第244話 動き出したボルジア公爵
ラキが目を覚ました後、たぶん疲れていたのだろう。部屋に戻ると急にねむくなりベットダイブ、すぐに寝てしまった。
目を開けると明るい……どうやら朝になったようだ。だけどまだ眠い。もうちょっと寝よ〜っと。
俺は左に寝返る。
…………頭が追いつかない出来事が発生した。
「あら!タクトくん起きたの?おはよう。昨日は疲れたでしょ。もう少し寝たら?」
頭が痛いほど脳をフル回転で回しているが一向に思い出せそうにない。
なぜ!?なぜ!聖女様が一緒に寝ている。
俺はダラダラと脂汗を流し焦った。
俺って……まさか聖女様に手を出したのか!?
「五月蝿いわよ!静かにしなさい!まだ私は眠いのよ…」
今度は後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。俺は恐る恐る後ろを見ると、そこにイリスが寝ている。
過ちを犯したなんて生易しいものではない。万死に値するなんて言葉があるが、本当に一万回くらい死んでお詫びしないと許されないことを俺はしてしまった〜。
俺はあまりの出来事にワナワナと怯えていると……布団がかかっている下半身の方からモゾモゾと上がってくる。……もうお腹いっぱいです!助けてー!
俺は心の中で嘆いていると、「バァー!」と声を上げて出て来たのは………
「おまえかよ!カンナ」
拍子抜けである。
「なんや!その反応は〜、もっと驚かなあかんやろう!ウチが〜ベットの中から出て来たんやでぇ!驚かんならもうちょっと照れろや〜」
カンナはヤンヤンと首を左右に振っている。
なんで自分で言って自分で恥ずかしそうにしているんだよ〜。まったく楽しそうなヤツだな!
「さてと、カンナのおかげで頭が冷静になれましたけども、聖女様とイリス説明してくれるかな。二人はなんでボクのベットで寝ているんだ?」
聖女様とイリスが俺を挟んで見合わせる。
何度かの目配せのやり取りの後、なぜかイリスが面倒くさそうな顔をする。どうやったんだか、聖女様が勝ったようだ。聖女様みたいな人には逆らわないようにしないとな。
「私達タクトに話があって来たの。それで来てみたらあなた寝てるじゃない。メリダと話をして少ししたら起きるだろうって話になって、起きるまで待つことにしたら………寝ちゃったわ」
女神なのに人みたいな間抜けなことを言ってるよ。
ここ最近、イリスの態度が俺に対してゆるゆるだよ。
「分かった。ま〜良いや。それで何の話なんだ?」
「ハドリアヌス国王が暗殺されそうになって王都から逃げているみたいよ。あまり放置しておくと殺されかねないわね」
「…………はい?あんたら寝てる場合かー!さっさと助けに行かんか〜い!」
「それは無理よ!ここから出るにはあなたの力を必要ですもの、そこに居るカンナもあなたの指示がないとやってくれないてしょうし、それにしばらくは大丈夫だと思うわよ。ローラン侯爵が兵を引き連れて国王と一緒に逃げているから」
あっちゃ〜……遅かったか、ボルジア公爵の野郎、とうとう我慢出来ずに動き出したか?にしても早過ぎるだろう。良く考えろよ!いきなり国王が殺されたら一番怪しまれるのはお前だろうに、一体何を考えているんだよ。
「何にしても急いだ方が良いな。問題は国王様が今どこに居るかだ。探すったって何の情報もなしじゃ〜探しようがないぞ!」
せっかくラキの件が片付いて良い気持ちで寝たのに気分が台無しだ!また新しい難題が舞い込んで来やがった!
「それなら私が居る場所分かるわよ」
「え!?本当!流石は女神様頼りになる〜」
「褒めても何もないわよ。感謝するなら紅茶に合う茶菓子を出しなさいよ」
俺は無言で高級茶葉の紅茶とマフィンのセットを出すと宙を舞いイリスの下へ飛んで行った。
「うん!美味しいわ。今回の紅茶も茶菓子も当たりよ!タクト。運が良かったわね。国王の傍に居る王妃が持っているお守りに私の強い加護がかかっていたから、すぐに見つかったわよ」
「それは確かにラッキーだった。イリスそこはどこなんだ!すぐに行って連れて来る」
この場所にさえ連れてこられれば、ボルジア公爵に狙われることはない。
「そんじゃー行ってくるわー」
「タクトくん、まだ場所聞いてないでしょ」
「あ!ヤバ!忘れてた。イリスすまん!場所どこだ?」
「今回は特別にマーキングしておいたから、あなたの空間転移でも行けるはずよ!」
お!イリスさんあざーす!
俺の配管(空間転移)は行ったことがある場所か親しい人が居る場所にしか行けないからな。今回の場所は行ったことがない場所だからイリスが気を使ってくれたようだ。
「よっしゃー!起きたばっかりだけど気合入れて行ったるぜ!」
気合を入れて配管を設置、飛び込もうとした時、「バンッ」と力強く扉が開く。
「待ちなさい!タクト私も行くわよ!」
「タクトの行く場所に私ありね!」
部屋に入って来たのはノルンとルナ、お前達まで何で居るんだよ!まさか部屋の前にずっと居たんじゃないだろうな。
「隙あり!」
「あ!ノルン待ちなさい」
ノルンが俺に何も聞かず勝手に配管に飛び込んだ。それをルナが追いかける。
「まったくアイツらは遊びじゃないんだぞ」
俺はボヤきながら同じく配管に飛び込み配管の穴に落ちて行く。行き先が戦場なのに二人と行くからか、少しワクワクしている自分が居た。