第19話 血の匂い……事件が起こった!
「ニキの件は母さんとも話しをして認めてくれたよ。ただ町の人達が驚き騒ぎになるから、外で喋るのには細心の注意を払って貰いたい。良いかなニキ」
「あ〜もちろんなのだ!同じヘマはもうしない。もしもの時は出て行くから心配しないてくれ」
「そうか、そう言ってくれると助かるよ」
こうしてニキは我が家の番犬になった。
…………▽
「ニキ、散歩に行こうぜ!」
「眠いからパスなのだ」
「食っちゃね、食っちゃねしてないで、犬らしく散歩しないと」
「俺は犬じゃないのだ」
「ダメで〜す。ニキは我が家の番犬なのだ〜!」
俺はブツブツ言うニキを引っ張り散歩に連れ出す。しばらく散歩をしているとノルンが前から歩いて来た。
「ノルンこんなところでどうしたの?」
ノルンはムスッとした顔をこちらに向ける。恐らくかなり不満が溜まっている。ここ最近剣術の鍛練ばかりして他の事が疎かになっている事がスカーレット様に伝わったらしく、スカーレット様が直々に貴族としてのマナーを叩き込いると父さんから聞いていた。
「何よ!ここに居たら悪いわけ」
「そんな事言ってないよノルン……大変だったね」
「もう、知ってるなら助けに来なさいよ!母様の指導がどんだけ怖いか!食事の時くらい好きに食べさせてよ」
「うん、大変だっただろうね!ボクじゃどうにもならないけど、話は聞くから歩こう」
せめて文句のはけ口にはなってあげよう。
それからニキの散歩をしつつノルンの話を聞いた。あ〜だこ〜だと話は止まらない。俺はその度にウンウンとノルンの話を肯定する。
「あ〜早く冒険者になりた〜い」
ノルンは昔から冒険者になるのが夢だとよく言っている。きっかけはスカーレット様の友人で凄腕冒険者であるベローナ様が遊びに来る度にハラハラドキドキする冒険の話をする。ノルンはそれを聞いて憧れた。特に自由気ままなに生きられるところが羨ましいようで、実にノルンらしい。
「あと一年だよ!もう少し我慢しないと」
冒険者になるには年齢制限がある。十五歳からだ。だからあと一年、だけどノルンは一応貴族の娘、そんな事、バロン様もスカーレット様も許しはしないだろう。
「ね〜タクト、気になってはいたんだけど、その犬どうしたの?」
「あ〜ニキね!家で飼うことにはなったんだ〜」
可愛いだろ!」
俺はニキに抱きつきモフモフ。
「うん、本当ね!でも私はどちらかと言うとカッコいいと思うわ」
ニキは褒められて「いや〜それ程でも〜」と心の声が聞こえそうなくらい照れたリアクションを取る。間違っても喋るなよ!
ニキが突然ニヤけ顔を止める。
目を細め小さな声で、「血の匂いがする」と言い出した。最初は何を言っているのか意味が分からなかったが、ニキの雰囲気から察すると……俺はもしやと思い。ニキにその場所の案内をお願いする。
「ちょっとどうしたの!待ちなさいよ!」
「ごめんノルン、急ぎたいんだ!」
「私をおいてくとか許さないわよ!」
ニキが匂いを追ってに走っている間、ノルンが色々と言ってはいたけど、俺を止めるような事はしなかった。
「ここか!ニキ」
ニキは無言で頷く。着いたのは一軒家、確か老人のパルメ夫妻が住んでいたはず、俺は声をかけるが反応がなかったので、ドアのノブに手をかける。「開いている」たぶん中に人がいるはずだ。俺は少しドアを開け顔をしかめる。むせ返すほどの血の匂い。
「ノルン、屯所に行って誰か呼んで来てくれる。あと出来れば神父様も」
「今ので私にも分かった。ダメ!タクト、危険かも知れない。私も一緒に行く」
「でも……」
「でもも、へったくれもないわ!私は冒険者を目指してるのよ!こんな事くらいでビビったりしないわ」
「はぁ〜分かった。じゃ〜せめて隣の人に呼びに行って貰って、ボクは先に確認しておくから」
「分かったわ!ぜーったい危ない事するんじゃないわよ」
俺としてはノルンには言われたくないセリフだ。
ノルンは急いで隣の家に走っていく。
「さて、何が出るのやら」
俺は恐る恐るドアのノブを回し開いた。
「血が飛び散っている」
周辺を確認すると、引きずられた様な血の跡が、俺はその跡を追って隣の部屋に、そこにあったのは地獄だった。引き裂きそれを口に運んでクチャクチャ食べるゴブリンが4匹、俺は吐き気をもよおし咳き込む。その音でゴブリンは全員こちらを向き、ナイフや棍棒を振り上げ襲ってきた。
「雑魚が!動くな!」
ニキから鋭い殺気が放たれ、ゴブリン達の動きが止まる。
「ゴホッゴホッ……ありがとうニキ、助かった」
俺はなんとか体調を立て直すとゴブリン達をビスで固定し動きを封じる。
俺は倒れているパルメ夫妻の安否確認に行くが……
「確認するまでもないか……」
パルメ夫妻は原型こそあれど損壊が激しい、どう見ても生きてはいない。俺は目を瞑り静かに祈りを捧げる。
安らかに眠れますように………