第361話 ブラック夫妻
◆ブラックの視点
相手は武闘派で有名な教皇様、力だけではなく速さも兼ね備えた身体能力、まともに相手をしているとこちらがあっさりと殺られかねない。罠に嵌めて拘束するか、それとも操られている原因を解き正気に戻すかが無難だろう。
教皇はブラックに向かって拳を振る。まるで大砲のような剛腕、当たれば骨折は覚悟しないといけない。距離を取りつつ躱すが、そこから腰を上手く使い流れるように軌道修正、拳が伸びてきた。
威力は落ちているだろうが、そのまま受けて良いものではない。私は拳の速さに合わせて手のひらを添える。
拳を掴むと身体だけ反らし、拳を躱して教皇の顔面に蹴りを入れた。
ドスッと鈍い音がした。蹴りは当たった。それにも関わらず教皇はニヤリと楽しそうに笑う。
この程度では蚊が止まった程度にしか感じないのか、やはりタフでやりづらいですね。
「ミルキー、あなたがメインで私はフォローに入ります。いいですか?」
「初めからそのつもりだから問題ないわ。早く終わらせましょう。タクトが心配」
「フフッ、そうだな。親として子の面倒はしっかりとみないとな」
相変わらずミルキーは息子のタクトのことでいっぱいか、少し妬けるな。
ミルキーはすぐに教皇に向かって行く。
『空撃』
ミルキーの動きを止めようとけん制したのか、教皇は拳を振り空気を弾丸のように撃ち出す。
ミルキーは圧倒的な感知能力と敏捷性でそれをジグザグと交互左右に動き躱し抜けた。
なぜか嬉しそうな顔をした教皇は、今度は直接殴りに来る。それをブラックと同じように手のひらを当てがってミルキーは躱さなかった。
「痛ったーー!?」
触れた瞬間教皇は叫び身を引く。すると顔面がら空きとミルキーの右ストレートが決まった。
ふらつく教皇。
私は一言すいませんと言って両足の腱を切った。
前のめりで倒れ四つん這いになる教皇。
「しばらくそこでお待ちください」
私は動けなくなった教皇を拘束しようと、魔道ショップで買った道具を出そうとした瞬間、ゾワッとした。ほぼ無意識にバックステップ、右腕に激痛が走り顔をしかめた。
動けないはずの教皇の拳が右腕を直撃していた。
私は距離を取り、即座にダクトに渡されていた絆創膏は張った。
「なぜですかね〜」
とは呟いてみたものの操られている教皇には聞こえないか。
「フン!油断したな!私に怪我を負わせたことは褒めてやるが、私の身体は不滅よ!」
教皇は自信満々で言う。
確かに丈夫な身体をしているのは知ってはいるが、怪我が治るとは、これが噂に聞く一騎当千不滅の闘気ですか。
ごく一部の者のみがその力を覚醒させる。条件は三つ、上級回復魔法を扱え者、極大闘気 (千を超える魔力)を扱える者、そしてその二つを同時に扱える者、この者はあらゆる戦に於いて負けることはなく倒れることもない。まさに超人である。
「厄介この上なし、今一番相手にしたくない人かもしれません」
今の私としては面倒過ぎる。
私のスキルは殺しに特化したもの、手加減はするが力の調整が難しい、しかも相手が武術の達人ともなればそんなことを考えてもいられない。そして最も厄介なのが一騎当千不滅の闘気、怪我を負っても瞬時に回復し致命傷が致命傷にならない。どう考えても時間がかかる。
「どうしたもんですか、いっそ殺すというのも……」
ダメと分かっていても口に出てしまった。私はどちらかというと止める側なのだから。
「ミルキーやり過ぎるなよ!」
「分かってるけど、加減具合が分からないのよね。タフそうだから強めで良いと思うんだけど………」
うっ……ミルキーの顔か一瞬何か企んでいるように見えた。これは手加減しないつもりかも…………ヤバい!
ミルキーの目が怪しく光った。
『イビルアイ』……見るだけで相手に痛みを与える。
「あ!痛ててててて……」
教皇は痛みで腕やら脚やらを押さえて痛がる。
「隙あり!」
「ぶへぇ!?」
ミルキーは教皇とか関係なく慈悲のない上段蹴りをまたしても顔面に喰らわした。
しかし教皇は倒れない!
傷も癒え、ダメージも皆無と言っていい。
攻め方を考える必要があるな。
「ミルキーちょっと任せます」
「分かったわ!」
私は一言言えば分かる。
多くの戦いを共にした夫婦なのだから………
ミルキーは時間を稼ぐためにイビルアイで牽制しつつ教皇の猛攻を躱す。私は追われていた頃を思い出す。いつもそうだった。ミルキーが動き。そして私がが考える。それですべてが解決した。誰にも負けはしない。特に息子を持った私達夫婦はね!
タクトとの約束を守り!
私達はタクトを守る!
そして私達の幸せで平穏な生活を取り戻す。
それを邪魔するヤツは私達夫婦が死神となってお前達の命を刈り取るだろう。




