第374話 VSトリスタン②
◆時は遡りノルン特訓中
「ノルン遅い!言われた通りやりなさい。視野を広く、一点に集中し過ぎると制御しきれないわよ」
ノルンは何も答えない。
母であるスカーレットがそんなことを求めていないことを分かっているから、ノルンの目がより強く紅く光る。
『天獄の魔眼』………ノルンのユニークスキル
私の視界にある炎を意のまま操るスキル。
バロンの話ではこれがトリスタン戦で重要なものとなる。ノルンはそう聞かされていた。
スカーレットは様々な炎魔法を放つ。
弓矢、剣、鞭、それ以外にも犬や蛇等の動物の形で襲って来る。それをノルンは魔眼を使い全て小鳥に変えて空に飛ばす。
これに何の意味があるのか、ノルンも最初は教えてもらっていなかったけど、その効果は確かにあった。
…………▽
時は戻り、ノルンとトリスタンの戦い。
◆ノルンの視点
お父様の言う通り。
お母様の地獄の特訓は無駄ではなかった!
トリスタンは脚に闘気を集め超加速で移動、私の前まで来ると淀みなく流れるように腕に闘気が移動し、移動による勢いと腕力強化による恐ろしく破壊力の上がった一振りが私を狙う。
「負けないわよ!力には自信があるんだからーー!」
私は炎を剣に纏わせ、更に爆炎により超加速、トリスタンの剣にぶつかる。
キーーン等と剣がぶつかるような高い音ではなく。
轟音が響き衝撃が広がる。
「これを受け止めますか、見かけによらず力がある。だが次はどうだろうか」
トリスタンは再び闘気を淀みなく高速移動させることにより、圧倒的な速さと力を発揮する。
ノルンの側面に移動し剣で横薙ぎに斬る。
「なんだと!?」
さっきとは違い真正面からの攻撃ではない、だからノルンは完全に追いつけないと思っていた。トリスタンは驚愕する。
そして明らかにノルンが変化したことで、トリスタンをより驚かせていた。
ノルンの周りはチリチリと火花が散り、周りが赤く染まって見える。そしてその中で炎の鳥が飛び回っていた。
『紅蓮鳳凰の陣』
ノルンの目がより紅く光る。
「ノルン、見た目が派手になっただけでは意味はないよ」
「……………………」
ノルンは何も答えない。
ただトリスタンを前を集中して視ていた。
「いい集中力だ。では行くよ!」
トリスタンは腕を振り上げ上段から斬り込む。もちろんその速さも力も一線を超えていた。
来る!ここからが私が超えないとならない山場。
トリスタンには私にない速さと力を持っていることが確認出来た。ここからが修行の成果を発揮するところ。『紅蓮鳳凰の陣』……完全に使いこなしたと言う実感はないけど、お父様からは太鼓判を、お母様からはまぁまぁの言葉を頂いた。自信を持って剣を振る。
まず初手の斬撃を爆炎による超加速で剣で受けると、トリスタンは超高速で移動、今の私では追いつけない。
だけど目では追えた!
チリチリと火花を散らしながら動き出すノルン、すでにトリスタンは剣を横薙ぎの体勢になっている。普通なら間に合わない。だが、それに追いつきトリスタンの剣を弾いた。
トリスタンはそれに動揺せず、更に加速して斬る…移動…斬る…移動と連続で攻撃をする。
私はそれを全て防ぎきった。
「ふぅ〜……この技、本当に精神が削れる」
ノルンは内心ホッとしていた。
トリスタンは一度距離を置き、無言でノルンを見つめていた。
「どうしたの?もしかして、もう終わりかしら」
私は動き出さないトリスタンに声を投げかけた。
「…………いや、そんな手を使って私の剣が防がられるなんて、考えもしなかった。その鳥はブーストなんだな」
トリスタンの言葉に私はニッコリと笑顔で応える。
そう、私がやったのはトリスタンの剣に対応するために自分の斬撃を向上させた。
方法は自分の周りを飛ぶ小鳥を剣に乗せ爆炎に変え加速させる。ここで重要なのが炎の制御スピード、身体で纏っている炎は比較的速く制御が出来る。もちろんそれが出来るようになりにもそれなりの訓練がいる。でもさらに難しいのが剣等の武器や道具に纏わせること、制御性は悪くなるから動作が遅いし、剣を纏わせた時点で魔力を消費し威力も下がる。
だからトリスタンには通用しない。
そこでお父様とお母様が考えたのは『天獄の魔眼』を活用した技。視認している炎を自在に操れるスキルで武器以上に扱いが難しい鳥に模した炎を制御し、剣を振るたびに鳥を剣に乗せた。
はっきり言って無茶な技だと思う。
無理やり動かしてるから自身の身体にも負荷がかかって痛い。正直やってらんない。
でもこれしかなかったと今なら思える。
トリスタンの剣技は最強の騎士と言われるだけのことがあった。私よりずっと強い。だから工夫しないと勝てない。まずはそれを認めよう。
そして後は特訓を思い出して全力を尽くす。
私は飛んだ。
鳳凰のような火の鳥となって……