第184話 聖女ものんびりとしたい!
「お久しぶりです。イリス様、直接お会いするのは二十年振りでしょうか」
「メリダ久しぶりね。少し老けたかしら」
「ひど〜い!イリス様はいつまでも若いですものね!ホントズルいですわ!羨ましい」
「ふふっ、冗談よ。いつも私の声を届けてくれてありがとうメリダ」
「いえ、イリス様の導きが皆を救っているのです。代表して感謝させて頂きますわ」
「そうね。これからも宜しく頼むわ。…………そろそろあなたも交ざったら」
二人の視線が俺に注がれる。でも女神様と聖女様の会話に交ざるのは、なんとなくおこがましい気がして話を聞きいっていた。
「えっと…なんでボク呼ばれたの?」
まだ何をするのか分からない。
まずはそこが知りたい。
「あら、ごめんなさい。まだ話をしていなかったわ」
聖女様はわざとらしくやってしまった顔をしている。
「いえ、なんとなくは分かるんで、霊峰ラムラの問題の件ですね。確かに考えて見ればイリスに原因を聞けば分かると思いますし」
話しながら解決方法に思いつく。
むしろなぜ気が付かなかったんだ。
「タクト、悪いけど私にも詳しいことは分からないわよ」
「え!?なんで」
「こっちにも色々と事情があるの、今わかっているのは何者かが、ラムラの力を奪っていることだけ、だからあなた達が直接調査に向かわないといけないわ」
ガックリ……早く終わると思ったんだけどな。残念だがやるしかないか。
「イリス様、私からも一つ質問したいことがあります。宜しいでしょうか」
「良いわよ。言ってみなさいな」
「ありがとうございます。私の寿命はそう長くはございません。候補者は三人……そろそろ決めて頂けないでしょうか?」
え!?なんて話をいきなりするんですか!聖女様。
俺は突然の重要な話題に動揺する。
「あらメリダ、早く聖女を引退したいのかしら」
「私もいい歳ですので、若い者達に託したいのですよ!ま〜それと早く引退してのんびりとした生活を送りたいですね」
お〜!……聖女様も俺と同じことを、それなら引退したらソウルフロンティアに誘おうかな。
「ダメよ!まだ彼女達に任せられないわ。早く引退したいなら、しっかりと彼女達を育てなさいな」
「そうですか、それは残念です」
聖女様は思ったほど気落ちしてはいなさそう。もしかしたら初めからそう言われると思っていたのかも。
そこからはお菓子を食べながらただの雑談に変わりそのまま部屋に帰る。
………▽
そして次の日
「イグニス……アポロンは何をやってるんだ?」
部屋を出て軽く散歩でもしようと歩いていると、大きな音が聞こえて急いで言ってみると、アポロンと誰かが戦っていた。そしてそれを岩に腰掛けて観戦しているイグニス、俺は何をしているのか聞いた。
「よ〜!タクトおはようさん、若いって良いよな〜あの熱血漢は俺にはもう無理だな!ガッハッハ」
「イグニス、それ答えになってないからな。ま〜見ればなんとなくは分かるけどさ」
アポロンは楽しろうに殴り合っている姿から今回はケンカじゃなくて模擬戦だと思う。相手は獣人、身体は黒っぽい毛で覆われ尻尾が生えているから間違いないと思う。
拳と拳のぶつけ合い。
あれは相当痛いと思うんだけど、二人は闘気を拳に集め、グローブをはめた様な状態だけどもちろん相手と闘気が上回れば闘気ごと拳が砕ける。
『大牙衝破』
『鉄山突貫』
お互いの必殺の一撃が衝突し、その衝撃は離れた俺達まで来る。
「やるな!少年」
「いえ、大したことはありません!ヴォルフさんが手加減してくれているのが分かりました。まだまだ自分は未熟です!」
「フッ、俺は聖騎士団の団長だぞ。子供相手に本気を簡単に出すわけにはいかんだろう。それに俺がアポロンの歳くらいの時に、そんなには動けんかったわ。将来有望だ!どうだ聖騎士団に入って俺の部下にならんか」
二人の男はガシッと強く手を握り握手をする。今、二人の男達に熱い友情が芽生えようとしていた。
「すまないヴォルフ団長断らせて貰うよ」
「なぜだー!今の流れは行けただろうが!」
ヴォルフと言う騎士団長殿はショックで吠える。
「おい!アポロン、俺は冗談で言ってるんじゃないんだぜ!お前はもっと強くなれる。俺と一緒に拳を磨こうぜ」
「ヴォルフ団長、俺にはやらなければならないことがある。騎士団に入るとそれがしばらく出来なくなってしまうんだ。だからすまない」
「そうか、お前から相当な覚悟を感じた!もう誘ったりはしない。だが教えてくれ!アポロン、お前がやらなければならないこととは一体なんなんだ!」
「最高に美味いお茶を淹れることだ」
アポロンはとてもいい顔で答えているけど、ヴォルフ団長は唖然とするばかり、期待していた男が突然頭がおかしいヤツに格下げになった瞬間だっただろう。
ヴォルフ団長はさっきまでの時間を返してくれ。そんな思いが見え隠れしながら、一言「じゃあな」と言っていなくなった。なんとも可哀想な団長。
「お!起きたかタクト…遅えぞ!さっさと飯を食いに行こうぜ」
汗を拭きながらアポロンがこちらにやって来る。
「何やってるんだよ!ヴォルフ団長ちょっと可哀想だったぞ!それにせっかく認めてくれたのに勿体なかったんじゃないか?」
「良いんだよ!俺には大事な仕事、イリス様に紅茶を淹れると言う大事な仕事があるんだ!それに今は身体が動かしたかっただけだからな。もう十分だ」
アポロンはギリッと強く拳を握りしめる。
その様子を見た俺は、
「もしかして昨日のこと……気にしてるのか?」
「ん?…ま〜な……負けたことは悔しいと思っている。だが俺だって分かっているさ!相手は勇者だ。普通に考えれば勝てるはずがない。だけどだからって何もしないのは性に合わなぇ〜。今度は一発アイツの顔面を殴れるくらいには強くなっておこうと思ってな。ヴォルフ団長とは偶然あってな。実は親父の弟子で顔見知りだったからな。手合わせを頼んでみた。良い修行になった」
アポロン……お前は漢だぜ!カッコイイ!
そう思ったけど、俺の性には合わないので真似はしなかった。