第280話 ダークゾーン
「今宵は良い日でありますな。二つの若き魂との出会い。あなた方は何を望むのですかな」
部屋の隅に一人の初老の男が立っていた。
杖をコツコツと突きながら感情のない表情を向ける。
◆ラウラの視点
どなたですの?この男、まるで気配を感じませんでしたわ。只者では……ありませんわよね。
私は警戒し距離を取るとエリック兄様が私の前に守るように立つ。兄様は地の魔法を得意とし守りに適した魔法を多く持っている。それに対し私は風の魔法を得意としておりどんな物ても切り裂くことが出来る。だから自然と兄様が守りで私が攻めの役割配置となる。
「感じますな〜。これはこれは上質な魂でありましたか。しっかりと頂かせて貰います」
『ダークゾーン』
初老の男が一際強くコツンと杖を床に叩くとそこから闇が広がり部屋の床、壁、椅子などの家具まで真っ黒に塗り潰された。
何よこれ!?気持ち悪い。部屋全体から何かが蠢く様な気配を感じますわ。
「分かりませんが、手をこまねくくらいでしたら、攻撃あるのみですわ」
『ウインドショット』
人差し指を向けて銃の様に空気の弾丸を撃つ。
しかし……
「え!?そんな……」
空気の弾丸は敵に当たる前に霧散した。
「ラウラ動揺するな!攻撃されるかも知れない注意するんだ!」
『ダークバインド』
黒い壁から黒い帯が伸びてくる。
「させない!『アースウォール』………!?」
エリック兄様は魔法を行おうとしたが、なぜか何も起こらない。
「しまった!?」
エリック兄様の両腕が黒い帯によって拘束される。
「エリック兄様!」
私はエリック兄様の拘束を切る為近づことすると足に突然負荷がかかった。
「そんな!?いつの間にですわ」
私の足にもエリック兄様と同じ帯が巻き付いていた。なんてことでしょう!私もお兄様も動けない。
「絶望するのです。その気持ちが我々の糧となるでしょう。それでは宜しくお願いします」
「絶望、私の大嫌いな言葉ですの!お断りさせて頂きますわ!」
私は腰に差した短剣を引き抜き、風魔法を付与し切れ味を上げて黒帯を切断。
『エアストライク』
私は一気に加速、エリック兄様に接近して同じ様に拘束していた帯を切断した。
「助かったよラウラ」
「えぇ、エリック兄様」
私は初老の男を見据える。
今ので分かった。エアストライクで移動中魔法の力が失われ遅くなっていった。この黒い空間では魔法の力が弱まってしまう。
「エリック兄様、出来るだけ魔法は使わないで下さいませ」
「あ〜どうやらあまり良くないようだな」
エリック兄様言わずとも理解して頂けたようですわ。
剣を引き抜き構える。
「その意気……とても良いです」
初老の男は杖でコンコンっと地面を突くと床から
黒い鎧を着た騎士が浮き出て来た。
来ますわ!
騎士は剣を振り上げ斬り掛かって来た。私は短剣に
風魔法を付与させ、さらに伸ばし剣の様に扱う。
騎士の動きは単調で剣が面白いように当たるけど、この騎士中身が居ないなんて、魔法で出来た鎧の魔物ってことかしら、さっきから斬っても一向に倒れないですわ。
エリック兄様も同じ様に苦戦していますわ。このまま戦うのは得策ではありませんわね。速攻で決めますわよ!
『フェザーストーム』
風魔法で出来た羽根を大量に放ち渦巻く様に鎧騎士を飲み込んだ。
「ハァ〜ハァ〜……やりましたわ!」
私は肩で呼吸しながら倒したことを確信する。鎧騎士はズタズタに傷が入り両膝を地面に着いて動かなくなっていた。
このダークゾーンと言う空間は恐ろしいけど、魔法やスキルを完全に封じる物ではない。接近して攻撃すれば十分な威力が発揮できるのよ!
エリック兄様はまだ倒せてはいないけど、かなりの斬撃を当てている。これならすぐにでも倒せる。だから私は術者を倒せば良いですわ。
『エアストライク』
私は初老の男に一気に接近しようとすると、周りの床、壁から無数の黒帯が重なり壁を形成、攻撃を阻まれる。
………なんて面倒ですの!
黒帯は斬っても斬っても増えて壁が再生する。これでは攻撃が通らない。
「ラウラすまない!待たせたな」
「エリック兄様!」
鎧騎士を倒したエリック兄様が駆けつける。黒帯の壁に向かって剣を振り下ろす。
「ザクッ」………大きく壁が裂けた。
「今ですわ!」
エリック兄様の強烈な斬撃で開いた空間を風魔法で
無理やり押し広げ、そこへ私とエリック兄様は突撃し
初老の男を探す。
「どこ、どこですの、隠れていないで出てきなさい」
壁の向こうに居たはずの初老の男が居なくなっていた。
「時は満ちた………狩りの時間である」
どこからともなく男の声が聞こえると、再び床から
鎧騎士が2体浮き上がって来た。
「またですの!面倒ですわね!無駄なのが分かりませんの!こんな木偶の坊何体居ても倒せますのよ!」
さっきの戦いですでに動きは見切った。さっきより
楽に倒せるはずよ。
「はぁ!」
一気に鎧騎士に接近し風魔法の剣を振り下ろす。
しかしその攻撃は躱される。
「躱された!?……逃がしませんわ!」
追撃の横薙ぎを放つもその攻撃はバックステップで躱される。
なんで!?まさかさっきより速い?
私の体勢が僅かに傾くと、そこを狙って鎧騎士は剣を振り下ろした。
大丈夫、この程度の速さなら躱せる
そう判断したのだけれど………
「うっ!………キャー」
身体が思っていた通りに動かず、剣を躱すことが出来ず受け止めるも、力でも負けてしまい。吹き飛ばされた。
「ラウラー!」
エリック兄様は飛びついて私を受け止めた。
「うっ……助かりましたわ。エリック兄様」
「ふっ…兄として妹を守るのは当然だよ」
エリック兄様は優しく微笑みかける。それを見た私は心を落ち着かせる。しかし状況は良くない。エリック兄様も身体にいくつもの切り傷があり血が流れていた。幸い深手ではなさそうだけれど、なぜなの?まず、その言葉が頭に浮かぶ。鎧騎士は頑丈であったけど、私達よりも遅く、動きも単調だった。攻撃を躱すのは容易だったのに躱せなかった………!?
え!?……もしかして私達が遅くなって…る
『絶望しなさい。『ダークゾーン』はあらゆる力を奪い消し去る。私は死の商人、魂を刈り取る者です」