第27話 迫られる選択
人はどんなに聖人のように徳が高く、人格高潔で、生き方において他の人物の模範となるような人物であろうとも人であり、完璧な存在ではない。
パトリアさんは優しく、困っている人がいれば、必ず手を差し伸べるような、誰しもが好感を持つ理想的な女性だ。だからと言って、人を恨み、怒り苦しめてやろうと思わないわけではなかった。それは周りの人間や俺の見勝手なイメージ。
パトリアさんの心は……嫉妬に堪えられず、
二人の事を……殺したいほど憎んでしまった。
「う〜ん……そうでしたか…辛かったですね」
俺は淡々と応えた。
「タクトくん…思っていたより反応が冷たいのね。私はもっと怒られるか、それとも悲しんでくれると思ってたんだけどな〜………でも仕方ないかこんな酷い女だもん、はぁー捨てられて当然だよね…」
「そんな事はないですよ!」
俺は即座に否定、うつむいていたパトリアさんがこちらを見る。
「タクトの初恋の人が酷い女性なんてありえませんから」
「え!?……初恋…ワタシがタクトくんの……」
驚き戸惑うパトリアさん。
「あれ?覚えていませんか、ボクは大きくなったらパトリアお姉ちゃんと結婚したいです!……タクトにしてはずいぶんと積極的だと思いますけど、パトリアさんは覚えていませんか?」
「え!?でもそんな……」
あたふたと動揺するパトリアさん
「あれ?覚えていませんか?ま〜結構昔だし子供が言っていることをいちいち覚えていませんよね」
アハハと笑って答える俺
「違うの!覚えているよ!覚えているけど……あれは私がお父さんとケンカして家でした時に偶然タクトくんと会った時の話で、私はなんでそんな事を言われたのか分からなかったの」
「パトリアさんはいつも優しくボクに接してくれた。そんな人が悲しんだり困っていたら男として守ってあげたくなるじゃないですか、あの時のボクにとってはパトリアお姉ちゃんをずっと守りたいと思う言葉がそれだったんですよ!だからあなたは酷い人なんかじゃないですよ!素敵な女性だとボクは思っています」
「そっか〜そうだったんだ、それならもう少しタクトくんが大きくなるのを待ってれば良かったな〜」
「本当ですよ!ちょっと頼りないですけど、タクトは良いやつなんです!おすすめですよ!」
「本当だね!それにしてもなんで自分のことなのに他人事みたいなの……変だよ〜」
「アハハ、本当ですね〜」
それから少しの間笑っていた。でもその時が来てしまった。
「うっ!?……」
「パトリアさん!?」
突然苦しみだすパトリアさん、その後ろに再び半透明の老婆の悪魔が見えた。
「そろそろええかのう〜下らない話をしおって、時間切れだよ!さ〜ワシは去るとしようか」
「そうはさせない!あなたは私と一緒に死ぬの!タクトくんお願い、私を殺して!もう罪を重ねたくない!」
自分の身体を必死に制御しようとババア悪魔に逆らうパトリアさん、とても辛そうだ!
「ヘヘッへ無駄だよ!この坊主にはそんな事は出来ない。な〜そうだろ〜大好きなパトリアお姉ちゃんを殺さないでおくれ〜」
ババア悪魔は俺が攻撃出来ないことを良いことに、好き勝手なことを言いやがる。しかしどうする。パトリアさんは死を望んでいる。そして悪魔をここから逃がすことは出来ない。なら選択肢は一択ここでパトリアさんを殺す…………
「無いな!そのパトリアさんを殺す選択肢はないわ」
「ケッケッケ、そうだろう〜良いよ!大人しくしてな」
「ダメだよ!タクトくん、私のことは良いからお願いよ!」
俺はきっぱりとパトリアさんを殺すことを否定する。ババア悪魔もパトリアさんもなんか言っているがそんなもん知ったこちゃないね!俺はパトリアさんに生きていて欲しいんだ!だから理屈じゃなく俺がしたいことをするんだ!
俺は強い思いで決意した時、「カタカタ、カタカタ」とまたしてもツールボックスが揺れて何かを知らせてくれた。
「今度はなんだ?」
ツールボックスを開けるとそこに入っていたのはハンドライト、これは一体どんな効果を持っているんだ?
俺はハンドライトを取り出し、その使い方を理解した。
「はぁ〜……カンナありがとう、君のおかげで諦めなくて済むよ!」
ツールボックス(カンナ)はカタカタ揺れながら喜んでいた。
「ボクはパトリアお姉ちゃんを助けるんだ!上手くやってみせる!」
俺はババア悪魔に取り憑かれたパトリアさんにライトを向けて点灯!
『ホワイトライト!邪悪なる者を照らしだせ』
「ウゲ〜!?」
奇声と共にパトリアさんからババア悪魔が押し出させれる。
「オリャー、行けー」
俺はプラスドライバーを回転させながらババア悪魔に向かって投げた。
「ビスロック!」
ババア悪魔の腕にドライバーが突き刺さり、動きを止める。
「な!?そんな馬鹿な、何をしょった!クソガキ!」
鬼の形相で睨み威圧する悪魔、やってみないと分からなかったけど、上手くいったみたいだ。ババア悪魔を空間に貼り付けることに成功した。
「タクトくん……何をしたの?」
呆然とババア悪魔を見て、自分の身体が自由に動く事を確認し安堵するパトリアさん。
「ふ〜う……上手くいきました!パトリアさん、ボクって案外諦めが悪いんですよ!」
ニカッと笑顔で上手くいったことを伝えた。
「もう〜タクトくんはもう少し、自分の事を気遣わないとダメだよ!」
パトリアさんはそう言って、笑顔で涙を流した。
なんとか解決出来そうな兆しが見えた。俺はそう思っていたけど、事はそう簡単な話では済まなかった。
「グスッ……ありがとうタクトくん、でもダメなの、私は逃げられない」
「え!?なんでですか」
俺が驚くなか、ローム先生が飛んで来て、その問題について説明してくれたのだ。
「タクトよ!その娘は悪魔と契約をしてしまったのじゃ、それは肉体だけではなく魂にまで刻まれておる。それからは逃げることは出来ぬ!」
博識なローム先生の一言は、俺を絶望のどん底に突き落とした。