第362話 子は母に弱い
◆ブラックの視点
私は考えていた。
現状教皇の拘束は難しい。それを理解したうえで、次に考えること、それは教皇を操っている何らかの術、それが何なのか?どうすれば解けるのか?思い出せ、何かおかしなところはなかったか?……かつて戦った者また常闇の者にも人を操る術を持っていた者は居た。教皇の状況で似ているもの?おかしなところはなかっただろうか?………違和感……ほんの少しの違和感がある。すべての操る力ではない、だがほとんどの場合、操られた者は本来の力を発揮出来ない。それはなぜか?それには幾つもの理由があるが、まずその前に、人を操る方法は大きく分けて二つ、肉体を操るか、それとも精神を操るか、肉体を操る場合、本人の意志と関係なく動かすことになり抵抗されれば当然動きが抑制される。精神を操られた場合、肉体を十全動かすことは出来ても動かし方や他にもスキルの発動が上手く出来ず、これもまた力を発揮出来ない。それぞれ問題があり時間をかけて問題を排除すれば上手くいくかもしれないが今回は違う。
「教皇様の動きには迷いがない。これは本人の精神と肉体が一致しての動きに思える。………それはつめり操られていないことに……………ん?まさか!?」
そこで一つの可能性に思い当たる。
教皇様は間違えている。
誤認させられているのではないか?
思い返して見ると教皇様が暴走し始める前に何かされていなかったか?確か教皇様はバエルを殴り飛ばしたあと反撃を受けて顔を触れられていた。あの時に何かされている………
教皇様の顔を見る限り何かされているようには見えないが、何かそこにあるのか?確かめる必要がある。
少し荒っぽくなるけど……教皇様これも平和のため我慢してください。
私は心の中で謝罪しミルキーに指示を出す。
「ミルキーやります!動きを五分止めろ!」
「分かったわ!
そこからの動き出しは早かった。
ミルキーはイビルアイで右足を見る。教皇は我慢強いので魔力を込め痛みの威力をアップ、たまらず動きを止める。その隙にミルキーは一気に接近、しかし流石は教皇様拳を振って反撃、それをミルキーは躱さず敢えて両手で受け止めると、出力全開でペインを発動、痛みを流し込む。これには堪らず教皇様も両膝をつく。
チャンスだ!
私は風に乗り最高速度で移動、教皇様の前に立つと、取り出したのは絆創膏それを顔面に張り付けた。
「な!?何をしやがったアアアアアアア…………」
教皇様はミルキーのペインを受けているにも関わらず暴れる。普通なら指一本動かせないほどの痛みなのに、流石です。ですが予想はしていたこと、大変大変申し訳ないですが、その都度動きの鈍った教皇様を殴る蹴ると暴行、ほとんど拷問に近い所業、幸いなことに一騎当千不滅の闘気のおかげで怪我は治る。
「アアア」
「コノヤロー」
「アギャーー」
「コノヤロー」
「うげぇーー!」
「コノヤロー」
五分経てば効果が出ると思うんだが、タクトが言うには絆創膏は正確には回復の道具ではない。結果治っているだけだ。ある一定の空間の時を戻す能力、聞いただけで恐ろしく強力な能力だなタクト………つまりだ。教皇様の顔面についた何かを絆創膏なら取り除ける!ただ問題が一つ……教皇様の精神が持つかだけは不安だ……もしも解けたとしても教皇様は……いやいや今は考えるのをやめよう。続行だ!
……………▽
それから五分が経過
私の記憶では顔を触れられたのは四分ほど前、もう解けているはず。
「ミルキーもういいぞ!」
「えぇ……でもちょっと遅かったかも」
「うっ……確かにそう見えなくはないな」
私とミルキーは倒れている教皇様を見下ろす。
教皇様は身体をピクピクと癇癪している。顔を見ると白目でよだれを垂らしていた。信者が見たら私達は殺されるかもしれない大惨事に、私達はどうしようと悩んでいると、こちらに歩いて来る者がいた。
「ヴォルフ団長……無理はしない方が良い」
「うん……あ〜お気遣いありがとうよ!だが大丈夫だ!
やることやったらすぐ寝る」
ヴォルフ団長はそう言って私の制止を聞かず教皇様の傍に行くと、膝をつきコツンっと教皇様の額に拳を当てる。
「起きろよ!おっさん聞こえないか?」
「………………」
教皇様はピクピク………反応はない。
「おっさん勝負だ!かかって来い!」
教皇様はピクピク………反応はない。
ヴォルフ団長なりに考えて声をかけてくれてはいるがダメそうだ。とにかく動きは止められた。戦力として目を覚ましてはほしかったが、そこまでは望み過ぎだろうと諦めようとした時だった。
バンッと大きな音を立てて教皇様が立ち上がった。
何が起こったんだ!?
いや!待てその前に確認しないといけないことが!
「教皇様そこに居るヴォルフ団長は分かりまずでしょうか?」
「ん?どう言う意味だブラックさん、そんなの分かるに決まってるだろ。こんな凶悪な顔そうそういないぜ」
「あんたにだけは言われたくないけど目は覚めたみたいだな?」
ガッハッハーと笑う教皇様にヴォルフ団長が疲れた顔をする。少し不満だったのだろうヴォルフ団長は教皇様をコツクと「何するんだ!」と怒り、ヴォルフ団長の姿を見ると「どうした〜!大丈夫か〜!」と心配して騒ぎ出す。
フッ、この様な方がイリス教のトップですか。悪くはないかもしれませんね。
私はつい笑みをこぼしてしまった。
どんな方法かは分からなかったが教皇様をもとに戻せた。これは最高の結果と言える。しかし気になるどうやって起こしたのか?
私はミルキーに聞いた。
ヴォルフ団長は一度大きなため息をついてから言った。「聖女様がご飯が出来たから起きて来いって言ってるぞ!」すると「何!?母ちゃんの飯!」と言って教皇様はムクッと立ち上がったそうだ。
子は母に弱いと言うことかもしれない。