第282話 みんなスト〜ップ
◆タクトの視点
「キューイキューイ」
「お〜い、勝手に行くなエメリア」
俺は下の階から声が聞こえたので、ちょっと探ろうかと思い、聞き耳を立てていると何やら騒がしい。トラブルかな?
下の階に行く階段を探し降りようと探していると、なぜかそこには黒い床があり降りられない。なんじゃこりゃ?と思った。
「この床、嫌な気配がする」
触れると鉄の様に硬く冷たかった。冷たいと言っても温度的な話ではなく感じる。これはあの世に行った時に同じ、異質な冷たさ……
「ん〜どうしようか、たぶん壊せなくはないけど、結構な音が出るよな。バレたら意味ないし、ここは一度引いたほうが良いかな」
どうせ後でも探り入れられる。むしろ人が居ない時間を見計らって侵入してメガネで確認した方が安全だ。
俺は一度戻ろうとしていると、パサパサっと羽ばたく音が聞こえる。うん?
「エメリア〜、はぁ〜ポケットの中は窮屈だったか?
悪いもう少し我慢してくれ」
エメリアの反応が悪い。一応バレないように小声ではあるけど、聞こえてないのか?」
エメリアは黒い床をジーッと見ていた。
「エメリア〜帰ろう」
「キューイ!」
えー!?
エメリアは突然黒い床に突っ込んで行った。どういう訳かさっき触った時は硬かったのに、水の中に飛び込む様にポチャンと入る。
「エメリア待ちなさい!戻りなさ〜い!アタ!?」
エメリアを追いかけて俺も黒い床に飛び込むと硬った〜。頭を打った。
エメリアが入れて、俺が入れないのがなんでか分からないが迷ってはいられない。
『ドリル(空間破砕)』
黒い床を貫通、俺は飛び込んだ。階段を降りると仮面を付けていた者達が襲われている。どう見てもただごとじゃない。さてはて……これはどうしたもんか。
◆ラウラの視点
目の上にナイフが落ちてくるのが見えた。
あ〜アレが私の目に刺さるの?
怖い怖い怖い……いや!死にたくない……
パクッ…………どこから入ってきたのか?小さなドラゴンが落ちて来るナイフをキャッチ、私を助けてくれた。
「キューイキューイ」
「お〜い、勝手に行くなよ。エメリア」
小さなドラゴンは呼ばれると嬉しそうな鳴き声で、呼んだ人の頭に乗り、また嬉しそうに鳴いた。
誰?………この方あの時の!?
「えーっと〜……状況は良く分かりませんけど、あんまり良くないって感じ!だよね」
この人、なんでこんなに落ち着いていられるの?この部屋と私達の状況を見れば危険に感じるはず、なのに平気な顔でドラゴンとじゃれて遊んでいる。
「関係ない方はどこかに行って頂きたいのですが、私は今この二人にしか興味はありません。死にたくなければどこかに言って下さい」
「ん?……それはお断りする。あんた死の商人だろ。悪いけどあなた達を野放しにするとパトリアさんみたいな被害者が出るんだよ。俺はそれには我慢出来ないんでね。あなたには消えてもらう」
急に雰囲気が変わった!?
ピリピリと肌に突き刺さる………これは殺気!
「逃げて良いの言っているのに、あなたは死にたがりの様だ。良いでしょ、あなたはこの二人の前の前菜代わりです。死になさい」
また床から鎧騎士が浮き上がって来た。
一体何体召喚出来るの!?
鎧騎士は剣を振り上げる。危ない!逃げて!
「キューイ」
小さなドラゴンが無謀にも鎧騎士に飛びついた。
「パシュッ」
へぇ!?……私は驚いた。
鎧騎士はその小さなドラゴンによって倒された。どうやってあんなことが出来たのか?鎧騎士の胸には大きな穴が空き煙になって消えて行った。
あのドラゴンあんなに小さいのにすごい!?
でも、あのドラゴンの主人と思われる人まで驚いている様に見えるけど気のせいかな〜?
「キューイキューイ」
「エメリア……あ、うん……元気だな」
小さなドラゴンは主人の肩に乗りすり寄っている。懐いているのが分かる。
「ほおー、思っていたより厄介な者を連れておられる。まさかこの闇を消した……浄化したのでしょうか?どちらにしても面倒ですね。仕方ありません。先にお二人に死んでもらいましょう」
二人?私とエリック兄様のこと?
死の商人は杖を振り上げると、私達の上にある刃物が一斉に落ちて来た。
「キャー!」
私は目を瞑り短く叫び声を上げてしまった。
………おかしい、痛くない。何の感触もない。
私はゆっくりと目を開けると空中で刃物が停止していた。エリック兄様も同じ様な状況になっている。
どう言うこと?何が起こっているの?
「悪いがそうはさせない。その二人には聞きたいことがあるでね」
どうやらこの刃物を止めてくれたのはあの少年の様、これをどうやって止めたのか、さっきから分からないことだらけよ。
「まったく持って邪魔ばかり、しかしこのダークゾーンの中でいつまで強気でいられるか見物ですね」
少年の周りの壁と床からまた人形の何かが出て来た。ダメ!?アイツらの叫び声を聞くと一気に力を消されてしまう。
「あ!みんなスト〜ップ!」
少年が声をかけるとその人形の何かは一斉に止まった。
「お!上手く話が通じたみたい。ねーねー皆さんそこにいるのつらいっしょ!天国に行けるかは分からないけど、ボクが皆さんを解放しちゃうよ!」
少年は何かブツブツと人形の何かに話しかけている?そんなこと出来るの?
「あ、うん!大丈夫だよ。ボクに任せてアイツはボクが倒すから、え!?信じられないって、気持ちは分かるよ。ボクみたいな子供に出来る訳ないって言いたいんでしょ。それじゃ〜サクッと証明するよ」
少年は死の商人に向かって歩き出す。
「どうやった!ダークゾーンの根源たる魂を止めただと、あの者らは私のスキルによって束縛されている。私以外には止めることは出来ない」
死の商人の顔が大きく歪み、今までと違い明確な殺意の目で少年を睨む。
「フン!そんなの知らん!単純にお前のスキルよりボクのスキルの方が強かった。それだけのことじゃないのか」
「この糞餓鬼が!いい気になりおって!死ねぇー!」
死の商人は杖を少年に向ける。
『ダークビースト』
『ライト』
杖が真っ黒なクマに変わり少年を襲うが、クマは一瞬で消えてしまった。
「バカな!?」
「弱いな。以前戦った死の商人に比べて格段に弱い。
どうやら死の商人達にも力の差があったみたいだな。
即死スキルを持ってるヤツらだらけだったら困ったからな。良い情報収集になった」
「クソガキー!勝った気になっ!?…………おっおぅ〜」
『配管(空間転移』+『ナイフ(空間加速)』
私は叫びそうになった口を押さえる。
死の商人はみるみるとその姿を変えてしまった。シワが増え目が窪み急激に老けてしまった。
動けなくなった死の商人に私は安堵した。しかしこちらに少年が近づいて来ると再び緊張が走る。
「あの〜大丈夫ですか?」
少年は私に手を差し伸べる。私は少し躊躇したけど、その手を掴んだ。




