第314話 上層階
アンディーに協力してもらい上層階を目指す。
俺は移動する間を使いこの場所についてアンデイーに話を聞くことにした。この場所は全十階層に分かれ、アンディーと会った場所は最下層から三番目、父さん達が今いるのがどこかは分からないが、エメリアが言うにはここより上階で近くまで行けば匂いで分かるそうだ。
アンディーに案内され順調に上層階へ登り、最下層から七番目の階層に着く。
「順調だな。アンディー助かったよ。ここまで迷わず来れたのはあんたのおかげだ」
初めにここに来た時は何時間歩き回って上がるどころか二階層も下がったのに、アンデイーの案内は完璧だった。一度も迷わず一直線に上階への階段に向かいあれよあれよとここまで来れた。
「タクトくん大したことはないさ〜、それにここからはさっきまでのようには行かないから注意するんだよ」
アンディーの視線の先を見ると様々な色のミノタウロスが軍団となってこちらに歩いて来ていた。
「ん〜……あんなにカラフルな牛さんは初めて見たけど、知ってるかアンディー」
「あ〜もちろん、ここに来た時だいぶ追い回されたからな。なかなかのスリリングだった」
アンディーは楽しそうに追い回されたことを語る。
ミノタウロスとは武器を使い剛力な魔物として知られており、中級クラスの冒険者が討伐依頼を受けるそこそこ強い魔物、ただ普通あんなにカラフルな色のは見たことがない。アンディーの話によると色はそれぞれ個体の属性を表している。青なら水、赤なら火と、コイツらは魔法を使うミノタウロスだった。
「それは面倒だ。どうすれば良い?」
俺はアンディーに軽く意見を振る。
「フッ、私の時は逃げの一手だったよ。でもここは赤くない。つまりタクトくん達なら何とかなるんだろ?」
なんだよ。人任せかよ。でもアンディーはこの場所、そしてミノタウロスを見て赤くないと言った。つまり今の状況は危なくないと言うことだ。それじゃ〜いっちょやったりますか!
多数の魔物を相手にするならバーナーで蹴散らした方が早いな。
俺はミノタウロスに向けて空間延焼を放ち焼く。苦痛の叫び声が響く中、攻撃を躱し突っ込んで来るミノタウロス達、数が多過ぎるな。一撃二撃では焼き払えない。
ミノタウロス達はそれぞれの属性の魔法を放つ。
大きく息を吸い口から火を吹く者。
大地を強く踏みつけ石礫を飛ばす者。
腕に空気の渦を作り斬撃を飛ばす者。
角から氷の槍を生成し飛ばす者。
火、地、風、水の四大属性魔法が一気に迫って来た。
でも焦る必要は全くない。余裕と言うわけではないが冷静に対処すればそれで良い。
ヘルメットで空間加速、俺は自らを加速させることでミノタウロスの攻撃がスローに見えた。まずは攻撃を見極めどいつにどの攻撃を当てるかを判断し安全靴の力、空間反射で攻撃を反射、ただし自分の属性攻撃を受けても耐性がある可能性が高い。だから上手く立ち回りそれぞれ別の属性魔法をぶつけた。
予想通り攻撃を受けたミノタウロスは大ダメージを受け動けなくなっている。この隙を狙ってトドメを刺す!
『ドリル』
ツールボックスの中にある道具で唯一元の形からかけ離れている工具。右腕に巻き付く様に金属のプレートが浮かび腕を上げてミノタウロスに向ける。
「ブレード展開」
腕を起点に金属プレートが広がる。魔力を右腕に集中、金属プレートが高速大回転、右腕は巨大なドリルと化しミノタウロスを巻き込む。
『空間破砕』
ミノタウロスは砕かれ粉々になる。
切られた空間は元に戻ろうとする性質から近くにいるミノタウロスを吸い寄せ更に巻き込む。僅か数秒でミノタウロスの軍団を倒すことが出来た。
「ふ〜終わった〜、このドリル疲れるんだよね〜」
回転速度とブレードの範囲に比例して魔力の消費量が上がる。今回は数が多かったら範囲をかなり広げて疲れてしまった。
「タクトくんは相変わらず非常識なことをするね〜。
今の数のミノタウロスを相手にするとなると一つの町の冒険者全員で対処する緊急クエスト級だよ。分かってる?」
アンディーが呆れたように言う。
俺としてもドリルの性能に関しては驚いている。ただこれを使うとMP(魔力量)に余裕があっても以上に疲労感が出るので極力使いたくない。
「アンディー取り敢えず片付いたからさっさと上に行こう」
俺はアンディーを急かし急ぎ上層階を目指す。それから更に一つ上の階、八番目の階に到着する。
ここは非常に殺風景の場所で何にもなかった。見渡す限り魔物も居ない。ここはアンデラのおっさんからのボーナスゾーンかな?とそんな訳がないと分かっていながら頭の中で突っ込む!
「タクちゃん、たぶん地面に魔物がいるから気をつけて」
母さんは地面に手をつき何かに気がついたようだ。魔物?……俺も地面に触るが全く分からん。
足元の床が波打ったかと思うと突然牙が見えた。
あ!……ヤベ!魔物の口だー!?
喰われる〜っと思った瞬間、フワっと身体か浮く。
母さんが俺を引っ張り魔物から守ってくれた。
「母さんありがとう。助かったよ」
さっきまで自分が居た場所を見ると手の生えたサメがバクバクと口を動かしていた。ふ〜危なく食われるところだった。
この場所は本当に気が抜けない。こうやって不意を突いてくる魔物までいやがる!しかし上に上がれば上がるほど危険度が増しているように感じる。父さん達が心配だ。急ごう!
俺は気を取り直し空間障壁で足場を作って危ない地面を避けて進むことにした。
ぴょんぴょんと跳ねるように移動、疲れるが移動は速く、すぐに次の階に登る階段を見つけた。
よっしゃ〜と喜びの声を出し床に着地する。この時俺は油断していたのかもしれない。でも事が起きてからですら気配を感じることの出来なかった一閃。
俺は斬られていた……