第379話 だから強くなり続けられる
折れた剣はサラサラと粉々になって風に流されて行った。そしてその傍らで深々と頭を下げる男。
そしてその周りに集まるバロン、スカーレット、ノルン、ジェー、イグニスが居た。
「この度は皆様には大変ご迷惑をおかけしました。この罪は何をやっても許されるものではありませんが、今ならお役に立てることがあるかと思います。どうかもうしばらくこの命、生かして頂けないでしょうか?」
「相変わらず真面目だな〜。私はお前の命を取ろうとは思っていないよ」
「バロンさんそうはいきません。私はこの国の反逆者と言われてもおかしくはない。それは極刑に相当する行為です」
「トリスタン、それは私も分かってはいる。だが現状は複雑だ。現政権はボルジア公爵が掌握しているからな、お前はそれに従った。そうなれば場合によっては私達こそ反逆者とも言える」
「そのようなことはありません。ボルジア公爵に正義は御座いません。この国は必ず取り戻させる。そうなれば……」
「あ〜分かった分かった。どうせ私達にお前を裁く権限はない。それは後で国の上層部で決めることだ。今は時間が惜しい。トリスタン今は時間が惜しい。急ぎボルジア公爵の下へ行く。案内を任せても良いか?」
「もちろんです!喜んで案内させて頂きます」
話は意外にもあっさりとついた。
そしてトリスタンの視線はノルンに向けられる。
「え!?なによ!もしかしてさっきの勝負に文句でもあるってわけ?」
「ノルン……そんなはずがない。あれはどう見ても君の勝ちだ。それは私もしっかりと心に刻み認めているよ」
トリスタンは清々しいほどにノルンを認めていた。だがそれがノルンには逆に腑に落ちなかった。
「………勝てたのは運が良かったか、お父様達の作戦が上手くハマっただけよ。剣士として私はあなたより劣っていることは分かっているから」
「ノルンは意外に謙虚だ。別に勝った!私の方が強いって言ってもいいんだよ」
「フン!イヤよ!自分を欺くみたいで、私嘘が嫌いなの!だからあなたより私が強いなんて認めないの!」
「フッ……面白い。だから強くなり続けられるのか、私も自分の弱さを認め修行に勤しむとしよう。ま〜機会が頂ければだが」
「逃げる気!さっきも言ったけどあなたは私より強いんだから、今度は真正面から倒してあげるわ」
ノルンの真剣な顔を見てトリスタンは嬉しくなって笑った。和やかな雰囲気が流れる。
…………………▽
「えーーー!!お父様そんなのイヤです!」
ノルンは叫ぶように断る。
「ノルン気持ちは分かるが、お前はもう戦える状態じゃない」
「それは…そうですけど、行けば何か役に立てることがあるかもしれません!」
「そうだね。でも足手まといになる確率大だよ!」
「えぇ〜!お父様ひどい!」
ショックを受けるノルンを見てバロンは笑い、そして真面目な顔に戻した。
「タクトくんが心配なのは分かるが、今の状態では連れてはいけない。ここでスカーレットと待っていてくれ」
ノルンの傍らにいつの間にかスカーレットが控えていた。炎のチェーンを出しノルンを縛り上げる。
「お母様ちょ!は…離してくださいませ!」
ノルンは足をバタバタとさせて暴れた。
「ノルン!私を苛つかせないで」
「はい!お母様すいません!」
火の魔法使いのスカーレットの冷たい圧にノルンはビシッと直立して動きを止めた。
「ノルン戦いは始まったばかりだ。まずは体力を少しでも回復させておくんだ。そうすればまた戦えるかもしれない」
ノルンは黙って頷く。
バロン達は城門に入りトリスタンに案内され城の中へと向かって行った。
城の中に入るとすぐに騒がしいところに遭遇する。
そこに居たのはハドリアヌス国王、ローラン侯爵、ブライアン侯爵、宮廷魔術師アルス、国王軍兵士二十人とボルジア公爵の手先になった国王軍と戦っている。
「パロンあれは」
「あ〜普通じゃない。魔物が悪魔に操られているな」
イグニスとバロンは剣を鞘から引き抜きながら向かい、近くの兵士を斬る。
手加減はしたつもりだったが、その兵士達はすぐに反撃してきた。イグニスとバロンは意表を突かれ一歩後ろに引いた。
「コイツら……面倒だな」
「あぁ、傷が再生している。それに黒いアレは何だ?」
兵士の背中に黒い玉のような物が付いている。そこから蜘蛛の足のような形の物が突き出て腕や脚に絡まる。あれが恐らく兵士の傷を治し操っている。更に厄介なことに痛みなどお構いなしに動くから反撃を受ける可能性が高くなっていた。
バロンは視線を横に向ける。
「トリスタン、ここは挽回のチャンスたぞ!良いところ見せてくれよな」
「はい!バロンさん」
トリスタンの視線が鋭くなり戦いの中へと突っ込んで行った。そしてバロン、イグニス、ジェーもそれに続く。