第249話 人生を変えた人側は実は………
「キョウカこれはどう言う状況だ?」
アルスが光の輪で簀巻きみたいになって転がされていた。
「そいつ、いつも私のこと追いかけ廻すから城に幾度に撒かないとついて来るのよ。だから簀巻きにしておかないと安心出来ないの!」
「あぁ……そう、大変だね」
キョウカは心底嫌そうな顔をしていたので、色々と大変だったのが伺える。だけどこの人って結構偉い人なんじゃないかと思うので少し心配。
「まさか大魔導師キョウカが来てくれるとは、これは助かったぞ!」
ブライアンはアルスの事を一切気にせずノシノシとキョウカの下へ足を進むる。ブライアンの様子からアルスが簀巻きになるのは日常茶飯事のことなのかもしれない。
「ブライアンさん、どうかしたの?そんなに慌てて私何も聞いていないから知らないんだけど」
「そうだったか、キョウカよ!国王がボルジアの手の者によって猛毒を受けてしまわれた。回復魔法で治療をお願いしたいのだ」
ローラン様もキョウカに治療をお願いしている。
あ!そっかキョウカは大魔導師として王宮内でもかなりの地位に居て、きっと発言力もあるんだ!だからローラン様達も気軽には命令は出来ないのか。
「え!?国王が!それは大変じゃない。でも私より適任者が居るから、その人にお願いした方が良いと思いますよ」
「何を言っているのだ!大魔導師であるキョウカ殿を差し置いて誰が居ると言うのだ!」
ブライアンはキョウカに詰め寄ろうとしたので俺がそれを制した。
「なんだキサマ!邪魔をするつもりか!いい度胸をしているではないか!」
「落ち着いて!別にキョウカは助けないって言ったわけじゃないよ」
「五月蝿いわ!黙れ下民!」
俺に向かって拳を振り上げる。
はぁ〜!?このおっさん短気かよ。
俺は手袋(空間障壁)で受け止めようとしたら、その前に止められた。
「やめろ!ブライアン、この者に手を出すのは私が許さん!手を引け」
「なぜだ?ローラン、このままでは国王が死んでしまうのだぞ!」
「まったく話を聞いておらんのか、他にもっと良い適任者がおると言っているのだ。なぁ〜タクトくんそう言うことだろ」
「はい、その通りです!話をしている間に来られました」
俺が指を指すとそこに一人の老女が立っていた。
「聖女様がなぜここに!?」
「さっきまで居なかったはずだが!」
二人は突然現れた聖女様に驚き大声を出してしまう。
「あら、お久しぶりです。ローラン殿、ブライアン殿お待たせ致しました。国王の下へ案内して頂けますか」
ローランはハッとして、即座に頭を落ち着かせる。今やるべきこと、それは国王の命を救うことである。ローランは急ぎ聖女様を連れて行った。
……………▽
馬車に入りさらに奥の部屋に入ると、一人の男が汗だくになりながら必死に呪文を唱え続けていた。
男の名はコラフ、才ある青年ではあったが解毒する力をまだ有しておらず、なんとか進行を遅らせることに注力していた。
しかし、もう魔力の限界が来てしまう。コラフが魔法を解けば国王の命は数分と保たない。分かってはいるのどが出来ないのだ。コラフは悔しさで涙が出て来る。………その時だった。まるで天から声が聞こえた様な錯覚をする程に綺麗な声がコラフを包んだ。
「コラフ……コラフお疲れ様でした。もう大丈夫ですよ。ここからは私が引き継ぎます」
意識が朦朧とする中、コラフは顔を向け、聖女様を確認すると安堵の顔をして床に倒れた。
『ホーリーソング第3節 癒しの天使』
聖女様の声が響き渡る。
音を聞くと穏やかな気持ちになり身体が楽になっていく。周りを見るとそこには光る天使が舞っていた。
これが聖女様のユニークスキルなのかと、ぼんやりと考えていると、コラフはいつの間にか身体に力が入ることに気がつきゆっくりと身体を起こした。
「おーコラフ、目を覚ましたのだな。身体の方は大丈夫なのか?」
ローランが声をかけるとコラフは短く返事をして国王の容体を観る。
凄い!?ほとんどの毒が浄化されている。私では進行を抑えるので手一杯だったのに!
コラフは改めて聖女様の力を知り、その姿に強い憧れを抱いていた。
「ふ〜……もう大丈夫です。毒はすべて浄化しました。後は体力が戻れば問題なく動けるようになります」
コラフは跪き手を組み頭を下げた。
「聖女様お助け頂き有難う御座います。貴方様のお陰で国王を救うことが出来ました」
「コラフ、国王を救えたのはあなたの力もあったからですよ。しっかりと自分に自信を持ちなさい。そしてこれからも怠けずに修練を続けるのですよ」
聖女様のこの言葉が後の教皇を誕生させることになるのだが、人生を変えた人側は実はそこまで思って言ってはいないことが多い。この時の聖女様も思っていた事をそのまま言っただけだった。
「あら?コラフ大丈夫…おーいコラフ〜起きなさ~い」
聖女様が声をかけるも、コラフは自分世界へ旅立っていた。
聖女が国王の治療を終えコラフの看病をしていた頃、外では新たな面倒事が起こっていた。