第332話 落ちるアンデラ⑥
「よぉ!よぉ!俺よ!アンデラでよぉ〜! 常闇の〜リーダーを〜つとめ〜させてぇ〜おりま〜す!イェーイ」
完全にアンデラの原型がなくなっている。それにキャラが定まってない。会話が通じるかな?
俺は少し躊躇しながらアンデラに話しかける。
「アンデラさん、ちょっと落ち着いてもらえますか」
「戸惑いのチルドレン!………イマイチ。 戸惑いのエンジェル。悪くないが少女じゃないとな〜」
なんかブツブツ言ってる。色々と試しているようだ。ちょっと喋りにくいけど、今なら話が聞ける気がする。
「アンデラさん、あなたは誰をこの国の王にしたいんですか?」
「ノンノン少年、それは〜シークレットワード!正解はノー!ミーは常闇の〜ガーディアンな〜り〜!」
さっきより分かりにくいが、答えは教えられないってことね。くっそ〜これで聞き出せると思ってたのに。
俺はガックリと落胆し次にどうするか考えていると、カンナがテクテクとアンデラの前に移動しポーズを取る。
「……カンナどうした?」
何をするつもりか分からず俺は呆然とした。
アンデラはカンナに気がつき振り返る。
「ん?君が戸惑いのエンジェル?」
「ウチは戸惑いのエンジェルちゃう!ウチは明るさと元気を司るヴィーナスやん!お前は誰なん?」
「おぉ!良いですね!ではヴィーナスさん。私はラビリンスの管理者にして闇に住まう者なり、名はアンデラでゴザル!」
言語が無茶苦茶だ!アンデラはライトのせいで混乱しているな。これじゃ〜まともに会話は無理だな。俺は一旦諦めて落ち着くのを待とうとしたのだけど、カンナは会話を続けていた。
「アンデラでゴザルかいな。ええやん!そう言うノリキライやないで、それで?アンデラは何やってんのん?」
「よくぞ!聞いて〜ええ!くれました!ワタシはこの国その次良い王を! 迷い!彷徨い!戸惑い! 発見!初見!謁見! 王の中の王をマイマスターを見つけたのです!この喜びをどうあなたにお伝えすれば良いのでしょうか?分かる?わからな〜い!分かる?わからな〜い!」
くるくると回りながらアンデラは踊りだす。これ……しばらく放っておいても治らないかも……
「フッフフ〜んフフッフ…フッフ〜ん、元気に活気に陽気なカンナちゃんが言っちゃうよ! 最高!最強!最愛!マイマスターには勝てへんでぇ!」
カンナの言葉にクルクル回っていたアンデラがピタッと止まりこちらに向く。
「よよいよい!聞き捨て〜ならねぇ〜な!マイマスターこそ最強!最高!最……適!そのうえキュートなんや!勝てへんやろ!」
なんかアンデラ……カンナに引っ張られてる?
「そないなことあらへんな〜!ウチのマスタータクトより上はあらへ〜ん!見た目も名前もキュートでカッコええやろ〜!」
何の争いだよ!カンナさんそのくらいにしてくれます。背中がむず痒くなってきたんですけど。
「ユーは知らない。マイマスターの偉大さを!それにマイマスターの方が見た目も名前もキュートでカッコええんや!」
だんだん二人の言い合いが白熱して来た。一体終わりはどこにあるんだ?しかし終わりは意外と早かった。
「そないなら会わせてな〜!」
「それはムリ!マスターは忙しいしどこにいるか分からん!」
「へーーそないなことゆうて、負けんのが怖いんやろう」
「なにを!そんなわけないだろう!」
「ふ〜ん、そないならせめて名前くらい教えてぇ〜な。キュートでカッコいいか見定めたる」
「良いだろ!耳をかっぽじって、良く聞きなさい!我がマスターはアトラス様、見た目も名前に負けず劣らずの あ!……………」
アンデラは動きを止めた。それにしてもだんだん喋り方が戻って来たような。
「ギリギリ間に合ぉたようやんな!しっかりと耳かっぽじって聞いたでぇ、あんたのマスターはアトラスか、なかなかええ名前やと思うでぇ」
ニヤリと笑うカンナ、しかしアンデラには見えていないし聞こえてもいないと思う。カンナのヤツ上手く嵌めやがった。
「せやかて想像以上に戻るのがはよって焦ったわ」
「ん?カンナどう言うことだ」
「ライトの効果は永続的やないん、特にアンデラは精神力が強いから跳ね返されると思うたから、急いで話を進めたけど上手くいった」
そうだったのか、ライトの効果で精神が不安定になっているアンデラをさらに揺らしてカンナは誘導、アンデラはカンナの取り調べで落ちた。
この後、アンデラを地獄に落とすことはしなかった。なぜかって?アンデラは確かに自我を一度取り戻した。だけど……マスターの名を喋ったこと、情報を漏らしたことで強いショックを受けてしまった。人格は崩壊、前のアンデラが今のアンデラを見たら地獄に落ちるより辛いだろう。俺もあの姿を見たら、怒りがどこかに飛んでいったよ。あはは。
「よぉ!よぉ!俺よ!アンデラでよぉ〜!……」
…………落ちたな……アンデラ、な〜む〜!