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第359話 率先して殺ってくれました


 楽しければ良い。

 あの時もそのようなことを言っていました。

 

 今から三十年前のこと。

 私が聖女に選ばれ信者からも認知された頃、私も自身の力に自信を持ち、その力を持って世界を平和にすると。そんな希望に満ち溢れていた。


 そしてバエルと関わったことで……


 その希望は一度打ち砕かれる。


 あの日は聖都マーリンから少し離れた町トラウトンで多くの魔物が発生し、先行で第五師団聖騎士百数十人で向かった。聖女メリダは後から第一師団共に向かう。


 聖女メリダは第五師団から魔物討伐に成功したとの伝令を受けていた。しかし報告によれば討伐には成功したものの多くの怪我人と魔物の毒を受けた者が多数いることを聞き急ぎ向かっていた。


 聖女メリダ達がついた時には第五師団の半数近くが動けず、他の物が手当てを行っていた。


 第一師団の多くは治療魔法の使い手で構成されており、すぐに怪我人の治療を行う。中には毒で瀕死になっていた者もいたが、聖女様の奇跡の魔法によって持ち直すのであった。


「この様な場所まで御足労頂き感謝致します聖女様」

 大斧を背負う屈強な戦士が片膝を突き頭を垂れる。


「良いのですグルガ団長。本当にお疲れ様でした。そう言えばあなたはこの町の出身でしたね」


「はい!私はこの町の皆や家族を守れる力を欲して聖騎士団に入りました。この町が魔物に襲われたのは悲劇的なことでありますが、誰一人として死ななかった。ほんの少しですが自分が誇らしくも感じております」


 グルガは嬉しそうに笑っていた。

 それなのにあんなことになってしまうとは。


…………▽



「グルガ団長、この町を襲った魔物ですが、かなりの数が突然現れたと聞きました。討伐してからまた新たに現れるということはありませんか?」


「はい!我々ですべて倒すことが出来たかと」


「そうですか、それではその魔物を見せて頂けますか?その魔物……毒を使ったのであれば死骸とはいえ危険かもしれません」


「お!それはいかん。過去に魔物の死体が疫病を蔓延させたと報告を受けたことがありましたわ。すっかり忘れておった。聖女様がおられまして助かりました」


……………▽


「聖女様こちらになります」

 

 グルガ団長に先導され聖女様と魔術師十名で向かう。場所はこの町の中央にある広場、普通の日常であれば子ども大人飛ばず多くの人達が休息や交流などをして過ごす生活の一部となる場所。


 今は魔物が発生したため町の者は避難し、倒した魔物が乱雑に転がっているとのことだった。



 そう()()()………



「聖女様、浄化を宜しくお願い致します」

 グルガ団長は視線を正し真剣な目で願い出ていた。



 しかし、グルガ団長は皆の反応がおかしいことに気がつく。何か見てはいけないものをみているような。

驚き、恐怖、悲しみ、様々な表情に動揺しつつも声をかけた。


「あの〜どうしました?もしかして数が多かってですかね〜。結構面倒なんですか?」


 遠慮がちに話す姿はとても異様に見えた。


 グルガ団長あなたには見えていないのか?


 ………この惨劇が!




 広場には多くの人達が倒れていた。

 見れば分かる。誰一人として生きていない。


 大きな血溜まりを作り、腕が斬られた者、足がもげている者、頭がかち割られている者、とても直視出来ない状況に医療班として来た魔術師ですら目を逸らしていた。



「グルガ団長……一体何があったのですか?」


「あ…え…何がとは何のことです?皆も動揺されているようですが、一体なんのかとか分かりません」


 本当に分からない。そんな顔をしていた。

 

 ここに倒れている者達は恐らくはこの町の住民、大体二百人は死んでいる。一体誰がこんなことを……


 グルガ団長には見えていない。

 だから何も知らない。

 でほその犯人はどこに?


 ゴソゴソ……バサッ………

 死体が動いた?

 

 死体が重なり倒れていた塊が動き、死体をのけて這い出る人影が見えた。


 もしや生存者?

 

 でも違う。明らかにここの住民ではない。


 チグハグでグチャグチャで統一性が全くない服装をしたピエロが立ち上がりこちらを見る。


「あ〜よく寝た。やっぱり死体の布団は良いです!死んでから徐々に体温が失われてくるのを感じると実に心地良い!是非ともあなた達にもオススメしますよ!」

 

 ピエロはニカッと笑う。


 あまりの異常な姿、言動、確実にこの死体の山の関係者、全員が警戒する。


「ん?どうしたんです。そんな顔をして、人生は一度きり楽しまなければいけません!さ〜皆さんも楽しみましょう」


 こちらの警戒などお構いなし。べらべらとこちらに話しかける。


「あれ?あれれれれ〜?もしかしてそちらに居られるのは聖女様では御座いませんか?」


「……………あなたは何者ですか?………ここで何をしているのです」


 聖女メリダは内心動揺していた。

 見るだけで吐き気がする。目眩がする。

 かつてこれほど嫌悪した存在にあったことがない。


「いえね!この町に着いたら急に眠くなっちゃいまして、寝るところないかな〜と思って周りを見たら、良さげなのがいたんでチョイと拝借を〜……」


「そ…それはあなたがこの町の住民に手にかけたと言うことですか」


「いえいえ滅相もない。私でも面白くないですもの」

 ブンブンと手を振って否定。

 それでは一体誰が………


「そこのゴッツイ人が率先して殺ってくれました〜」

 にぱーっと晴れやかな笑顔で見ている先にはグルガ団長が居た。………それはどう言うことなのか?

 

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