第246話 ローラン卿の戦い
重い斬撃が空を斬る。
ローランはラゴゥの斬撃を見事にいなし
懐に潜り込み斬りつける。
「無駄だ!ローラン、やめておけ」
なんということだ!?
私の剣ではこの男に傷一つつけられないと言うのか。
幾度もこの男を斬った。だが傷一つつけられない。
闘気に守られていることもあるが、魔物の力を
取り込んだラゴゥの身体から生えている毛が恐ろしく
硬い。
「ガッハハハ、どうやらお前の剣では
俺に傷はつけられないようだな!」
『バーンブレード』
魔力の込められた剣が上段から振り下ろされた。
ローランは身を引き躱すが剣が地面に当たった瞬間
爆発、その衝撃でローランの身体が浮く。
「はァァーー隙ありだぁ!」
太い腕が伸びローランの腹部を鷲掴みにした。
「ぐあぁぁぁーー!」
ラゴゥがローランを握り徐々に力を入れ始めた。
「お〜お〜情けないですぞ!ローラン、その様な声を
上げて、死にたくなければ命声でもしてみるかぁ?
助けてやるかも知れんぞ!ガッハハハ」
ラゴゥはローランの姿を見て嬉しくてたまら
なかった。ローラン程の大貴族を自身の思うままに
もて遊べることに強い優越感を感じていた。
「アハ!アハ!……面白いがあまり時間をかけては
国王を逃がしてしまうか、名残惜しいが一気に
握り潰してやろう。感謝しろローラン」
「クッ!……おのれラゴゥ、貴様の思い通りなど
させるかーー」
ローランは最後の力を振り絞り全魔力を闘気に
変え脱出を試みようとした時だった。光の筋が通り
ラゴゥの腕に突き刺さる。
「いてぇ!?なんだこの羽根は!」
ラゴゥは痛みで腕の力が緩み、その隙にローランは
手から脱出した。
脱出した後、ローランが見たのはラゴゥの腕に
刺さっている白い羽根、あの羽根はまさか!?
「お祖父様、大丈夫ですか!」
ローランは上空から天使が降り立ったかと
思った。自分の孫であるが神々しい程に美しい。
「ルナ来てくれたのか」
「はい!お祖父様、ここは私達にお任せを、
お祖父様はお下がり下さい」
ルナはローランの前に立つ。
「うむ!そうはいかんな!大事な孫娘を
あんな野蛮な男を相手に一人で戦わせたとなれば
セドリック家の名に恥じる。私も戦わせて貰おう」
ローランはルナの横に並び立つ。
「おう!やってくれるたな!ローランの孫よ!
クックックッ、話に聞いていた通り中々の美人では
ないか、ふっ、ローランお前の目の前で大事な孫娘を
潰してやろう」
ラゴゥはルナに目標をロック、舌舐めずりして
ニヤリと笑う。
ローランの眉間がより怒りをあらわにした。
「お前のような者に指一本すら触らせるものか!」
ローランはルナの前に出て守るように構える。
「お祖父様大丈夫です。この大男は未来の旦那様に
お任せしますわ!キャッ」
「えぇ〜!?」
孫娘が恥ずかしそうにしている姿を見て、
ローランは仰天、一体孫娘に何があったのだ!
ローランは孫娘に何があったのか聞きたくて
仕方なかったが、今はそれどころではないので
グッと我慢することにした。
「お祖父様、お怪我をしております。
まずはこちらで治療を」
「ルナ何を言っているのだ?そんな悠長なことを……」
ローランは孫娘のルナが言った言葉に特大の
クエッションマークを付けるも次の瞬間叫び声が
聞こえ前を見るとラゴゥが居なくなっていた。
「あ!?あれ……アイツはどこに行った!」
ローランは周りを見渡すが取り巻きの騎士達しか
居らずラゴゥは跡形もなく消えていた。
代わりに赤髪の美しい女性が現れた。
「ルナお姉様、変なことを言わないでくれます〜」
髪をなびかせながらこちらに来た女性は
よく見るとバロンの娘の確か名はノルン。
「何を言っているんだ!私は何も変なことは
言っていないぞ。事実を言ったまでのことだ!」
「それのどこが事実なんですかぁー!」
ルナとノルンは視線でバチバチと火花を
飛ばしていた。
「おい!お前達何をやっているのだ」
ローランは二人の雰囲気に押されてはいたが、
周りにはまだ敵が居る。二人を一喝した。
「そうね。その話は後にしましょうルナお姉様」
「分かったわ!ノルン周りの敵をしばらく任せても
良いかしら」
「もちろん、全部私がやるわ!」
「ふふっ、無理はしないでね!ノルン」
二人の話はついた様で良かったとローランが
胸をなで下ろしていると、何故かルナがこちらに
来て離れるように言った。
「ルナよ。私はまだ戦えるぞ!」
「も〜う、お祖父様ったらお歳をお考え下さいな。
そちらで私が治療を行いますので」
「なに!?ルナも戦わんのか!」
「いえ、お祖父様の治療が終わりましたら
私も参戦します。ですが恐らくその前にノルンが
倒してくれると思いますけど」
なんと!?あの敵をバロンの娘のノルンだけで
倒せるだと?そんな………しかしルナは冗談を言う様な
娘ではない。つまり本心から出た言葉と言うこと、
あの娘がそれ程の実力者だと言うのか。
ローランは驚きながらもルナの治療を受けるが、
大事なことを思い出す。
「いや!待てルナよ。ラゴゥはどこへ消えたのだ!
ヤツは危険なのだ」
「それは全く問題御座いませんよお祖父様。
もしかしたら今頃倒されているかも知れません」
ルナはニコリとローランに笑いかけた。