第312話 迷宮の序章
◆タクトの視点
ここどこだ?視界が突然暗転したと思ったら、さっきよりだいぶ薄暗い建物の中に居るんだけど、やられたな。
「タクちゃんこっちに来て、離れていると分断されるかもしれないから」
良かった母さんは少し離れた場所に居た。エメリアも俺の手の中全員居る。
「母さんここって……」
「あのアンデラって男が言った通りなら、ここは『ヘルホール』って場所なのでしょうね。困ったわ。たぶんここは元の世界と少し違う。いわゆる異界と言われる場所だと思うわ。かなり危険だから勝手な行動はしないでね」
「異界……ここが?」
う〜ん…ここが異界ね〜。建物の中に居るからイマイチ俺が知っている異界とは一致しない。だけど空気…気配が少し似ている気はする。
「母さんどうしようか?あのアンデラって言う人も居なくなっちゃたし」
「そうね〜。まずは周りを探しましょう。アンデラの言う通りなら父さんはここに居る。エメリアちゃんなら匂いで見つけられそうだし」
「あ!そっか、エメリアかな、エメリアお願い出来るかな?」
「うん!ぼくにおまかせだよ!」
エメリアはヒュ〜っと飛び上がり、周りをクンクンっと匂いを嗅ぎ、「あっちの方から匂いがする」と言言って先に飛んで行った。
…………▽
エメリアについて行くとおかしな部屋に着いた。部屋に入ると目の前にシャンデリア、天井にテーブルに椅子。まるで天地が逆転したような部屋。
「え!?なにここ?……どういうこと?」
俺は部屋をキョロキョロ見回す。
「タクちゃん、危ないかもしれないから私が先に入るわ」
「!?……母さんダメに決まってるでしょ!ボクが先に入る!」
「いいえダメです!これはいくらタクちゃんでも譲りません!」
俺と母さんはモメながら押し合いをしながら、結局一緒に部屋に入る。
「あ!」……入るとすぐに異常が発生した。重力が逆転しさっきまで天井だった床に吸い寄せられるように落ちて行く。
「タクちゃん手を出して!」
落ちて行く俺に手を伸ばす母さんの手を掴むと抱き寄せられ、クルッと空中で反転し天井だった床に着地する。
「母さんありがとう……」
母さんは何も言わずニッコリと笑顔を返す。ただお姫様抱っこはちょっと恥ずかしかったので早くおろしてもらった。
「びっくりしたけど、他には特に何も起こんないかな?」
周りを見渡すとそんなわけもなかった。
空中に浮遊する刃物がこちらを狙っていた。
飛び交う刃物、躱すには数が多いと判断、安全靴のスキル空間反射を使用、飛んで来た刃物は弾かれ壁に突き刺さり沈黙する。
「タクちゃんすご~い!今のどうやってやったの?」
母さんが嬉しそうに抱き着いてくる。そう言えばスキルについては黙っていたから驚いているんだろう。
「うん!実は…!?」
母さんの質問に答えようとした時、今度は壁に異変が起きていることに気付く。
「ゲェ!?キモ!」
壁から手が生えてる!?しかも一本や二本じゃない。ワラワラとキモい程多い。
壁から腕が伸び襲って来た。俺は再び安全靴のスキルを使用しようとした時、母さんがぴょ〜んと跳ねたと思うと一瞬でかき消え、いつの間にか腕が切断されぼとぼとと落ちて行く。
ん?………はぁ?………へぇ?…………
驚き過ぎて頭がついて行けない。
母さんもしかして切った?
いかんいかん!呆然としてしまった。母さんが只者ではないと言うことは薄々気がついていたのに、目の前で見るとやっぱりびっくりした。
ふ〜少しは落ち着いけ!母さんに怪我はないか?
戻って来た母さんを改めて見て絶句する。
「母さん……その手に持ってるのはなに?」
なんか見覚えはあるけど、それって台所で使う道具だよ。
「え!これ……包丁だけど?」
母さんは両手に包丁を持っており、多分あれで切っただと思うけど包丁?包丁って料理に使うんですけど?なんであんなに切れ味良いのよ!
母さんは俺が何でそんなこと聞くんだろうと戸惑っていたので、俺は気にしない素振りで話を続ける。
「あ!そうだよね。包丁だよね。ごめんちょっとボケていたよ。それより母さんありがとう。すごい動きだったね。ボクには全く見えなかったよ」
「そう!そんな大したことないわよ。タクちゃんも練習すればすぐに出来るようになるわよ。今度教えてあげようか」
………出来る気がしない。
身体能力もさることながら、動きが相当鍛錬を積まれたものだと思う。ま〜見えてないからどんな動きをしたかも分からないけどね。アハッ。
それから何とかその部屋を脱出出来たかと思うと、今度は天井が落ちてきたり、床からサメみたいな魔物が現れたりとバタバタになって逃げ続ける。これじゃ〜父さんに追いつく前に体力がなくなっちゃうよ。
でも休んでいる暇はない。そしてこれは迷宮の序章に過ぎなかった。