糸を使い繋がっている。そして取り憑いていた人間が倒されると糸を通して他の人間に取り憑き、何事もないように出て来ていた。
しかし今はどうだろうか、想定とは少し違ったが、透明な糸をすべて切断、今も戻そうと隠して伸ばしているが動いていれば私でも感知し切断出来る。もうどこにも逃がしはしない。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
呪文のように唱えるバエルは狂っていた。少しすると突然ピタッと動きを止めた。バエルの身体から無数の糸が上り紡いで行く。糸は身体から離れるとそのまま倒れた。
生き物のように蠢く糸は一つの生物となり私達を襲って来た。