第298話 王都情報共有会①
「それではどなたから聞こうか、タクトくんには最後に話を聞きたいからイグニスから報告を頼む」
イグニスさんからの報告はテキトウと言うか、フワッとする内容と言うか、本当に王都の町並みについての話がほとんどでパッとしなかったが、その中で驚きの内容があったようだ。
「なんだと!?それは誠か!?」
「そんなはずはない!」
国王様一行の皆様が驚きの声をあげる。
何に驚いたかと思っていたら、国一番と言われる最強の騎士トリスタンの存在だった。彼は国王達を城から逃がすため殿となって残った一人、国王軍によって捕縛されていると思われてた彼がボルジア率いる現在の国王軍と共に居たことに驚愕したのだ。確かに状況からするとトリスタンがボルジア側についたように思われる。
「それはあり得ぬ!トリスタンに限って……」
国王様は怒るように肘掛けを叩いた。
「そ~言われてもな〜、俺は見たままを言っただけだしよ〜」
イグニスは頭をかきながら困った顔をしている。
あと国王様相手に遠慮が全くないから失礼な気がしてちょっとこわいんだけど。
「取り敢えずトリスタンが裏切ったかどうかはここでは判断出来ないですから。言い合いしても仕方がありません!」
バロンさんが間に入る。しかし本当は聞きたいことが別にあったからだと後で思った。
バロンさんの視線がグイッとイグニスに傾く。
「それでイグニス!どうしてノルンが戦うことになるんだ?」
ジーーっとイグニスを見る。
「お…おう、そんなに怒るよな!」
「怒るわ!バカヤロー!なんで娘が最強と言われている剣士と戦わないといけないんだよ!お前のことだからどうせテキトウに答えたんだろ!ノルンに何かあったらぶっ殺すぞ!」
「おーーこわ!バロンからぶっ殺すなんて初めて言われたぜ!貴重な体験だな」
「チッとは反省しろ!」
お偉い方々の前で遠慮なくやいややいやと騷ぐ二人、ヒヤヒヤするけど案外誰も何も言わない。
「まー落ち着けよ!悪い話にはならないと思うぜ!むしろ超えなきゃいけない壁だろ」
「はぁ〜……早いだろが、国一だぞ!」
バロンさんのため息が止まらない。
それでも報告は進めないといけないと立て直す。
「それじゃ〜スカーレットからも報告を頼む」
「えぇ、分かったわバロン、あとでイグニスを焼きましょう」
えぇーー!?っと前のめりで驚くイグニス、ま〜自業自得ってことで……
イグニスと一悶着あったが、スカーレットさんは淡々と報告をする。
死の商人、スカーレットさん達も遭遇していたか、僅かな期間に二人、もしかしたら死の商人は思っている以上にこの町に入り込んでいる恐れがある。
「聖杖結界か、チクショーゼーラント野郎がしっかりしてればよ〜」
教皇のおっさんは怒るように肘掛けを叩いた。
「教皇、それを今言って仕方がありませんよ」
宥めるように聖女様は言った。
「でもよ〜母ちゃん…」
「母ちゃん?……何度言えば分かるのかしら?」
「いや〜………その…ついと言いますか、無意識と言いますか……」
「言い訳しない!間違ってたら謝るでしょうが!」
「母ちゃんごめん!…あ!?」
ペコペコと頭を下げる教皇のおっさん。
話が進まねぇ〜……
「聖杖結界は問題ない。もちろん発動の仕方も分かるし、魔力に関してもこちらから聖騎士団、魔力量の多い聖職者を派遣しよう」
教皇のおっさんが気を取り直し堂々と言う。
「悪魔が多数潜伏していたとしても聖杖結界を発動すれば相当数は排除出来るかと思います。ですが今回の戦いは上位の悪魔がいる可能性があります。私を含めた聖騎士団で対応する必要があるかと思います」
「聖女様そう言って頂けると助かります。あなた達聖騎士団の御力がなければこの戦いに打ち勝つのは難しい。是非とも宜しくお願い致します」
「えぇ…お任せ下さい」
聖女様はニコリと微笑む。
バロンさんは正式に聖女様に協力を得られたことで少しホッとしているように見えた。
「良し!それではタクトくん、お願い出来るかな!」
おっと!俺の番か、何か人の前で説明するのは苦手なんだけど気合を入れて話すか!
「はい、分かりました」
俺はたどたどしくも起こったことを説明する。
「なんだと!?エリック、ラウラがそこに居たのか!」
国王様一行の皆様が再び驚きの声をあげる。しかもさっき以上の衝撃を受けている。なんでだ?
「タクトくん聞いていなかったのかい?前に話したと記憶しているんだけど」
えーーっと………ダメだ!思い出せん。
「その様子では覚えていないようだね。エリックとラウラはこの国の王子と王女様だよ」
「………………え!?あの二人が!王子と王女ーー!?」
衝撃の事実、全然そんな感じはしなかったけど、今思えばどことなく品があった気がする。
「驚く気持ちも分かるよ。思ったほど堅苦しい方々ではなかっただろ。ま〜貴族と言われる立場の方々にしてみれば少々ヤッチャなところがあるがね!」
「少々なんてもんじゃありませんよ!彼らと一緒にいるのが反乱を起こしたバラクなんですから、何がどうなっているのやら」
正直考えたくはないけど、彼らもまた国に不満を感じ行動を起こした。いや!それなら自分達で変えれば良い気もする。すぐに大きな変革が出来ずとも彼らはいずれ国を動かす立場の人間なのだから。
「なんと言うことだ。エリック、ラウラ、お前達は一体何を考えている………」
国王は二人の行動が理解出来ず頭を抱えて悩んでいた。
また一つ問題が増えたな。
「国王様、お気持ちは分かりますが、その様な御姿を民に見せるものでは御座いません。どうかお顔をお上げください。大丈夫で御座います。あの二人が道を誤ることは御座いません」
バロンさんは膝をつき王に仕える騎士のような所作をして言った。
「ふぅー……バロンよ。なぜ私はお前を手放してしまったのか、今でも悔いている。どうだお前の望むままの地位を与えるが戻ってこないか?」
「フフッ、ご冗談を私は堅苦しい貴族が嫌で出て行った愚か者、その様なお言葉をかけて良い人間では御座いません。どうかこのまま放っておいて頂きたい」
国王は少しムッとした顔に変わりアゴを手で支えてダルそうに言った。「このうつけ者め!」と………