第360話 あなたをやっと殴ることが出来ました
「お前誰だか知らんが変なこと言うなよ。私が住民を殺しただと?そんなことするわけないだろ!このペテン師野郎が!ぶっ飛ばされてぇーのか!」
グルガ団長は激高しピエロ姿の男を威圧した。
「ん〜……心地良い!スッキリさせてくれてありがとう。お礼に良いものを見せてあげます」
ピエロの男がパンっと手を叩く。
響いたどこまでもどこまでも響いた。
手の音ではなく。………叫び声が………
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア………………」
絶え間ない悲しみの叫び。
ピエロの手の音でグルガの景色が一変した。
腕曲げ、足が切断し、頭をかち割って討伐した魔物が徐々に歪み変化する。それは人…人…人…大人…子供…男…女…………みんな恐怖や悲しみで歪んでいた。
グルガには自分を睨んでいる恐ろしい顔に見えた。
お前を許さない。殺してやる!と………
俺は何を切った?
魔物を切った?そう魔物を………
「いや〜見応えのある殺しでした〜。止めてよお兄ちゃんと泣いて逃げる少年を後ろから見事に頭をかち割る。か〜私!感動しました!ニコッ!」
「あ…あ…あれ…あれあれは……はっはっアアアアァーーウガァーーヤメロヤメロやめてくれーーー!」
クルガ団長が見たものは、頭が真っ二つに割れ倒れている少年………グルガ団長の弟だった。
クルガ団長は狂ったように叫びながら近くのものを壊して暴れた。聖騎士団の皆が声をかけても止まらず、無理やり押さえつけようとしたが止まらなかった。彼は三日間暴れ続け、突然事切れたように動きを止め動かなくなった。その後彼の心は元には戻ろなかった。最後には自らの腕で首をへし折り自殺した。
あまりにも悲しく異様な死であった。
そのピエロの格好をした男は各地で報告を受けることになる。聖女メリダもまたこの男に幾度と会い、そして悲しみを背負うことになった。
ゴエティア九王の一人…バエル。
自分にとっての楽しみ。
人を貶めることを幸福に思う化け物。
メリダにとって最も忌むべき悪魔と言えた。
…………………▽
「ここであなたを倒します!」
聖女メリダ一歩一歩と進む。
「わーい!嬉しいな〜聖女様にそんなことを言われるなんて、うふふうふふどうしよっかな〜。聖女様はいつも良い顔してくれる。私の楽しみでしたが、そろそろ我慢の限界かもしれません」
バエルの顔が今までにないくらいニヤリと酷く醜悪に笑った。
「あなたの信念がこもった強い眼光…顔つき……うふふ…ハハッ、考えるだけでもヨダレが出そうです。そんなあなたが絶望して死んだ姿が見たい。ジュルッ!」
バエルは聖女メリダを舐め回すように見る。
獲物を狩る目………違う。
性からくるいやらしい目………違う。
暴力を振るうギラギラした目………違う。
混沌とした濁った目、ドロドロと僅かに光が見える。
「あなたとはもう話が出来るとは思っていません!行きます!」
聖女メリダから白く澄んだ魔力が放出され、魔力が天井へと昇って行く。
『ホーリーレイ』
光が部屋全体を照らし出す!
悪魔が最も嫌う光属性の魔法。
悪魔であれば一瞬で浄化し消えてなくなる。
それが普通で当たり前の威力がある。
しかしバエルは何事もないように立っている。
「やはり…この程度では効きませんか?それではこれでどうでしょう」
『戦いの歌………バトルソング』
力強い声が響き渡る。
身体が熱くなり内から力が湧き出て来た。
はぇ?……バエルから驚きの声が漏れる。
目の前で高速でお年寄りが動いていた。
次に気がついた時には拳が顔面にめり込み。
鼻血を出してゴロゴロと後方に吹き飛んでいた。
聖女メリダは殴った拳を見てさらに強く握りしめ想いを込める。
「あなたをやっと殴ることが出来ました」
「アタタ、普通人を殴って言うことじゃないですよ」
バエルは鼻を押さえ首をグルングルンと振って立ち上がる。押さえた手を離すと怪我は治っており不気味に笑う。
「あなたに届かせるために鍛えました。是非とも受け取ってください」
「うげげ!もしや私のためにそのような野蛮な拳を聖女が振る!?アハ〜良いです!執念を感じます」
なぜか光悦するバエル。
横から誰かが近づいて来る。
「あなたなら当然そうしてくると思っていました。あなたを嫌悪します」
横を見ると教皇が拳を構えていた。
「今度は私と教皇を戦わせて殺し合いをさせる」
「イリス教の二人のトップが殺し合うだけではなく親子と言うオマケ付きです。これは見応えがありそうです」
教皇が拳を振り上げ聖女に殴りかかる!
「これはいけませんね!」
「親子喧嘩断固反対!」
二人の間に割り込む者が現れ教皇を退ける。
一人が風の力で教皇の拳をいなすと、もう一人が隙をつき飛び蹴り吹っ飛ばす。
「ありがとう。ブラックさん、ミルキーさんご協力お願いしますね!」
「えぇ、もちろん!こちらは任せると息子からも言われていますから」
「親子を喧嘩させるとか………私が本当の痛みを教えてあげます」
ここにブラック夫妻が参戦した。