第333話 赤い実
「アトラス……あの少年か」
昔一度だけ会ったことがある。あれはアイリスがゴエティアに攫われ救出に行った時、森の中でニコニコと無邪気な笑顔をしている少年に会った。それがアトラスだった。ゴエティア九王の一人でもあり悪魔パイモンの契約者、俺には普通の少年に見えたけど、得体の知れない雰囲気もあった気もした。
アンデラはアトラスを王にしたいと言っていた。つまり今回の騒動、王都の反乱にボルジア公爵によるハドリアヌス国王の暗殺、そのすべてがアイツが裏で糸を引いていた。……そう言うことなのか?断言は出来ないけど警戒するべき敵は分かった。
「タクト大丈夫か?あまり考え過ぎるな。周りのみんなを頼っていいんだからな」
「父さん大丈夫だよ。別に思い悩んでいたわけじゃないんだ。今回のことで色々と分かって来そうな気がする。だから次にどう動くべきか考えていたんだ」
「そうか、それなら良いが、私もタクトに話したい情報がある。私も一緒に考えるからまずは一度家に帰ろう」
「うん!帰ろう。我が家へ」
俺達は目的の父さん達を探し出し救出することが出来た。そしてソウルフロンティアに戻る。
……………▽
「おかえり、待ってたよ」
「バロンさん……なんでここに?」
俺達はソウルフロンティアに着くと、今日は休むことにして、それぞれ帰路につくことに、俺に父さん、母さん、ニキ、エメリアにカンナが帰るとバロンさんが家の前に座っていた。
「そろそろ戻るんじゃないかと思ってね。待っていたんだよ。その様子だと無事にみんな無事のようだね」
「はい、ま〜だいぶ苦労はしましたけど、はぁー疲れた」
「珍しいね。タクトくんがそんなに疲れた姿を見せるなんて」
あ!ヤベッ!つい素が出てしまった。今回は地獄なんかに行ったから精神的にも肉体的にも疲労が溜まり過ぎて気が抜けてしまっていたみたいだ。
「いや、すいません。つい……」
俺は申し訳なさそうにする。
「どうしたんだい?フッ…そんな顔しないでくれ、私としては嬉しんだから」
「嬉しい……ですか?」
俺の頭には疑問符が浮かぶ。
「少しは私にも気を許してくれたかと思ってね。主従の関係が長かったから、どうしても残ってしまうとは思うが、もっと気楽に接してくれると私としては嬉しいんだよ」
「そう言ってもらえるとボクも嬉しいです。何かあったらバロンさんに相談させてもらいます。と言うか、今からですかね!」
「そうだろうね。今回のこと報告を受けようか」
……………▽
それから母さんが食事を準備してくれている間に、バロンさんと話をする。
「それまた大変だったな。それでアンデラはどうした?ブラック」
「んーー拘束しようかと思ったんだが、あの状態だと拘束するのも」
「そんなに酷いのか?私は会ったことがないが、かなり厳格で容赦がない方と聞いているが」
アンデラはあれから精神的に異常をきたし狂った。会話もままならない状態となり、テンションが異常に高い。本当は拘束した方が良いのは間違いないけど、あの状態で無理に拘束すると暴れて死んでしまうかもしれない。だから屋敷に置いて来た。ただしキョウカに探知系の魔法と捕縛系の魔法をかけてもらった。これで何かあっても大丈夫。
「そうか、ならアンデラのことは良いな。それでブラックお前からはまだ何も聞いていなかったな。もちろんこれだけ時間がかかったからには重要な情報を持ち帰ったんだろうな?」
「ま〜ね。苦労はしたけど、それだけの価値はあったと思うよ」
「ブラックがそれだけ言うってことはかなり重要な情報だな。助かる。それじゃ聞かせて……」
「ご飯出来たわよ!」
バロンさんの話を割って母さんが入って来た。
「話の続きはあとにしょうか、バロンも食べて行ってくれ」
「あぁ、頂かせて貰うよ」
………………▽
父さんの話は食事のあとされた。その内容には驚かされたが、色々と納得も出来た。そして今後の行動についても俺なりの考えを持つことが出来た。
この話はまた明日みんなを教会に集めて話される。
これで全てに片がつくかもな。
俺は気分転換に外に出て散歩しながら、ローム先生が育てている大木モーリスの根元に向かう。
「キュイキュイ」
ポケットからひょっこりと顔を出す。
「ん?どうしたエメリア」
「ぼくもガンバル!タクトのやくにたつからつれてってね」
「ふふっ、エメリアはえらいぞ!そうだな。エメリアにも手伝ってもらおうかな」
「うん!ぼくガンバルね!」
俺は人差し指でエメリアの頭を優しく撫でると、エメリアはネコのように目を細めて気持ちよさそうにする。
こう言ってくれる仲間がいると嬉しくなるな。
「なにをニヤニヤしておる。一応言っておくがこの場所は譲らんからな」
頭の上から声が聞こえる。見えないけど声と感触で誰だかは分かっている。
「ローム先生ただいま」
「うむ!ご苦労だったのじゃ」
先生から労いのお言葉を頂き、起こった出来事についてモーリスにもたれかかりながら話をする。
「これは大きな戦いになりそうじゃな」
「そうですね。それは……避けられないですよね」
「話からすればそうであろう。タクトは人の死にあまり耐性がないからのう。不安なのじゃな?」
「はぁ〜先生の言う通りです。人の死どころか怪我だって見たくありません。でも仕方ないことも分かっているんです。出来ればしたくないけど、このままにもしておけませんから」
「辛いのう。しかしタクトは分かっておるなら、我から言うことはそれほど多くはないな」
「先生……」
先生は俺のことを心配してくれて、それだけで俺の気持ちが癒されていく気がする。先生は「少し待ってるのじゃ」と言って、俺の頭の上から飛び立つ。
「モーリス一つ頂くのじゃ」
先生はモーリスの枝になっている赤いトマトのような実を一つ取って来た。
「これを食べるのじゃ」
「え!?……あ、はい……」
先生は何も言わずに俺にその赤い実をくれた。う〜ん……その実は見たことがない。先生が変な物を渡すとは思えないけど、未知の物を口に入れるのは結構勇気がいる。
「そ…それでは頂きます」
赤い実を横からかぶりつく。「シャリ」っとリンゴのような食感、そして濃厚な甘みが口いっぱいに広がり脳を刺激幸福感に包まれる。そして次の瞬間身体に変化が起きる。