第213話 皆を救う存在になりたい
「聖女様!あなたは一体何を考えておられるのですか!」
「バネス司教、どうされたのですか?」
「どうもこうもありませんよ!聖女であるあなたがこの様な場所におられたら困ります」
「大丈夫よ!私なんて居なくてもみんながやってくれます」
「そんな訳ないてしょがー!」
師匠が冷静さをなくしてあんなに大声で叫んでるのは初めて見る。
「ラキ、あなたの師匠は思っていたよりだいぶ堅物よね〜」
聖女様は私の横で耳打ちしてクスクスと笑っていた。師匠の新たな一面を見て驚いていたけど、それ以上に聖女様がこんなに気さくに話しをしてくれる人とは思わなかった。
「聖女様……本当に良いんですか?私のためなんかでこの教会にとどまってしまって……聖女様を頼りにしている人々だたくさん居るのではないのですか?」
「んん〜……自分で言うのは少し照れくさいわね。そうね聖女で私を頼りにしてくれる人々は多くいます。ですから私も決断したのです。次世代の聖女となる者を育てることもまた世界の人々を救うことに繋がると、だから私はここに来ました。もちろんあなたが必ずしも聖女になれると決まった訳ではありませんが、私と同じ志を持つ仲間であれば、それもまた世界の人々を救うことに繋がるのです。ですので全然無駄ではありませんよ」
聖女様はそう言って私の傍に半年もついて居てくれた。
「ちょっと外せない用事が出来てしまったから!一度戻るわ。せっかく楽しかったのに」
聖女様は教会のみんなに惜しまれ聖都マーリンへと戻る。
私は本当にこのままで良いのだろうか?
私はみんなに甘えている。恩返しがしたい。
…………本当に私はワガママよね!
私は神父様達に自分の思いを伝え聖女様が戻ってすぐに聖都マーリンに向かった。そして聖女見習いとして様々な修練とお勤めをこなして行く。とても大変で辛いことも会ったけど、仲間に認められ、人々に感謝され、とても充実していた。ここが私のもう一つの居るべき場所だと思えた。
「ラキ!待って私達も行くわ!」
こちらに走って来る白銀の騎士。
「ルナ、さっきも言ったでしょ!あなたが行くべき場所はそのじゃないの!私に任せなさい!」
「ダメよ!どうせラキはまた無理して戦場に出るつもりでしょ!拒否されてもついて行くから」
本当にルナも私と同じで頑固だから言うだけ無駄ね。
ルナの後ろで笑っているレビィとアーチ、彼女達も私の大切な仲間、また大切な人達が増えちゃったわ。私は本当に運が良い。
「それじゃ〜、さっさと準備しなさい。遅れたら置いて行くからね」
私は今日もお役目を果たすため困っている人達の下へと向かう。
……………▽
聖女見習いになり3年が過ぎ去りようとしていた時……訃報が届く。
………バネス師匠亡くなった。
悪魔に取り憑かれ殺されたと報告を受けた。そんなはずはない!そう思いたい気持ちと現実が交差した。
バネス師匠の遺体を見て否応にも現実を受け止めなければならなくなった。私の心にポッカリと穴が空いてしまった。
それから私は師匠のことを出来るだけ思い出さない様にお勤めをいつも以上にこなした。
「そこまでよ!ラキ」
「どうしたのですか?聖女様」
突然私の執務室に聖女様が入って来た。いつもと違って険しい顔をしている。
「話しは聞いたわ。随分と無茶をしていますね」
「聖女様何のことでしょうか?私は何も……」
私は意味がわからないと頭を傾げていると、ツカツカと聖女様は距離を詰めて、私の顔の前に手鏡を出した。
「よく見なさいな!自分の顔を!」
酷い……なんて顔をしているのよ!ワタシ。
目の下には大きなくま、眉間には大きなシワを作っちゃって、私は自分の馬鹿さ加減に笑ってしまう。
「ダメよ!そんなことで笑っては勿体ないわ。笑うのは幸せな時にするものよ!」
私は聖女様から目線を外し話をする。
「聖女様、それは無理です。もうワタシどうして良いか………」
ワタシは悲しみから逃げる為に働き続けていた。この悲しみをどう扱えば良いのか分からない。
聖女様は私を優しく抱き締める。
「ラキ、バネス司教についてはとても残念に思います。ですが亡くなったバネス司教はあなたが苦しむことは望んではいないでしょう。私は聖女と言われてはいますがあなたの心を癒す力は持ち合わせておりません。あなた自身で乗り越えるしかないのです。ですがラキ……あなたは一人ではないことを忘れないように、皆があなたを心配し支えてくれます」
聖女様はいつものように微笑んでくれた。
「はい……聖女様……私には教会の家族や多くの仲間がいます。私も聖女様の様に皆を救う存在になりたいです」
私は聖女様に救われた。
聖女様一言一言が心に染み渡る。心の穴を埋めることは出来ていないけど、私にはやりたいことがある。そう気付かされた。だからまた立ち上がり救いを求める人々に手を差し伸べるのだ。