第183話 聖女様からのお願い
「考えてみればイグニスはアイツのことを知ってるよな、同じ勇者なわけだし」
「知ってはいるさ、見ての通り俺はアイツと仲が良くない。だから聞かれても答えられることは少ないが一つだけ分かっているのが、アテナ様の狂信者ってことだ、そこの嬢ちゃんが言った様にいつも誰かを信者に引き入れようとしている。しかも結構強引にな、とは言えさっきのことには俺も驚いたがな、前はあそこまでではなかったと思ったが」
「そうなのか」
確かに異様に感じる。いくら酔狂している女神様のこととは言え、アポロンを殺す可能性があった。もしもそんなことがあれば女神様だって怒るだろし、一体何を考えているか分からないヤツ。
「タクトくん、今お時間はありますか?」
聖女様が俺に声をかける。
「あ、すいません考え事をしてました。時間に関しては問題ありません。それにボクも聖女様にお話したいことがあるんで丁度良いです」
「そうですか、では場所を移しましょか、では客間に案内しますね」
それからアーチさんは仕事があると言うことで別れて、聖女様の話しをする。
アポロンはさっきの怒りがどこへ言ったのやら、聖女様をキラキラした目で見ている。ま〜機嫌が直って良かった。
「聖女様、実はお願いがありまして来ました」
「えぇ、私がしたい話と同じかと思います。タクトくんが来る前にイリス様からお話を聞いておりましたので」
なんだ、既に話を聞いていたか、考えてみれば当然だよな。聖女の役目は女神の声を聞き、それを民衆へ届け導く者なんだから。
「それは話が早くて助かります。では聖女様お願い出来ますか」
「もちろんです。………と言いたいのですが、少々問題がありまして、今この町はある危機に見舞われているのです」
うっ……その流れ……嫌な予感が……。
「助かりました。これはまさに神のお導きと言うものですね。頼りになる使者様を呼んでくれたのですから」
聞いてない。……イリス黙ってたな!最初から俺を手伝わせるつもりで、はぁ〜、こちらも手伝って貰うつもりだし、先に手伝うと思えば良いか。
「はい、お困りとあれば、微力ながらお手伝いさせて頂きますよ」
「まぁ!嬉しい、助かるは、イリス様に頼んでおいて正解ね!」
もしかして、聖女様の企み?
聖女様の裏顔の顔がチラチラと見える。表面状の笑顔に騙されてはいけないかもしれない。
「それで一体何があったのですか?」
「それがね。ここから少し離れた森に大量の魔物が集まっているのを、先日警備隊が発見したんだけど、このままだとスタンピードが起きる可能性があるからこの町が危険にさらされるわ」
「なるほど、それをなんとかしてほしいのですね」
「う〜ん……それもそうなんだけど、タクトくんにお願いしたいのは別のことなのよ。この町には魔物から町を守るために特別な結界を張っています」
「あ!それルナから聞きました。光石結界ですよね」
「あら、それは話が早くて助かるは、その光石結界がここ最近とても不安定になっています。その理由が霊峰ラムラから送られる聖なる魔力が失われていることなのです。原因は分かりません。我々も今までこの様なことがあったことがありません。それでタクトくん達にお願いしたいのは霊峰ラムラの調査と原因を見つけて解決してほしいのです」
「それはまた難しい話を、調査に行くのは問題ないんですけど、ボク達だけでは何が悪いのか分からないと思います。誰か他に協力をお願いしたいのですけど」
「え〜もちろん。お願いする立場で協力しないなんて、そんなことはありませんよ。こちらからも専門の人間をあてがうから宜しくね」
俺はホッとして力を抜く。
あまりにも無理難題を言われるのかと思ってつい身体に力が入っていたようだ。聖女様は油断するとそのまま流されてしまう様な気がする。言い方が悪いけど、知らないうちに上手く誘導されて操られそうになる。
話がだいたい分かったところで難しい顔をしたイグニスが聖女様に話しかけた。
「聖女様、一つ聞きたいことがあるんだが良いか?」
「なんでしょか?火の勇者イグニス」
「なぜ…水の勇者がここに居る。ヤツは隣の国の人間だぞ。わざわざここに来るメリットがない!」
「水の勇者がここに来たのは、こちらの国で大事な商談があるので立ち寄ったと聞いております」
「アイツらしいと言えばアイツらしいか、いつでもどこでも金、金、金と煩いヤツだったからな。分からなくはないが、それでもアイツ自身がここまで来るなら相当重要なことなんだろうな」
「その様ですね。ですが我々も困っておりました。そこでこちらからお願いしたのです。霊峰ラムラの件を」
「金でか?」
「はい、かなり高額ではありましたが、住民の命には代えられませんから」
「そうか、なら任せろ。後は俺達が解決する。アイツにくれてやる金なんてないとな!」
「いえ、イグニス様達が居れば解決出来るとは思いますが、少しでも確実に安全に進めたく水の勇者様にもお願いしようと思います」
「あ〜分かった。それはあんたの判断に任せるが面倒ごとになりそうな予感がするぜ」
途中から黙っていたら、どんどん話が進み手伝うことになった。もちろん最初から手伝うつもりだったけど、なんかモヤッとするぞ!イグニス。
それから俺達は部屋を割り当てられ、休むつもりだったのだが、俺の部屋にお客さんが来られた。
「どうされたんですか?聖女様」
もうすぐ就寝の時間だと言うのに、なんで部屋に?まさか夜這い!?聖女様が!?だが全力で断るからな!年齢を考えろ!
………と言うのは冗談で、一体何の用だ?
「タクトくん、こんな時間にごめんなさい。少し話がしたくて、部屋に入れてもらっても良いかしら」
「ええ、どうぞ」
俺は聖女様を招き入れる。
「それでは行きましょうか」
聖女様は部屋に入るなり部屋を出ようとする。
どこか別の場所に行くのか?
「あ、はい分かりました」
……………▽
「あら?お帰りなさい」
「た、ただいまイリス……」
「それじゃ〜三人でお話しましょう」
無表情のイリス
ニコニコな笑顔の聖女様
呆然とする俺
三人の聖なる打ち合わせが開かれた。