第232話 一世一代の大購入
遺跡のお宝で聖都マーリンの住民をしばらく受け入れるだけの資金は手に入った。取り敢えず順調にことは進んでいると思いたい。
俺達はそれから聖都マーリンに車で戻っていた。
「タクトさん、あれが聖都マーリンですか?綺麗ですね。ボクワクワクしちゃいます」
「落ち着いて下さいパズムさん、それとシートベルトつけて、危ないですよ」
はぁ〜と心の中でため息をする。
なんでこんなことになったのか、今助手席にはパズムさんが座っている。久々に外に出れたので終始テンションが高い。
「でも本当に良かったんですか?遺跡をあのまま放置してしまって」
「タクトさん問題はありませんよ!私が守っていたのはその卵なんですから」
俺のポケットにはパズムさんが言っている卵が入っていた。普通の卵ならポケットなんかに入れたら割れるから絶対にやらないんだけどね。普通じゃない。メッチャ硬いんだよ!この卵、なんと言ってもドラゴンの卵らしいからな。
パズムさんに言われ卵を受け取ってしまった。
俺は生き物を育てる余裕なんてないし、それにドラゴンなんてなおのこと育てる自信がない。なんとか言い訳をして断ろうとしたのだけど、「大丈夫だからボクがフォローするから」とパズムさんに押し切られ引き受けてしまった。はぁ〜さっきからため息しか出ない。
聖都マーリン到着した。
正門の門番に挨拶して入ろうとすると、鋭い目つきを向けられる。目線の先を見るとパズムさんだった。
「そちらの方はどなたでしょうか?あまりこの辺では見かけない種族のようですが」
ん?そう言えば竜人って今まで見たことがないな〜。もしかして珍しい種族なのか?
「気にせんで良い!教皇である俺が許可をする。通してやって来れ」
「はぁ!承知致しました」
教皇のおっさんのおかげで入ることが出来た。
「ありがとうファーガス説得してくれて」
「なーに大したことじゃない。この辺にはもう竜人はおらんからのう、皆もお前さんを見たら警戒すると思うが悪く思わんでくれ」
「えぇもちろんですよ。ボクを良く思わない者の方が多いと思いますので、先程の視線くらいなんとも思いません」
「そうか、それは助かる」
パズムさんは本当になんとも思っていなさそうだ。
しかし気になるな?
「教皇様何で竜人は居なくなったのですか?」
教皇のおっさんは明らかに顔をしかめる。
「滅ぼされたんですよ。三百年程前に、ファーガスが気にすることではありませんよ」
教皇のおっさんが答える前にパズムさんが答える。気を使ってのことか、滅ぼされた。あまり軽はずみに聞いてはいけないことのようだ。この話はここまでだな。
「タクト〜お帰り戻ったのね」
「ルナお疲れ、そっちは片付いたのか?」
ルナがアーチ達部下を連れてこちらにやって来る。
ルナ達聖騎士団は聖都マーリンに侵入した魔物殲滅を行っていた。かなりの数だったと思うが。
「うん、先程確認が取れたわ。聖都内にはもう魔物はいないわ。今は聖都内の警護をしているとこ、それよりもこの町を出るって本当なの!?」
「本当なのって言われてもな〜、それを決めたのはボクじゃないし、その話は聖女様から聞いたんだろ」
「いえ、ティアに聞きました。でも大丈夫なのですか?聖都の住民全員となると、とても受け入れきれないかと思うんだけど」
ルナは心配そうな顔をしている。
俺としてもこの後のことを考えると頭が痛いのだが、あまりルナに心配はかけたくはない。
「それについては、ま〜なんとかなりそうだ!今ちょうど資金が調達出来た。少々時間はかかると思うが、今からソウルフロンティアに戻って準備をしようと思う」
「え!?そうなの、それなら私も行くよ!」
「いや、今はまだ良い。ルナはルナがやるべき事をやってくれ。それに今からやるのはボクにしか出来ない事なんだよ。ルナにお願いする時は必ず声をかけるからさ」
「んーータクト絶対に声かけてよね!それと無理はしないでね」
ルナにギュッと抱き締められた。
俺も随分とルナの好感度を上げたもんだ。
可愛い子に好かれるのは悪くない。ニヤニヤ。
さてと大丈夫って言ったからには気合を入れてやんないとな!
俺は教皇様達と別れソウルフロンティアへと戻る。
……………▽
「おーう!ここがタクトさんの町か、不思議なところだ。スー……ハー……とても良い気が満ちている」
パズムさんテンションがまた一段と高くなってる。ちょっと面倒くさい。今はあんまり来てほしく無かったけど卵の件があるからついて行くってまた押し切られてしまった。改めて思うけど、どうも俺は押しに弱い。
ま〜パズムさんのことは放っておいて、ちゃっちゃか住居を準備しますか。
俺はタブレットを取り出し、ポチポチスーポチポチスーとスクリーンを操作して良さそうな物件を探す。
探している物件は十階建てで五十戸〜八十戸入れる広さの物、今見る限り億は当たりまえで十億円前後の物が多いかな、高過ぎて目眩がしそうだけど、これを百棟建てようとしてるんだから、俺ってとんだ成り金野郎だな。またため息が出る。俺が思ってた平穏な生活はどこへ行ったのか?俺は空を見上げてしばらくぼーっとしてしまった。
「小休憩終了!マンション購入!ポチっとな!」
ここからは勢いでボタンを押し続けた。
購入金額を見てはいけない。
不安しかないのだから……一世一代の大購入。
順調順調……どんどん建てて行こう。
ん?あれ?………身体から急に力が抜けていく。
俺はふらつき倒れそうになると誰かが支えてくれた。
「あーーもう無理するなって言われたやろ!」
カンナが俺を優しく抱き締めていた。