第240話 あの世へLet's go④
真っ暗だ。暗い。暗すぎる。
屋敷の中に連れ込まれてから少し経ちのだが、何にも見えない。ここには照明はないのか?それとも必要ないのか?
「来たわね!私の使徒タクヤ」
「あ!すいません、それ前の名前です!」
突然闇の中から声が聞こえて呼ばれた。
呼ばれた名前が前世のものだったのでつい否定する。
「あら?そうだったかしら、ウンウン、そうね。あなたはタクトだったわね」
分かってくれて良かった。だけどどこに居るのよ?
「あの〜ヘカテー様ですよね。すいません暗くて見えないんですけど、灯りとかないですか?」
「あら?そうだったわね」
パチンっと指を鳴らす音が聞こえると一気に周りが明るくなった。
周りにあった松明に火が灯り明るくなったようだ。
ヘカテー様、以前は影しか見えたかったけど、こんな姿をしていたのか、一言で言えば絶世の美人と言ってもいい美しさ、長身のモデル体型に加え整った顔立ち、そして気になるのは屋敷と同じで白と黒に別れた長髪、後ろ髪はそれを巻いて見事なコントラストを作っている。………見事なり!
「久しぶりね。タクト」
「はい!ヘカテー様、ご無沙汰しております。この様な場にお招きありがとうございます。それで私にどの様なご要件でしょうか?」
「はぁ?何いってんだお前?」
ビリビリ……一気に空気が変わった!?
ヤバい!怖い怖い怖い!また選択をミスった!?
ぬぉーっと首を突き出し、俺をガン見する。
「いつになったら呼んでくれるの!」
はい?何のことだ?分からん!まったく分からん!しかしそれを正直に言うのは死を意味する。
「あーすいません、遅くなってしまって、実は色々と準備に手間取っていまして」
「準備?何の準備よ!私は早くイリスに会いたいのよ!」
あーなるほどそう言うことか、ヘカテー様は俺がイリスにヘカテー様の話をしたら呼んでくれると思って待っていた!それが正解だな!
「ま〜ま〜、そう焦らないで下さい。大事な友達のヘカテー様を歓迎するにはそれなりの準備が必要なのです。ですからどうしても時間がかかってしまう。ヘカテー様なら分かってくれますよね!」
ガーン……ヘカテー様は衝撃を受けていた。
良し!良い反応だ!もう一押ししておくか。
「私もイリス様の準備をお手伝いしております。ですので何をしているのかを教える事は出来るのですが、出来れば内容については聞かないで頂きたい」
俺は出来るだけ申し訳なさそうに振る舞う。
「それはなぜかしら?」
ヘカテー様はもちろん興味津々で目をギラギラさせていた。
「分かりませんか!ヘカテー様、それはイリス様がヘカテー様を喜ばせたいのです!歓迎の準備を教えてしまったら内容が分かってしまい驚きや感激が半減してしまいます!ですから絶対に言いたくないのです!イリス様の友達のヘカテー様ならもちろん分かりますよね!」
フッ……落ちたな……
ヘカテー様は感激のあまり打ち震えていた。
さっきまでの威圧感は微塵もない。
「タクト私に教えてはダメよ!私間違っていたわ!そうよ!そうよ!そうなのよ!イリスは私のために、う〜う〜……嬉しい!」
………▽
う〜ん……今のうちに逃げた方が良いのだろうか?俺の話を聞いてからヘカテー様は十分…二十分…三十分と時間が経っても動こうとしない。
俺は一歩……二歩……三歩と後ろにゆっくりと下がる。
「ドン」……背中に誰かがぶつかった。
「おい!どこに行く!」
後ろからドスの聞いた声が聞こえた。
ヤバいです。見なくても声と闘気で誰だか分かる。怖いけど答えないと殺される〜
俺はガクガクと後ろを振り向く。
ギロリとした鋭い目つきのオットアイ!ヘル姉だ〜。
「ど…どうも〜……いや〜トイレはどこかな〜と思って探しいまして、トイレってどこですかね〜?」
「この屋敷にトイレはねぇ〜よ!したいんだったら外でしろ!ここで漏らしたらもぎ取るからな!」
ひゃ〜ふ〜ん!もぎ取るってナニをですか!?
俺は股をギュッと閉める。
「なぁ〜!お前何かしたのか?ヘカテー様の様子がおかしいぞ」
「そうでしょうか、ボクには幸せそうに見えますが」
「あ〜それは俺にもそう見えるんだけどよ!それがおかしいって言ってるんだよ!ヘカテー様は日頃から表情が変わることがない!それなのに完全にニヤついているぞ!これは緊急事態だ」
「そうなんですか、これって緊急事態なんですか、では忙しそうなんで、ボクはそろそろ御暇しますね」
俺は何事もな〜く部屋の入り口に足を進める。
「おい!ちょっと待て!」
「何でしょうか?」
「お前そのまま帰れると思ってるのか!」
「ですよね〜ムリっすよね!」
凄まじい闘気が鋭く刺さる。
ヘルさんの刺さるから居るだけで痛いんだよ!どうやったらこんな闘気の出し方が出来るんだ。
来る!『空間障壁』
俺は闘気から攻撃が来ると判断し、即座に防御態勢を取る。しかしヘルさんはそれを難なく殴って破壊、ヘルさんの腕が俺の首に伸びる。
俺は死を覚悟した。でもそれは来なかった。
「待ちなさい!ヘル」
俺の首を掴む寸前にヘルさんの腕が止まった。
「ヘル……私の使徒に手をあげるのはよしなさい。殺すはよ!」
ヘルさんとはまったく違う恐怖!
一瞬で命が刈り取られそうな程の濃密な殺気、いや、闇だ!暗くて死を自然と意識させる闇そのものと思える恐怖がヘカテー様から放たれている。
「申し訳ありません」
ヘルさんは頭を下げる。
「ヘル謝罪は要らないわ!それよりも一刻も早くタクトを地上に戻しなさい!」
「ヘカテー様分かりました!」
ヘルさんは返事が速いか俺を掴むのが速いか分からない速度で俺を持ち上げ一瞬で屋敷を出る。それてそのまま走って冥界(あの世)から出て行った。
………俺は生きて冥界(あの世)を出ることが出来た。