第271話 美女と可愛い主婦
◆ノルンの視点
「やぁ!こんにちは!ご機嫌麗しゅう」
男は若い女性達をかき分けて声をかけられた。
誰コイツ?知り合いじゃないはずだけど。
「こんにちは………ごめんなさい。あなたのこと
覚えていないのだけど」
私は首を傾げる。
あ!でもアポロンかもと思って視線を向けると首を振って否定する。
「すまない。君とは会っていないかな……ん?
君……まさかバロンさんの娘さんじゃ」
私を見てその人は何かを思い出した様に言った。
「あれ?あの〜私のこと、知っているんですか?」
「良かった。あっていたんだね。そうか……バロンさんの娘さん、君が小さい時に一度だけ会ったことがあるよ。まだ君は小さかったから覚えていないだろうけど私はバロンさんに昔すごくお世話になったんだよ」
その人はすごく嬉しそうな笑顔を向ける。
いくつくらいの人かな?見た目は二十代前半くらいに見えるけど、私はこの人のことを全然覚えていない。だから会ったとしたら十年くらいは前だと思うけど。
「もし良かったら一緒に食事でもどうかな?
バロンさんの話も聞きたいし」
う〜ん……この人なんか嫌なのね。周りの女性が
まとわりついているのにスカした顔で全然見ていない。
この人モテるのが当たり前だと思っているのね。
「すいません、この後急ぎの用事があるの。
またの機会させてもらえますか」
「そうか……残念だよ。そうだね。またの機会を楽しみにしてるよ。でも一つだけ聞かせてほしい。君の名はなんと言うの?」
「ノルンです……それでは失礼します」
「教えてくれてありがとう。私の名はトリスタンだ!
次に会う時まで覚えてくれると嬉しいな」
トリスタンは不敵な笑みを浮かべてノルンを
見送った。
………………▽
イグニス達王都に着いてから2時間後、今度は
スカーレットのパーティーが到着する。
◆アーチの視点
「久し振りの王都、相変わらず大きいだけで品が
足りないのよね」
「王都ならラムネの実とクーリ芋が絶対あるはず!
タクちゃんに甘くて美味しいデザートを作るわよ」
スカーレットとミルキーはスタスタと城門に歩いて
行ってしまう。
そこにポツンと残されるアーチとティア。
「ねぇ〜ティア私達どうすれば良いの?」
「アーチ私に聞かないでよ!あの二人自由過ぎるのよ。たぶん私達が言っても聞かないわよ」
ボソボソと小声で文句を言いながら二人はスカーレットとミルキーに付いて行った。
王都に入ってからこの二人はウロウロと歩き回る。私とティアはそれに付き合わされたのだけど、本当に疲れた。
「な〜綺麗な姉ちゃん遊ぼうぜ!」
「うひょ〜良い身体してんな〜。たまんねぇ〜」
これで何度目だろう。二人は歩く先々で男達にナンパされる。私達には全然声がかからないのに〜クソ!乳か!あんなのただの脂肪の塊じゃない!何が良いんだぁ!
「アチャ〜!?」
「ギャーー!?」
男達がバタバタと倒れる。これも見飽きた。
この二人来る男達を問答無用で叩きのめす。こうやって調査の指示を受けたからにはそれなりに強いと思ってはいたけど流石ね。スカーレットさんは相当な実力を持った魔法使い、ミルキーさんは…………正直まだ分からない。すごく優しそうな顔の女性なのにあっと言う間に倒してる。しかもどうやって倒しているのかさっぱりなのよね。何なのこの人?
それから散々歩き回った後、宿を取り食事をすることになったのだけれど。スカーレットさんは一人部屋に戻った。私はティアとミルキーさんと一緒に食事をする。
ミルキーさんとの食事は少し疲れたかも、タクトくんの昔の話を聞かせて貰えた。内容は面白かったと言えば面白かったけど、日常の他愛のない話もが多くそのうえ全然話が終わらない。おかげで私の頭はタクトくんでいっぱいになった。
……………▽
食事を終えて部屋に戻る。宿は二人部屋をニ室頼みスカーレットさんとミルキーさんとは別の部屋にして貰った。
「はぁ〜疲れた」
私はドカッとベットにだいぶする。
「アーチ別にそこまで疲れることしてないわよ」
ティアは寝そべっている私の隣に腰掛けた。
「それはそうだけど……」
今日聖騎士団訓練をしていた訳では無い。町中をただたくさん歩いただけ、いつもに比べれば楽な方なんだけど。
「アーチが言いたいことも分からなくはないよ。あの二人我が道を行くって感じだから、日頃気を使わないアーチからすれば疲れるわよね」
クスクスとティアは笑いながら言った。
「も〜う!ティアの意地悪!私だって日頃から気は使ってます〜!空気読めないみたいに言うな〜!」
私はティアの腹部に抱き着くとコショコショっとくすぐり反撃開始、笑いながら逃げようとするティアを攻め続けた。
「ドン!」………隣の部屋から物がぶつかった音がする。
くすぐられベットから落ちたティアを起こすと、何かあったのかな?とお互い目を合わせ無言で意思疎通する。
僅かな時間静寂が流れ次の瞬間、部屋の壁が崩れ何かが飛び込んでくる!
「ほえ!?」
「はへぇ?」
私とティアはそれを見て変な声が出てしまう。部屋の中に転がっているのは人間、顔面を腫らした男である。なんでそんなヤツがここに……
「おらぁ!このアマよくもやりやがったな!」
「調子乗ってんじゃねぇ〜ぞ!オラ!その服ひん剥いてムチャムチャにしてやんよ!」
男達の怒号が隣の部屋から聞こえる。
私とティアが困惑していると、部屋の扉が勢いよく
開き見知らぬ男達が雪崩の様に入って来た。
「なになに!?なんなのよ!あんた達誰なのよ!」
大声で叫ぶ私にニタニタと下品な笑みを浮かべる。
「へっへっ、運が悪かったな!隣の女どものついでに
お前らとも遊んでやるよ!」
コイツらもしかして昼間スカーレットさん達を
ナンパしていたヤツらの仲間!
でもそんなことはどうでも良い。
「何?私達はオマケ?……良いわよ。たっぷりと私達の
魅力……教えてあげるわ」
私は拳鳴らしながら怒りの闘気を放つ。
「吹っ飛べバカヤロー」
私は拳を大きく振り上げる。
「ギャーーーーー」
隣の壁がさらに崩れ、隣の部屋の隔たりがまったく
なくなり床には血だらけの男達が転がっていた。
「私に触れたいのなら火傷くらいじゃすまないわよ」
鮮やかな赤い服をなびかせた美女の主婦。
「痛いの痛いの飛んでいけ〜……痛みの先には甘美な味がするの。あなた達も味わう?」
ごく普通の可愛らしい主婦。
二人は男達を踏みつけながらこちらにやって来る。
私は静かに拳を下ろした。