第356話 大聖堂と信者達
「おい!これはどう言うことだ!」
ビキビキっと青筋を立てるセルギウス、そして頭に大きなタンコブを作ったアポロンが頭を擦りながら頭を下げる。
「あーーいや……親父ならいけると思ってさ〜。余裕だっただろ」
「いけるか!バカもん!あんなに速いゴリラを相手に恐怖しかなかったわ!何が最低一分、出来れば三分だ!五分経っとるじゃないか~」
そう。アポロンは予定していた時間よりだいぶ長く祈っていた。
「だってよ〜親父と戦っているあの野郎の姿を見たら、想像以上にタフそうだったんだよ」
うぐっとセルギウスは押し黙る。そのことは闘っていたセルギウスが一番納得出来てしまったからだ。
「分かった。もう言わん。助けてもらったしな」
「ふぅ〜それで次はどこに行く」
移動をしようとするアポロン。
「ま〜待て!戦いの中ではあるが焦りは禁物だ。まずはタクトくんに頂いた絆創膏で大怪我をした部位だけ治してから行くぞ」
「そうだな……」
セルギウスの対応は正しかった。
アポロンは闘争心が高まり気づいていなかったが、『裁く者』の反動で身体の骨に何箇所もヒビが入っていた。
アポロンとセルギウスは一時戦線を離脱し治療を行う。
ルナ、アポロン、セルギウスの奮闘により、大聖堂前の戦闘はなんとか均衡を保っていた。
…………………▽
そして大聖堂内。
こちらもまた苦戦を強いられることになっていた。
聖女様一行が大聖堂に入ると多くの信者が待ち構えていた。悪魔に取り憑かれている。誰しもが外の状況を見たあとではそう思った。しかし聖女様だけはそれを見抜く。
「皆さん手を出さないでください。信者の方々は皆正気です。恐らく何者かによってここに集められたのでしょう」
ここに集められた者は怯えた目をしている。決して正気を失った目ではなかった。
「これは……操られているのか?」
教皇は鋭い目つきに変わり聖女様に質問する。
「そうですね。恐らくは、どのような方法をとっているのか分かりません。仕掛けて来ても手心を加えてください」
「はぁ〜嫌な戦いだ。なんで戦意のない相手をしないといかんかね〜」
教皇はため息をつき愚痴った。
誰かは分からない。信者の一人が叫ぶと一斉に襲いかかってくる。その者達を剣や斧などの武器を持っているが、扱うだけの技量もなく倒されていく。
脅威ではない。だが!倒されていく者達の痛みや苦しみの声を聞くたびに戦意を失っていくのを皆感じていた。
「嫌な戦い方をさせる。性格ねじ曲がってるわね!」
「そうですね。腹が立ちます。ですが冷静さを失わないでください」
ラキが怒りを滲ませながら信者の男を投げ飛ばし、ティアがラキを宥めながら男を光の輪で拘束する。
そんな戦いが続き、最後の人を倒した。
「これで最後なの〜」
「良くやったわねアイリス」
「ティア、ワタシプンプンなの!」
「えぇ私も、これは許してはいけませんね」
頬を膨らませて怒るアイリスを、ヨシヨシと撫でて落ち着かせようとするティア、しかしティア自身も怒りを抑えていたが、表情に出ていたことに本人も気がついてはいなかった。
パチパチパチっと手を叩く音が聞こえ、その方向から二十代後半くらいのメガネをかけた男が現れた。
「いや〜どうもどうも、皆様お揃いのようで!私緊張してしまいます〜」
調子のよさそうな言葉に皆苛立つ、しかしティアはその男と会っていたおかげであまり気にせず話しかけられた。
「ポーラン司教無事だったのですか!」
「あら、またお会い出来ましたね。ティアさんお元気そうでなによりです。それでこの状況はどう言うことですか?信者の皆さんにそのような仕打ちをするなんてひどいな〜」
「いえ、これには理由が、恐らく何者かに操られています。今は暴れないように拘束を……」
「おう!?そうなのですか!それは大変だ!私も手伝いましょうか!」
ポーラン司教は軽い足取りでこちらに来る。
「ポーラン司教一つ質問しても宜しいですか?」
聖女様がに声をかけられ、こちらに向かってくるポーランは足を止める。
ポーランは何を言われるのかと緊張した面持ちで聖女様を見る。
「………あなたポーランですか?」
すぐに聖女様の言葉の意味を誰もが理解するのにワンテンポ遅れた。そして言われた本人もポカーンとして目をパチクリさせて理解出来ていなさそうだった。
聖女様の言っているこの意味。
それはポーラン司教の偽物であり、悪魔ではないかと言うこと。もちろん何をもって言っているのか分からない者は警戒するしかない。
「え!?ちょっとお持ちください聖女様、何か私におかしなところがありましたか?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「あら…それはないですよ〜聖女様、ご冗談が過ぎます」
「ポーラン司教すいません、あなたの登場が怪しく見えまして、声が聞きたくなりました」
「ん?話を聞きたいではなく。声を聞きたいとはどのような意味でしょうか?」
「ポーラン司教、あなたとお話するのはいつぶりでしょうか?」
「はいはい、覚えています。半年前にゼーラント大司教がおっちょこちょいにも聖女様に頂いた大事な聖杯を落として壊してしまったのがバレた日で御座います」
「そうです。あなたが正直にゼーラント大司教が酒で酔い大暴れして踏みつけて壊したことを教えてくれたのです」
「そうなんですよ。あの時はゼーラント大司教が必死に誤魔化そうとしていたのを聖女様は優しく声をかけたのです。飲み過ぎには気をつけてくださいと、ま〜ゼーラント大司教は相変わらずでしたが」
「……………やはり違います。あなたはポーラン司教ではありません」
「え!?そんな!私が言っていることは間違っていない」
「えぇ…合っています。ですが声がおかしいのです。あなたの声の波長が以前と違う。そして嘘をつきました」
「わ、私がいつ嘘をついたと言うのです!」
「ではもう一度聞きます。………あなたポーランですか?」
「…………それが嘘だと、根拠は声だけなのですね」
「はい。それだけでは納得出来ませんか?」
「はい……ですがもういいです。どうせどっちでもいいですから」
ポーランの表情は仮面のように能面となり、それと同時に戦闘態勢に入った者が次々と捕まっていった。