第327話 落ちるアンデラ①
俺はヘル姉に地獄に落とされた。地獄は幾つかの階層に分かれており下へ行けば行くほど恐ろしく苦しみを与える場所となる。俺は運良く最上層で引っかかり上を目指すことになったのだが、ま〜大変だった。この階層では亡者達が争い続け殺し合う地獄。負った怪我はすぐに治りまた争うので終わりがなき苦しみ。俺は風呂上がりの真っ裸の姿で走り回り逃げた。亡者に襲われること数百回、殺させそうになるは真っ裸のせいで犯されそうになるわ。人生最悪の日だったと思う。
…………▽
「はぁ〜はぁ〜はぁ〜」
俺は肩で息をしながら四つん這いになって倒れる。
「遅いのだ。ごはん食べたいのだ」
「ニキ、お前他に言うことはないのか!」
「あ!ごめんなのだ。お帰りタクトなのだ」
「うっう〜ん……間違ってるような、間違ってないような、微妙な回答だな………怒るに怒れん」
俺はガクッと首を下げる。疲れをにじませた。
「ニキ〜……あのさ〜…ヘル姉さんはどうしてる?」
あれからどうしているのか気になるところ。恐らく俺を見たら劣化の如くお怒りになるであろう。ここは……うん!急いで地獄を脱出だな!
「ん!ヘル姉は仕事中なのだ!たぶん今頃は亡者を殴って絞めてると思うのだ」
「あ、そう……ま〜ちょうどいいけど」
もう本当にここには来たくない。善行積んで地獄にだけは行かないようにしよう。
俺とニキは地獄を冥界をそそくさと出ることにした。
……………▽
時は経過し……ここは常闇の隠れ家。
そして今!地獄の苦しみをぶつける相手が目の前に居る。アンデラ、今度はお前が地獄に落ちる番だぜ!
ゴォーーっと膨大な魔力がタクトから放出されていた。
「まさかヘルホールから抜け出す者が現れるとは、こんなことは初めてです。これほど驚き、そして悔しく思ったことはありません。しかしこう言う時こそ冷静にならねばなりませんね。どうか愚かな私に後学のためどのように脱出したのかを教えてはくれまいか?
それとも言うことは出来ませんかな」
べらべらべらべらとうるさいヤツだな!あ〜何度だって言ってやる!
「地獄の底から舞い戻って来たって言ってんだろ!
その口……黙らせてやるぜ!」
「なるほど、やはり話すつもりはないと、良いでしょう。君を再び捕らえあらゆる手を使い聞き出しましょうか」
「何度も言わせるな!……思い出す……」
俺はつい目を瞑ってしまう。
あ〜あの時の苦しみ。一生忘れられそうにない。
俺はグッと拳を握り締め怒りを込めた。
……………▽
◆アンデラの視点
この者油断は出来ない。だが過度に恐れる必要はない。相手がどれほど強大な魔力を持つ者であろうと、どれほどの軍勢であろうとも、私には対処出来る自信がある。私は冷静であれば問題は起こらない。
その者は突然今までとは比べものにならない速さで接近、拳を振る。確かに速いが対処はか…ごえ!?
拳がヒットするかなり手前で下アゴに衝撃が伝わる。直前気配を感じて身体を反らしたが躱しきれなかったか、コイツは見えない攻撃が出来るようだな。面白い。我がスキル『ラビリンス』の力はヘルホールだけではない。この屋敷もまた私の力、押し潰してやろう。
『落ちろ。天井』
ガコッ……ゴン
天井が凄まじい速さで落ちていく。
ドラゴンを押し潰すほどの力と強度を持つ天井だ。さてどうする?見せてみよ!
『デゥデゥデゥ』変な声がした。
天井はそのまま何の抵抗もなく地面に落ち男を押し潰した。なんと手応えのない。期待していがこの程度か、話を聞くまでもな…アヒィ!?
真下から突然気配が、急ぎ飛び退くも躱しきれず、かすかに!かすかに!股の下の辺りにヒット。僅かに僅かに私の股が内股になる。
「君は…一体どこから現れるのですか?まさか!?空間転移魔法!君は魔術師だったのですか!」
空間転移ほどの上級魔法を扱えるとは、どうやら私の目は少々くもっていたようです。改めて君の力量を測らせて頂きましょう。
『灯れ燭台、そして敵を灼き尽くすのだ!』
この屋敷はすべて私の武器!周辺の燭台から炎が激しく立ち、そして男へと向かって飛んでいく。
フッ、分かっていますよ。君はこの程度では死なない。必ず反撃に出るでしょう。しかしこの攻撃を防ぐもしくは躱す時、必ず隙が生まれる。その時が君の最後になるでしょう。
「来なさい!」
宙を舞い私の手元には猟銃が収まる。
さて、燃え尽きた時が君の最後です。一発で仕留めてあげましょう。
男に銃を向ける。私の攻撃で燃えており姿がよく見えないが、そろそろ姿を現すだろう。
…………いつまで燃えている。もしや!?この程度で死んだのか?いや!ダメだ油断はするな!こいつは意外なところから攻撃を仕掛けてくる。目の前で燃えているからと言って周りへの気配を察知することは怠らない。
!?…炎の中から何か細長く先端に刃先がある物体が飛んできた。私は少し迷い左に躱す。
!?…左に躱すと見えないが何かプレッシャーを感じ跳躍して躱す。恐らく躱さなければ潰されたはず、そしてここからが本命、空中で身動きが出来ないところを狙うつもりですね。しかし無駄です。
屋敷を制御し壁から梁となる柱を出し、いくつかの足場を作りそれの一つに乗った。私に死角は無い!
「プスッ………『弱』」
はぁ?………なんだこれは!?
お腹から腕が生えている。その手には細長い棒のようなものがあり私の胸に刺さっていた。
「ニッシッシ、アンデラ覚悟しろよ。今度はお前が落ちる番だからな!」
先程出した梁の柱が折れ、足場を失った私は落ち、地面に着地し前を見る。
男は炎をかき分け出て来た。片腕に着けた何かを外し、ニヤリと笑う。なぜだ!?それを見ると無性に腹が立つ。こんなことは初めてだ。