第315話 嫌われたくない!
◆タクトの視点
「がぁ!……痛ってぇ〜」
肩口から腹部までバッサリと斬られた。血が噴き出し足元には血溜まりが出来ていた。
マズイ攻撃された……でもどこから、この攻撃は多分魔物じゃない。相手はきっと常闇の者、もしかしたらアンデラが直接襲撃に来たのかもしれない。アイツらは隠密を得意とするはずだから〜一体どこだ!
その時!?凄まじい殺気を感じる。
俺は慌てて振り返るとそこには激怒する母さんが居た。
この瞬間ヤバいの対象が変わる。
母さんがマジギレしており、見たこともない形相をしていた。敵がどこに居るかは知らんが早く出てきて謝った方がいい。許してくれるかは分からないが……アハッ
現実逃避からの乾いた笑いが漏れたところで、慌てて母さんに声をかける。
「母さんボクは大丈夫だから落ち着いて!」
「フシューーー………………」
母さんは鼻息荒く徐々に落ち着いていくが、俺の声に反応しない。これは異常事態だ!なんとしても母さんの意識を戻さないと。
母さんに近づき手を伸ばすと、「痛ってぇ!?」
指先に激痛が走り腕を押さえながら退く。
「あっくぅ〜……母さん一体………」
母さんを止めることが出来ず。どうしようかと悩んでいると、瞬間身体が一切の動きを停止する。まるで自分の身体ではないのではないかと錯覚するほどだった。
「ドサッ……」人が倒れる音がした。
耐えられなかったんだ。
身体が動くようになり頭が回るようになったことで、さっきのが何なのか分かった。………『殺気』……母さんは今までになく強い殺気を360度すべてに放ったんだ。それはなぜか?今倒れている敵を炙り出すため、見えず気配を感知出来ないから全体を攻撃する。言うは簡単だけどそれを出来る人は少ないだろう。
「上手いこと見つけたのは良かったけど、ビビって漏らすとこだったわ。それにしてもコイツちっちゃい……ん?」
倒れている敵を警戒しながら近づくと、そいつはだいぶ小柄、それに女?と言うか子供!?
倒れているのは少女……しかも。
「アイリス!?なんでここに!」
倒れていたのは父さん達と一緒に居るばすのアイリスだった。俺は声をかけようと駆け寄ろうとしたが、斬られていたのを忘れていた。痛くて走れん。
「うっ……」と胸を押さえて止まっていると、アイリスの目の前に人が立っていた。
「母さん……え!?ダメだ母さん!」
母さんはブツブツ言いながら包丁をアイリスに向けていた。ヤバい!止めないと。
◆息子大好きミルキーの視点
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス………………頭の中を巡る。
タクちゃんが斬られた。
誰!だれなの?私の大事なタクちゃんを斬ったのは……
小賢しいことにソイツは存在を意識から阻害する力を持っている。私ですら探知は難しい。だから無理やり出てきてもらうことにした。殺気を放ちそいつの意識を断つ、思惑通りスキルは解除され出て来た。
タクちゃんを傷つけたバカ者が!
私は包丁を逆手に持ち振り上げる。
この時タクちゃんが何かを言っているようだったけど、私は怒りのあまり聞かなかった。
私は襲撃者の心臓を狙う。でも楽には死なせないわ。スキル『ペイン』で痛みを包丁に溜めてから振り下ろした。
しかし……私は振り下ろした腕止めた。止めなければならない!
「母さん……止めないと嫌いになっちゃうよ!」
この声はタクちゃん。
声は耳に入り頭を通って心に響く。
(死んでもタクちゃんに嫌われたくない!)
心の叫びが身体は硬直させ、急ぎ次の行動を起こす。
◆急ぎのタクトの視点
アイリスが母さんに殺される!?
なんとか止めたいけど、声をかけても母さんは止まってはくれない。完全に頭に血がのぼっているようだ。こうなったらアレしかない。出来ればやりたくないんだけどな〜。仕方ないか……
嫌い……母さんはこの言葉に異常なほど敏感反応する。
昔まだ子供だった俺は幼かった。母さんは俺がどこに行くにも付いて来る。当時の俺はそれが煩わしくって仕方がなかった。その時ついつい心にもない言葉が出てしまった。
「母さん来ないでよ!嫌いになるよ!」
「わぁーーんタクちゃんごめん!ゆるじてぇ〜」
母さんはガン泣きで俺に泣きついてきた。
あの時は子供ながらに母さんを傷つけたことにかなり反省したものだ。母さんが落ち着くまで頭を撫でたり謝ったりして苦労した。もうあんなことはしないと誓ったのに言わないといけないのか〜気が重い。
案の定今回も言ったら飛びついて泣きつかれた。アイリスが助かったのは良かったけど心が痛い。申し訳ないことをした。あとでしっかりと謝らないと。
俺は母さんを撫でながら落ち着かせながら斬られた傷口に絆創膏を貼り治療を行う。
「早くアイリスを診ないとな」
倒れているアイリスはあれから動く様子はない。心配だ。傷口は数分で完治する。急げ急げんだ!
治療を終えた俺は母さんを抱っこしてアイリスの下へ向かう。
「アイリス大丈夫か!」………反応がない!?くそ!もしかして……
うつ伏せに倒れているアイリスを起こす。
「うっうっう〜ワンちゃん……のだ〜じゃなくてなの〜
なの!」
…………なぞの言い争いを夢で見ているようで大変そうではあるが当別体調が悪い感じはしない。良かった。これでひと安心。
「それで剣さん何があったんだ?」
俺はアイリスの愛刀剣さんこと聖剣エクスダインに
話を聞くことにした。




