第190話 開戦
「お勤めご苦労さま」
ルナ達と別れ、建物から出ると呼び止められた。
「あれ…聖女さ…ま?なんでここに!?」
「女神様のお導きでしょうか、あなたがここを通る様な気がしました。………戦に参るのですね」
「はい……任せておいて下さい!聖女様のご期待に添えるよう頑張ってきます」
「タクトありがとう。それではあなたに女神の加護があらんことを!」
聖女様が祈りを捧げると、俺の周りに光の粒子が舞初め、俺を包み込むように光の粒子は吸い込まれていった。
「これは幸運の祈りです。タクトくん、もしも辛い時や悲しい時には祈りなさい。きっとイリス様に祈りが届き奇跡を起こすでしょう。特にタクトくんは祈らなさそうなので、女神様もお喜びになりますよ」
聖女様はニコッと茶目っ気を出して笑う。
そして何で知っている?
「アハハ、そうですねたまには祈りますか」
「はいそうして見て下さい。タクトくんご武運を!」
俺は無言で頷き、そして再びスタンピードの場所を目指す。
……………▽
「徒歩だと遠いな〜」
考えでみると歩く距離じゃない。
勢いで出てきてしまった。
「しか〜し!ノープロブレム!召喚ラ◯クル〜」
フッフッフッこんなこともあろうかと、タブレットで購入済みよ!しかも高級SUV、元の世界ではお金がなくて、全然手が届かなかったけど、異世界に来て余裕で買えちゃったぜ!これで一気に目的地へGo!
俺は車に乗って快適な移動を楽しんだ。
「なんや!ここメッチャ快適やわ〜、乗り心地も最高やしずっとここに居たいわ!」
カンナは助手席でまったりとしている。
「カンナ、まったりするのは良いけどシートベルトは締めなさい!危ないから」
「なんや細いこと言いっこなしやで〜」
「ダメだ!安全運転するけど、何があるか分からないだろ。ほら〜シートベルトをつけなさい」
「なんやタクト、オカンみたいやわ!気にし過ぎやで〜ここは車が通っとるわけでもないやん………………でもアレやわ〜、シートベルトはつけた方がええな!」
カンナに注意してもなかなか言うことを聞かない。反抗期か?と思いつつ、たまにはビシッと言ってやろうと思ったら、急に言うことを聞いて、シートベルトを「ガチャッ」とつけた。
「どうした急に素直になって、まだ怒ってないぞ!」
「タクト、運転中は前みんとあかんでぇ!」
カンナが右前方に指を指す。
よく見るとそこから土煙が上がって………!?
「カンナのアホー、気がついたらすぐに言え!」
俺は慌てて左にハンドルを切ると、アクセルを目一杯踏み込む。
エンジンが高回転で回り爆音とともに急発進、横から轟音が聞こえて来た!間に合ってくれー。
恐竜のラプトルの様な魔物が100を軽く超える数で走って来た。このままだと購入初日で愛車がオシャカになってしまう。
俺はただただアクセルを踏み込み、逃げ切れる様に願った。
……▽
「はぁー……危なかった」
なんとか逃げ切れた。
まさに危機一髪、俺は魔物の群れから逃げ切ると少し高い丘に登り観察する。
「あれはスタンピードのほんの一部、はぐれ者か」
事前に聖女様から聞いた話ではスタンピードの魔物の数は数万……強さにもよるが数だけでも十分脅威と言える。
俺は戦闘準備をする。
・ヘルメット
・手袋
・バーナー
・プラスドライバー
・安全靴
「さてと、取り敢えずはぐれたヤツから
刈って行くか!」
俺はバーナーを魔物に向けてトリガーを引いた。
『空間延焼』
大地は一気に赤く染まり、魔物達の叫び声がそこら中から響いた。
…………▽
その頃ルナ達は急ぎ霊峰ラムラを登っていた。
登る途中ガーディアンが襲って来たが3人はそれを難なく退け山頂付近まであと少しと言うところで水の勇者が現れた。
「随分とお急ぎのようで、出来れば僕も誘って欲しかったですね〜」
不敵な笑みを浮かべる水の勇者ネロ。
「あぁわりい〜わりい〜お前のこと忘れてたわ!」
イグニスはそれをテキトウに返した。
「そうですか、僕もあなたのことを忘れたいと思っていました。消えていただけますか?」
「はぁっ!やなかった!」
イグニスから燃えるような闘気が立ち昇り、ネロから静かに闘気が広がった。
「ルナ、アポロン先に行けっ!アイツとは俺が殺る」
いつもの穏やかなイグニスと違い戦士の顔をした。
ルナとアポロンはイグニスの意志を察して無言で頷き二人から離れていった。
「ん?随分とあっさり二人を行かせたじゃないか?止めなくて良いのか?この先になんかあるんだろ」
「別に構いませんよ。どうせ彼らでは止められませんから」
「あぁ?アポロンはともなくルナは聖騎士団団長だぜ!そうそう止められるヤツがいるとは思えないけどな?」
「フフッ、普通に考えればあなたの通りですが、残念ながらそうはいかないですよ!我が軍の最新兵器には敵いません」
「またやってるのか、どうせ失敗作だろ」
「どうでしょうか、結構な自信作ですよ」
「そうか、ならチャチャとお前さんを片付けて追いかけるとしよう」
「いいでしょ、お相手しますよ偽物」
喋り終えると同時に赤と青の斬撃がぶつかった。