第377話 VSトリスタン⑤
◆ノルンの視点
「良くやったな。ノルン」
「お父様!有難う御座います!ご指導頂いたお陰です」
「フッ、そんなことはないさ。ノルンが真面目に修業に取り組んだからだ。まだまだ荒削りではあるが、剣を実戦で扱う方法を身体が覚えて来たようだな。これからノルンはもっと強くなれる。だから一つだけ私からのアドバイスだ!自分が何のために剣を振るのか、それを決して忘れるな!」
「はい!お父様」
バロンは親として、そして一人の剣士としてノルンが歩む道を示したいと考えていた。今回のトリスタンとの闘いはノルンにとって一つの分岐点になる出来事になったとバロンは思っていた。
そこにスカーレットもやって来た。
「お母様、危なげではありましたが、なんとか勝つことが出来ました!」
ノルンは緊張しながら報告、母スカーレットの反応を待つ。
「……………ノルン」
「はい!お母様!」
「アルフォード家の娘として良くやりました」
「はい!有難う御座います」
「………………………」
「………………ん?」
「どうしました。ノルン」
「い…いえ、なんでも御座いませんお母様」
ノルンは困惑していた。
お母様が褒めて終わったことに……
お母様はそもそも褒めてくれることがない。
厳しい方だとは分かっているから、それは仕方ないことだとは分かってはいるのだけれど、いつもなら褒めて頂いても必ず一言厳しい言葉も頂く。身構えていたからどうして良いかノルンは分からなかった。
バロンは困惑しているノルンの耳元でこう言った。
スカーレットは照れていると、「………はぁ?」声には出さなかったけど、ノルンには意味がさっぱり分からなかった。バロンの話ではスカーレットは今回のことを本当に認め褒めたいと思っている。だけど日頃から厳しく当たっていたせいで褒める方が分からないでいた。結果素っ気ない態度になってしまった。
ノルンはそれを聞いて可愛い人だな。と思ったが、それがしっかりと聞こえていたようで、振り返った顔が鬼に見えるほど怖いものに変わっており、この後しばらくは母を可愛いなどと思うことはなかった。
家族三人、ガヤガヤと騒がしくも幸せそうに見える。ジェーはそんな姿を少し離れた位置で微笑ましく見ていた。
そう離れた位置で、だから気がつくことが出来た。
負けを認められず。ウジウジと頭を悩ませ、結局暴走する馬鹿野郎の行動が、ジェーは剣を抜き走った。
「うがぁぁぁぁーー」
獣のように荒々しい声をあげて剣を振り上げるトリスタン。その剣はただの力押しの剣、キレも鋭さもなくただただ振り回した剣、ノルンに向けられたその殺意が込められた剣をジェーが受け止めた。
「グゥッ……なに卑怯なことをやっているのかしら、メッチャダサいから止めなさいよね〜。カッコ悪すぎよ!最強の騎士さん」
「グガァァ!」
トリスタンは吠えながら剣を押し込む。
「あらあら、中々力あるじゃな〜い。でも私も力には自信あるのよねぇ〜」
「ウボボオリャーーー!」
ジェーの腕の筋肉が一回り膨れ上がり、凄まじい筋力を発揮してトリスタンの剣を押し返す。
「ホント!馬鹿な男……『アームストロングパワー』」
技のようにジェーは叫び剣を振る。
ただの馬鹿力だが、その力は凄まじかった。
トリスタンを吹き飛ばし転がる。
「クソ!ワタシは!ワタシは!ワタシは!……」
トリスタンは狂ったように同じ言葉を繰り返す。
「そうやって、いつまでも負けたことを認められない。あなたは心が弱いのよ。だからノルンに負けた」
ジェーは淡々と言い放つ。
「ワタシが……負けた………」
トリスタンはノルンを見る。
そして剣を見た。
トリスタンはノルンとの闘いを思い出す。
剣を握り締めた手は震えていた。
トリスタンは負けを認めたのだ。
「別に負けることはいけないことじゃないし恥じることでもないわ。それを認めて今度こそ勝つぞ〜って頑張れないのがダメなことなのよ。あなたはまだまだ若いしもっと強くなれるはよ」
ジェーはトリスタンに手を差し伸べる。
……………!?
……ズッシャ
……痛った〜い!
トリスタンが剣を振りジェーの鼻先を切る。
ジェーは鼻を押さえて下がる。
「キショクワリィ〜……黙ってろ!カマ野郎」
甲高い声が聞こえた。しかしここに居る者は全員疑問に思う。
………誰の声だと?
全員周りに誰かいないか警戒をする。
「どこを見ている。ワタシはここに居る」
トリスタンはゆっくりと剣を胸の前に掲げる。
剣から強い邪気が発生した。
「ん!?……魔剣……いや、ただの魔剣ではないな。その気配………まさか…お前悪魔なのか?」
バロンは疑問に思いながらも答えを導き出す。
「悪魔か……そんなことはもう覚えてないな。ワタシはお前達人間の欲望を喰らう者だ。お前達、随分と邪魔をしてくれたな〜。コイツは良い宿主だったんだが、お前達のせえでおじゃんだ!もう少し搾取していたかったが、ま〜仕方ない。お前達の魂を頂いてチャラにしよう」
剣から禍々しいオーラが渦巻きトリスタンに纏わりついていく。トリスタンは苦しいのか叫び助けてくれと訴えるのだった。
「待たせたな。身体を完全に制御するにはこうした方が良かったのでな」
トリスタンの額には三本の角が生え、肌の色は浅黒く血管が浮き上がり脈動しているのが見えた。
『悪魔憑き』……悪魔に身体を乗っ取られた者、そしてその力は本人を大きく上回ると聞く。
私にはもう力は残されていなかった。だけど負けるわけにはいかないと無理矢理立ち上がった。