第370話 お婆さん………いっぱい!?
「ヒェヒェヒェ、お嬢さん大人しくしていてくれんかの〜、儂らは戦いとうない」
フタバと言うお婆さんに同意するように他のお婆さん達は「そうじゃそうじゃ」と騒いでいる。
このお婆さん達からは敵意を感じない。
この霧を発生させているのはこの人達で間違いないと思うけど、案外話したら分かりあえるかもしれない。
「あの〜お婆さん方、お話させてもらえますか?」
私はおそるおそる話しかける。
「え〜よ。お嬢さん、若者と話すのに飢えたババアばっかりじゃからな〜。うへぇへぇ」
「何を言っておるムツバ、わしゃ〜静かに一人でいたいタイプじゃ」
「よう言うわ!ナナハ、フタバが子供達と遊んでおる時、羨ましそうに眺めておったのを見ておったぞ」
「な!?なにお〜、そんなことないわ〜」
「ほーそうかの〜、ウヘッヘッ」
「えーい、笑うてないわ〜」
「や、やめい。本当のことじゃろ〜が!」
ムツバとナナハと言うお婆さんが言い争うを始め、取っ組み合いに発展する。え!?これ……どうしょう。
「お二人共落ち着いてください。話がしたいんです。今は争っている場合では……」
私は二人を宥めようとするが、一向に収まる気配がない。そもそも私の声が聞こえていなさそう。
「放っておいてええよ。お嬢さん、ムツバとナナハはいつもあんな感じだからね。話は私が聞こう」
「ありがとう。私はキョウカと申します。あなた達とはたぶん目的は一緒だと思うのだけど」
「ご丁寧にありがとう。私はイチハと申します。私達はこの城壁の結界を解いて城内の兵士を惑わして時間を稼ぐように頼まれているだけだから、目的は詳しく分からないの。ごめんなさいね。だからバクラ達が今何をやっているか知らないのよ」
「そうなのですか、でもそれなら何でバラクに従っているのですか?王城に攻めるなんて大それたこと、捕まれば死刑になるかもしれないんですよ」
「そうですね。私達はスカイ家に代々仕える一族、かなり昔に大恩が御座いまして、もしものことがあれば命を賭して戦わなければならないの、それに老い先短い私達なら幾らか無理も出来るのよ。お嬢さんは帰った方が良いんじゃないの?」
「いえ、私も逃げるわけには行かなくって、そのスカイ家とバラクがどう関わるのですか?」
「あら!ごめんなさい。答えになっていなかったわ。
バラクもスカイ家に連なる者。スカイ家のためと言われれば行かなければなりません。アペトス様、クリュメネ様に恩返しするために……」
イチハは悲しそうな表情にかわり、いつの間にか他のお婆さんもこちらを向きお互いを慰め合っている。
どの様な恩が彼女達にあるかは知らないけど、本当に大切に思っているのは感じれた。
「そうですか、でも王城に攻め込むことがどの様な恩返しに繋がるのでしょうか?バラクはボルジア公爵を倒してスラム街の住民を守るのが目的だと思うんだけど」
「そう、その通りです。スカイ家の当主だったアペトス様はスラム街の管理を任されておりました。アペトス様はとても優しい方でした。貴族の方にも関わらずスラムの住民に対しても分け隔てなく話をしてくださった。仕事のない者には仕事を斡旋し、働くことが難しい怪我人や老人、そして子供達のために養護施設まで建ててくれました。国からも大した補助も出ない中、自らの身を削ってまで捻出してくださる。本当に本当に優しい方………おのれ〜国の馬鹿どもめ〜、スカイ家の皆様をよくも苦しめおって〜許しまじ〜」
お!お〜……え〜
私は引くほど驚く。
イチハさんは喋っている間にだんだん思い出し、怒りがこみ上げて来たようで、最初は優しいお婆さんだったけど、今は山姥の如く恐ろしい顔に変わってしまった。
「これこれイチハ、気持ちは分かるがお嬢さんが驚いておるじょ!ちょっとは落ち着かんかい」
私がどうしようかと悩んでいると、顔が一緒で誰だか分からないけど、お婆さんの一人が収めてくれた。
「あ〜!すまんヤツハ、ついついの〜。喋っている間に我慢できんくなったわ。お嬢さんも驚かせてすまなんだ。許しておくれ」
「いえ、そんな、気にしないでください。それだけ素晴らしい方と言うことですね。是非一度お会いしてみたいです」
「それは…出来んのじゃ………」
言葉を詰まらせるようにイチハは話をする。
「アペトス様は亡くなられた。妻のクリュメネ様も……殺されたのじゃよ。国王軍に」
「国王軍?なんでそんなことを」
「イチハ、決めつけはダメ!証拠は何もないのよ」
「ゴヨウ、しかしそれ以外考えられぬ。アペトス様達が強盗なんぞに襲われるわけがない。それに何より負けるはずなどあり得ないのじゃ」
「うむ!…………アペトス様は強い、その辺の賊が束になっても勝てるものではない。我らも散々考えて分かっておることじゃが、だからと言って国王軍がやったと言う証拠はないのじゃ……無闇なことは言うでない。我らがアペトス様の意思を継いで行こうぞ!」
イチハは不満そうな顔をしていたけど、何も言わずに頷く。
この話根が深そうだけど、今はあまり関係はなさそう。このお婆さん達とバラクが協力して王城に攻め込んだのは分かったし、これで敵対する必要がないのも分かった。力を貸してくれるかは分からないけど、このままタクトを追いかけられそうね。
私は次にやるべきことを考えていたせいで、一人のお婆さんが呟いた重要な言葉を聞き逃してしまう。
「せめて…せめて、アトラス坊ちゃんが生きておれば良かったのじゃがのう〜……………」