第29話 本当の意味で救われる日まで!
◆パトリアの視点
私は悪魔と契約し、身勝手な嫉妬、怒りで恋人のダインと親友のアーシャを殺してしまった。
私は罪人であり罰を受けなければいけないのだ。そんな私をタクトくんは決して見捨てようとしない。
今もあんなに大きな魔物に向かって行く。なんで?どうしてこんな私のために………
◆タクトの視点
う〜ん、怖〜い。
ヘルメットの効果で俺からすれば相手の動きが60分の1になり、難なく躱せるけど、当たれば致命傷間違いなしなので、怖すぎてかなりの余裕を持った距離で躱してしまう。これは戦ううえでムダでありよくない。訓練が必要かもしれない。
おっと危ない!
ブーンっと1メートルくらいと図太い腕が横切った。あ〜怖い怖い。さっさと倒しておこう。
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名称∶手袋
分類∶保護具
属性∶空間
効果∶1メートル四方の範囲(両腕から)
性能∶空間障壁により万物の攻撃を防ぐ
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両側からビッグオーガが突進、
「よっと!」
両腕を前に出し障壁を展開。
「ガキン」っと激しい衝撃音を出しビッグオーガが衝突し、あまりの硬さにぶっ倒れた。
あれ?……もしかして倒しちゃったの?
ビッグオーガは半身を潰し血を流している。どうも空間障壁があまりにも硬くて自分の攻撃力に耐えられなかったようだ。
「おのれ〜……必ずいつかお前達を殺してくれるわ〜それまで余生を楽しむが良い〜」
ビッグオーガを倒され打つ手がなくなったババア悪魔は魔界に逃げる気のようだ、姿が薄ら消えてきている。
「はあ〜?なにを言ってるのかな〜、そんな事言われたら絶対に逃がすわけないだろう。お前はここで消えるんだよ!」
俺はハンドライトをババア悪魔に向ける。
「じゃあな!スイッチOnっと!」
ハンドライトから光が照射、照らされた空間が光属性の力に満たされていく。
「ぎゃ~~ギョェーー」
悪魔から聞くに堪えない叫び声があがり、身体からは煙が吹き上がって消えていく。
悪魔って……これで倒せたのかな?
消えて居なくなったけど、ぶっちゃけライトで照らしただけだし、なんか不安。
「どや!すごいやろう〜どんな悪魔もイチコロやで〜」
カンナのドヤ顔トークが聞こえる。
そんな殺虫剤みたいなキャッチコピーで言われてもどう答えれば?
「お、おう!すごいな!……で!悪魔は消えたのか?」
「もちろんやで〜キレイサッパリおらんなったで〜」
「そ、そうか、分かった。ありがとう」
イマイチ実感は沸かないけど、カンナがそう言うなら信じよう。
「タクトくん……」
パトリアさんが心配そうな顔をして走って来た。
「パトリアさん、終わりましたよ!」
俺はそんなパトリアさんに笑顔で応える。
バフッ……パトリアさんの胸の中にスッポリと頭がハマる。う〜んご褒美かな?
そうであればと、しっかりとパフパフと堪能、少しして離れるとパトリアさんの涙を流したあとの笑顔が見え、やや罪悪感が湧き上がった。さ〜せん!
「タクトくん、本当にありがとう。悪魔から解放された。おかげでこれ以上罪を犯ずに済むわ」
「いえ、大した事ないです。ボクは自分がしたいことをしただけですから」
「うん、タクトくんらしいけど、今日はすっごくカッコ良かったぞ!いつもあのくらい堂々としてればモテモテだよ!」
「そうですかね。ちょっとイメチェンしようかな」
「………そんな顔をしないで、私はちゃんと分かっているから、私はたくさんの人を殺してしまったの、だから罰を受けるは、…………自首します!」
パトリアさんは穏やかな顔をしている。そして俺は……
「グッ……」
一体どんな顔をしているんだろうな。きっと情けない顔をしているんだろう。自分でも聞こえた。歯を食いしばる音が……
「タクトくん、勘違いしちゃダメだよ!私はこれから辛い思いをする事になる。だけどそれはタクトくんのせいじゃないよ!いい!タクトくんは私を救ったの、それを間違えちゃダメだからね!」
パトリアさんは俺の肩を掴み、真剣な顔でホクの目を見つめる。
「うん、分かった!」
分かってるよ!その言葉は俺を救うための優しい言葉だ!やっぱりパトリアさん優しい人だ。救われるべき人間だよ。………でも今じゃないんだ。本当の意味で救われるには時間がかかるってことか……
「それじゃ〜私は行くね!」
パトリアさんは村へと歩いて行く。
俺はその後ろ姿を黙って見守る。そして行ってしまった。……周りの静けさが虚しさを感じさせる。
「こら!元気を出さんか、バカもん、お前が落ち込んでどうする!」
「そうなのだ!タクトは頑張ったのだ!エライのだ!」
二人がそれぞれ慰めてくれる。分かっていても心が落ち込むのをどうにか出来ない時もある。こんな俺をパトリアさんだって望んでないのにな〜。
俺達はトボトボと村へと戻る。
ん?……遠くから何かが聞こえる。
声が聞こえる方を見ると誰かがすごい速さで走って来る。
「タ…ク…ト〜」
「え!?」
「勝手に……」
「あ!ノルンだ!」
「どこ行ってるのよ!バカー」
「ぐはぁーー……」
ノルンの飛び蹴りを喰らい吹っ飛ぶ!
「アタタタタ……う〜……痛い」
ゴロゴロと5回転で止まった。
ゴホッゴホッ……身体中土まみれだよ。
「どこ行ってたのよ!散々探し回ったんだからね!」
どうやら分かれてから、犯人が見つからないので、戻ったのだが一向に俺が来ないので、ノルンは俺を探し回ったそうだ……
「ごめんノルン、心配かけた」
「ふん!別にタクトのことなんて心配してないしー」
何この定番ツンデレ発言、こう言うのって実際は正直に言ってくれたほうが喜ぶんだけどな〜…………んーーちょっとからかうか!
「そっか、そうだよな、ノルンがボクなんかに興味ないだろうし、心配するわけないよな。はぁーボクは何を思い上がった事を言ったんだろう。はぁーダメだ!」
俺はカックリと肩を落とし落ち込む振りをする。
フッ……さてさてノルンはどんな反応をす・る・か・な!
俺はこっそりと頭をあげ、ノルンの反応を見る。
あれ?……マジ!?
ノルンは真っ青な顔で固まっていた。
えっと〜もしかしてそんなにショックだったの?
やらかした〜、失敗した〜、どうしよう、などの負の感情が顔によく出ている。
あかーん!やらかした。なんとかせねば。
「ノルン……お〜いノルンさん、目を覚ませ〜」
ノルンがあまりにも目を覚まさないので、肩をガクガク揺らす。
「………………はぁ!い、言っとくけど、本当はちょっとは心配してたのよ!ちょっとだけだけど、心配してたの聞いてる!心配してたの!分かる!心配してたんだからね!」
「はい、分かりました」
ノルンは急に早口で心配していたことを主張、あまりの勢いに俺は、はい…としか言えなかった。でもその慌てて言い訳する姿が笑えて、その後ノルンの怒りを買い殴られた。
はぁ~シンド!……でもおかげでほんの少しだけ気が紛れたよ。ありがとうノルン。