第330話 落ちるアンデラ④
◆タクトの視点
「ハドリアヌス国王を裏切ったか……そうだなハドリアヌス国王からすればそうであろう」
アンデラの野郎また冷静になっちゃったよ。まったく四肢を切断されると分かったうえで躊躇なく動いた。コイツはやはりイカれている。普通の人間にはそんなことは出来ない。
俺は淡々と話すアンデラを見て気持ち悪く感じた。
「ブラックお前には言ったはずだ!私はこの国を守る者、そしてより良い国を作るためにはより良い王が必要なのだ。私はハドリアヌス国王を裏切ったつもりはないよ。私は私の信念のもと国のため新たな王を迎える準備をしていた」
何を言っているかイマイチ頭に入ってこないけど、どうやらコイツは誰かをこの国の王にしたいらしい。
「そうですか、分かりました。いえ納得したわけではありませんが、あなたは強情でしたからね。何を言っても考えは変わりません」
父さんは元アンデラの部下だったらしいから、アンデラの人柄や性格が分かるのかあっさりと引く。しかしそんな簡単に許されて良いはずがない。コイツはハドリアヌス国王の暗殺に関わっているのは間違いないのだから。
「アンデラ!お前が王にしたいと言っているのは誰だ!」
コイツが言っている王、恐らくそいつが今回の元凶、俺達はまずそいつを知る必要がある。
「当然聞きたいことではあるな。タクトくん、君はこの国をどう思う?」
「ん?それには今の質問とどんな関係があるんだ?」
「君はこの国が好きですか?私は好きでも嫌いでもありません。ですが自分の命よりも大事に思っております。改めてお聞きします。あなたはこの国が好きですか?」
う〜ん、何が聞きたいんだ?
俺は心の中で首を傾げた。
「ボクもたぶん好きでも嫌いでもないかな。話がデカ過ぎてピンッと来ない」
でも町の皆が居る。家族が居る。大切な人達が居る。だからコイツがやっていることは俺にとって不利益、止める必要がある。
「フッ、その表情、口ではそう言っていましたが、あなたはこの国が好きで滅ぶことを望んではいない」
「うん?……そんなの当たり前でしょう。なんでそんな話になるんだ?」
アンデラのヤツ、随分と壮大な話にして、一体何が言いたいんだ?
「この国にはもっと強い王が必要なのです!ハドリアヌスではダメだ!国が滅んでしまう。君はそれで良いのですか!すべてが蹂躙され無くなるのですよ!」
アンデラがギラギラした目で訴える。怖いんだけど………でも初めてアンデラの素顔が見れた気がした。
そしてお前こそさっきはなんともないようなこと言って、この国を愛しているのはお前なんだな。
それにしても国が滅ぶとは言い過ぎだとは思うが例えなのか?つまりコイツはこのままだと国が滅ぶとでも思っているのかも。なぜかは知らんが……
「そんなの言いわけないだろ!アンデラ…あんたが何を言いたいか分からないけど、王が一人変わったくらいで国がそこまで強くなるとは思えないけど?」
「……タクトくん、君が言っていることは正しく、そして間違ってもいる。一人を取り込むことが単体だけとは限らない。彼が王になれば膨大な戦力が手に入る。それは人であり道具でありそして魔物さえも、彼こそこの国に必要な存在、他の者がいなくとも何の問題もない」
アンデラの自信に満ちた眼差し、そいつを信じきっている。まるでそいつを神のように崇めるその姿は狂信者と言える。
「アンデラさんそれは分かったから、そいつの名前教えてくれる?」
「フッ、教えるはずがない。もちろんそれは恐れてのことではない。彼を知ったところで君達では止められはしないのだから」
「ん…それじゃ〜教えてくれればいいじゃん!どうせ倒れないって自信があるなら」
「これは私のプライドだよ。どんなことがあろうと情報を漏らすようなことはしない。それが我ら常闇なのだから……」
ん〜……あっそ!仕事にプライドを持つのは良いことだよ!ま〜今回は迷惑な話だけど、それならそれでこっちにも考えがあるから覚悟してもらおうか。
「タクちゃん手伝おうか?コイツタクちゃんをイジメたから許せないわ!」
母さんが手をワキワキさせながらやって来る。表情からしてかなり怒っている。地獄を見せてやろうかと思っていたからアンデラがどうなろうと良い気もするが、後のことを考えれば情報を聞き出す必要があるので倒れられても困る。
「ありがとう母さん、でもいいや。ボクがやりたいから」
「ん〜そう。母さんとしてはタクちゃんが暴力を振るうのは見たくないけど、でもタクちゃんも怒るわよね。分かったわ!気をつけてね」
母さんは俺の後ろに控える。
良かった。そのセリフそっくり母さんに返すよ!母さんが殴る姿はあまり見たくないからね。
「フッ……私を拷問するつもりなら無駄ですよ。私は痛覚を遮断するスキルを持っています。それに死ぬつもりでした。腕や足を切ったところでなんとも思いませんよ」
すまし顔で何も気にしていない。そして喋らないと言う自信すら感じされるアンデラを見て思う。無駄なのはお前だと、俺はライトを片手に取り魔力を込め始める。