第291話 聖杖結界?
◆ティアの視点
「アタタ……酷い目にあった」
ミルキーさんのスキルでポーラン司教はうずくまり痛みに耐えていた。
ちなみにダメージを受けたドッペルゲンガーの分身は居なくなっている。
「ポーラン司教、あなたがしようとしているのは『聖杖結界』のことでしょうか」
「流石は聖女候補生のティア殿、聖杖結界をご存じですか」
「はい、唯一王都のみが行われている悪魔対策の術式です」
「そうです!教会内でも大司教以上の幹部クラスの者しか知られてはいません。でも私はゼーラント大司教から聞いていましたから、あの方は自慢げに話していましたよ。口が軽いことで、ま〜お陰で助かりましたけど」
「私も名しか知りません。ですが多くの悪魔を相手にするにはとても有効なものだと……」
「その通り、聖杖結界とはこの王都の各所に設置された魔杖で形成された結界、自動で悪魔に取り憑かれた人を判別して浄化する。下級、中級程度なら問題なく倒せますし上級悪魔でも力を抑えることが出来ます」
「それならさ〜早くやっちゃった方が良いんじゃないの?もしかしたら町の住民に悪魔が取り憑いているかもしれないし」
そう、アーチの言う通り、聖騎士団が居ない今は迷わず行えば良いはずなのに、それをしない……何か理由があるの?
「そうしたいのは山々なんだけどね。問題が二つあるんだよ」
ポーラン司教は頭をかきながら困った様に言う。
「その問題って言うのは何かしら?」
早く言いなさいと目で訴えるスカーレットさん、こわ!
「問題はエネルギー、つまり魔力、しかも聖魔法を扱う者の魔法が必要です。現在術式を発動することが出来るだけの魔力はあっても持続して発動しようと思うと全く足りません。それでは一定の効果は得られても町全体に潜伏している悪魔に対処出来ない」
「それについてはこちらで何とかするわ。もう一つの問題を言いなさい」
スカーレットさんは即座に判断して対策を思いついたみたい。ポーラン司教は唖然として驚いているようだけど、どうやって?と聞くと余計なことを言うなと怒られると思い話を続けた。
「もう一つの問題は、聖杖結界の発動をするやり方を私が知らない」
「「はぁ?」」
私とアーチの口からの驚きの声が出る。
「さっきも言ったはずだよ。聖杖結界は大司教より上位の者しか知らないって、僕はゼーラント大司教から大体の話は聞いているけど、まだ分からないこともある。ま〜だからもしもの為に今調べているんだけど」
「それも特に問題ないわ。情報をありがとう。私達は
これで御暇させてもらうわ」
スカーレットさんはソファから立ち上がり扉の方に向かう。
「いやいやちょっと待ってくれ、どっちの問題もどうやって………」
ポーラン司教の疑問はもっともね。でも私にはスカーレットさんの考えが分かっていた。
聖杖結界を発動する二つの問題、一つはエネルギー、これについてはソウルフロンティアに移住した聖都マーリンの魔術師が居る。この者達の協力を得られるばす、そして結界の発動方法に関しても同じ理由、ソウルフロンティアには聖女様も教皇様も居る。戻れば発動方法も分かる。
「ポーラン司教、あなたはこの教会の管理をしっかりと続けなさい。恐らく聖杖結界を発動するには、この教会が必要になるはず、後のことは私達に任せなさい!いいわね!」
「はい………」
ポーラン司教はガックリと肩を落とす。
気持ちは分かりませけど、落ち込まずに教会の皆さんを宜しくお願い致します…と、心の中で言った。
応接室を出ると先に出ていたスカーレットさんが足を止めていた。私はあれ?っと思う。この人はいつも先にスタスタと歩いて行くのにどうしてだろう?
「さー今日はお外に行きましょうね。いつも部屋で本ばかり読んでいると良くなりませんよ」
前から車椅子に乗った少年とシスターが向かって来る。この間の事件に巻き込まれた被害者かしら?
「こんにちは司教様」
少年はニッコリと笑顔で挨拶する。
「やぁークリスくん、元気かい?足の調子はどうだい」
「エヘヘ、ちょっとは動く様になったんだよ!」
少年は車椅子に乗った状態で足を少し動かす。
「うんうん、良いぞ!この調子ならもうすぐ良くなりそうだ。退院出来るのもあと少しだね」
「えーーボク退院しても行くとこないよ!ずーっとここで病人でいよっかな〜」
「そうはいかない。治ったら退院するんだ。何もいきなり出て行けなんて言わないさ。前にも言っただろこの教会には孤児院だってある。まずはそこに入るんだ。それで大きくなったら聖職者になって僕達と一緒に働くって言うのも良いんじゃないか?僕を楽させてくれ」
「も〜う、司教様はサボりたがりだな〜、仕方ないボクがいつか手伝ってあげるよ!エヘヘ」
少年は嬉しそうに鼻をこする。
初めて会った時はこの人が司教で大丈夫かと思ったけど、この方は司教としての務めを果たしているようですね。
「それじゃ〜ね〜!司教さま〜」
少年は手を振って挨拶している。
良い子です。あの様な子を守る為にも頑張らねばいけませんね!
私はすぐにソウルフロンティアに戻り、聖女様に相談しないといけないと気合を入れる。
「ダメね!見逃せない」
スカーレットさんは突然声を上げる。
突然のことにミルキーさん以外の皆さんはビクッとする。
スカーレットさんはスタスタと早足で車椅子に乗った少年クリスくんの前に立つ。
………「あなた何者?」