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第281話 一人だけ生かします


◆エリックの視点


「あなたが……死の商人だと言うのてすか?」


「その通りですよ。信じられませんかな?ま〜それは構いませんよ。私はあなた達の魂さえ頂ければ良いので」


 死の商人がコツンっと強く杖で床を叩くと黒く変わった床や壁が波打ち、中から人形の黒い何かが身体の半身を出し絶叫した。


「うっ……ぐっ……」

 

 その声は不快な極まりなく身体が震え上がる。そして身体の力がはっきりと抜けていくのが分かった。


「あ!?……そんな……」

 声がする方を見るとラウラが膝を着いて驚いている。なんてことだ!ラウラは立ってすらいられなくなってしまったのか!?初手から魔法をかなり使っていた。だから私以上に体力が残っていないのだ。



「このままでは……」

 私は剣を構えると死の商人を守るように鎧騎士が

私の前に立ち塞がる。


「ラウラ立てるか?」


「もちろんですわ!このくらいで〜」

 ラウラは立った……でも足元がふらふらとおぼつかない。これでは戦うことも逃げることも出来ない。


 

「ラウラそこに居ろ!私が殺る!」

 全身に闘気を巡らせ瞬間的にパワーとスピードを

向上させる。


『オーラバースト』


 上段からの一撃で鎧騎士を切断、もう一体の鎧騎士が近づいて来たところを横薙ぎで腹部を切断し上半身がゴロンと落ちて転がる。


「あとはお前だけだ!」

 死の商人に一瞬で接近。


「ほう、速いですね」

 表情がまったく変わらない。少々不気味だ。早く倒してしまおう。


「ここまでです!」

 下から振り上げるように胸を斬り裂いた。

 死の商人はバタリと倒れ闇に沈んていく。



「……………終わった」

 ボソリとひとりごとが漏れた。



「えー終わりましたね」

 背後から黒い気配が突然現れ、振り向くと腹部に激痛が走った。


「がぁっ!?」

 そこに居たのは無表情な男、ゆっくりと視線を下げると短剣があり、それが私の腹部に刺さっていた。


 そんな……倒したはず………




◆ラウラの視点


 え!?………兄様?

 死の商人を圧倒していたエリック兄様、その後ろにヌーっと黒い塊が浮かんで来たと思った瞬間、その姿が一瞬で変わり、その者の手には短剣が!?急いで声をかけようとしたけど力が入らない。その一瞬の遅れが絶望となる。

 

 

 エリック兄様の服が真っ赤に染まり、顔色は青白く変わり目が虚ろになっていた。


「にいさまーー」

 私の叫び声が響く。



「ラウラ!…………大丈夫だよ。ワタシは生きている」

 エリック兄様は刺された腹部を押さえながら、私に心配をかけまいと必死に痛みに耐えながら声を出していた。

 



「さて、勝負は決しました。一人は重傷で動けず、もう一人は立つので精一杯、さて、お二人にチャンスを

上げましょう。お二人の望みを教えて下さい」


 コイツ何を言い出すんだ!理解が出来なかった。


 死の商人はずっと無表情だった顔をこれでもかと言うほどに満面な笑顔に変え聞いてきた。


「「………………」」


「お二人共何も言わなくて良いのですか?助かるかも知れませんよ」

 

「おまえは……なにを言って……いるんだ!私達を見逃すとでも言うのか……」


 私は痛みに耐えながら言葉を発した。


「もしかして信用されていない。確かにもっともなことです。ですが本当ですよ。ただし助けるのはどちらか一人だけとさせて頂きます」


「キサマ!私に妹を裏切れと言うのか!」

 あまりのことに怒りを抑えられず、普段使わない言葉で叫ぶ。



「はて?何を怒っておられるのでしょうか。ん〜!ではそこのお嬢さん、あなたはどうでしょうか」


 死の商人は私からラウラへ回答者を変える。


「あなたふざけ過ぎですわよ!私がエリック兄様を殺されるのを黙って見ているとでも、あり得ませんわ!」


 ラウラ……そうな風に言ってくれるなんて、こんな時でも嬉しいよ。ありがとう。



「ん〜……なぜでしょうか?助かりたくないので?ん〜そんな訳がありません!………そうか!分かりました。どうやらあなた達には危機感が足りないのですね」


 死の商人はそう言うと杖を振り上げた。すると私とラウラの真上の天井から黒い刃物が大量に現れる。


「分かりますね。これをあなた達に落とします。少しずつ落としますのですぐには死ねません。とっても痛くて苦しいでしょう」


 この男なんてことを!?そんなことさせなうぐっ!

 カラダが動かない………血を流し過ぎた。


「さ…て…と!どちらからにしましょうか」


 死の商人の視線がラウラに向かおうとした時、私の口から自然とその言葉が出てしまった。


「助けてくれ……ラウラを傷つけないでほしい」

 絞り出すように心の叫びが出る。



「ほう……自分ではなく、妹さんをですか?素晴らしい……素晴らしいですよ!やはりあなた達は期待通りの方のようだ。では妹さんに死んでももらおう」


 はぁ?……なんだって……


「何を…言っているんだ、おまえは……約束が違うではないか!」


「約束?あー約束ですね。一人だけ生かします。ですがどちらにするかは私が決めます」


「何だと!?」

 


「そーです!その表情素晴らしい、期待を裏切られ苦しむ姿何度見ても良い。この後妹さんが無残に切り刻まれ死んでいく姿をあなたは傍らで見るのです。その時の負の感情、魂が私の糧となる。な〜に約束はちゃんと守りますよ!あなたは生かして差し上げます。心は死んでしまうかも知れませんがね〜ふふっふふふふ」


「やめろ……やめてくれーー」

 私の叫びは死の商人には届かず虚しく響く。



「それでは行きたいと思います。まずは1本、小さなナイフで行きましょう。狙いは……あなたの綺麗な瞳です」


 死の商人はラウラの瞳に目に指を指す。

 ラウラは恐怖で涙が溢れた。

 

 死の商人はコンっと杖を突くと、1本の黒いナイフがラウラの目を目掛けて落ちて来た。


 やめろーー 

 黒いナイフがゆっくりと落ちていくように見えた。私はなんて無力なんだ、妹を守れないなんて…………





「キューイーーーン…………パクッ」


 そこに通りすがりの小さなドラゴンが、落ちて来たナイフを口でキャッチ、私は呆然と綺麗な翼で飛ぶその姿を追うと、後から呑気な声が聞こえて来た。



 

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