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第18話 チビッちまう


「ふぁ〜ぁ、朝か!」

 陽射しの光で目が覚める。なんて清々しいんだ!前世の時と違って夜勤もなくなって、起きるのが苦じゃなくなった。今日も平穏な一日ですように!


 まずは顔でも洗いに行くか。

 俺はまだ寝ている先生とニキの間を抜け、そそくさと着替えて外にある井戸へ向かう。


「こう言うところが、前の世界に比べて、ちょっと面倒くさい。蛇口が欲しいな〜」


 一応家に水釜があるのだが、それを使えばもちろん後で水を汲みに行かなければならない。それなら最初から井戸の冷たい水で顔を洗いたい。


「あ!タクトくんおはよう!」

 パトリアさんは手を振って挨拶、丁度水を汲みに来てたみたい。


「おはようございます。パトリアさん」

 挨拶を返しながら井戸の方に歩いていく。


「タクトくん、この間はありがとう助けてくれて」

「え?……あ〜オーガの件、この前もお礼は聞いたよ。そんなに何回も言わなくていいのに〜」

「この前はバタバタしてたし、ちゃんとお礼を言えてなかったから……それにまだお礼し足りないよ!」


 俺の両手を掴み、笑顔を向ける。

 パトリアさんみたいな綺麗なお姉さんがそんな事をすると、思春期の男はみんな勘違いするぞ。中身が大人の俺には関係ないけどさ!


「それにしてもタクトくん凄かった!あんな事出来たんだね。それならタンクくんなんてぶっ飛ばせばいいのに〜」


「いやいや、そんな事してもより面倒くさくなるし」

 そう言えば、昔タンクにいじめられて服が汚れた時、母さんに心配かけたくなくて、この辺でウロウロしてるとパトリアさんが声をかけてくれて、こっそり服を洗濯してくれたっけ、あの時はお世話になったな。


「フフッ、タクトくんは優しいからそんな事は出来ないか、でもたまにはやり返してもお姉さんは良いと思うな〜」


「アハハ、そうですね!今度ぶっ飛ばしてみようかな」

「そうそう、その意気よ!タクトくんやっちゃえ〜」

 明るく元気に微笑む、本当に良いお姉さんだよ。いつもタクトの事を気遣ってくれている。これは思春期とか関係なく惚れそうだな。

 

 俺はお姉さんに見惚れていた。



 パトリアさんと別れ、自分の部屋に戻ると、


「これは我のおやつだ!離せワン公」

「なにをー小さいくせに欲張りな妖精なのだ!お前こそ離せ〜」


 しまった!目が覚めたら腹減ったと、うるさいと思っておやつに木の実を置いておいたら、おやつを取り合って騒がしくケンカをしている二人。


 はぁー朝からどっと疲れる。


「コラ!仲良くしない奴は飯抜きにするぞ!」

 

「分かったのだ!仲良くするのだ!」

「え〜タクトはそんな事言わないのじゃ」


 ニキはええ子や!

 先生は年長者としてしっかりせんかい!


 取り敢えず落ち着いたので、二人を連れて居間の方に向かう。朝御飯は出来ているのかな?移動中でも分かるいい匂い。これはパンの匂いだな、母さん朝からパンを焼いてくれたのか?


「おはよう!父さん、母さん」


「おはようタクト」

「もうすぐ出来るからテーブルに着いて待ってて」


 それから待つこと数分、今日も朝から豪勢だな〜母さん、昨日から気合が入りっぱなしか、俺が父さんの方を見ると苦笑いで返された。


 これは昨日討伐した魔物を換金して食費に回さないと父さんが頭を抱えることになりそうだ。

 

「父さん、母さん、相談があるんだけど良いかな」


「ん?タクトが相談とは珍しいね」

「なになに恋バナ?任せて!まずはどんな相手?教えて教えてタクちゃん」


 母さん、そんなに興奮しても恋バナじゃないから!


「ニキなんだけど、家で飼いたいんだ。ダメかな」


「もちろん良いわよ!」

 母さんは即答、でも父さんは……


「タクト、ニキを飼うことには反対するつもりはないけど、しっかりと責任を取る覚悟はあるか」

 父さんは決して怒っているわけじゃない。だけどいつもと少し口調が違う。これはいつものアレだな、父さんが俺を一人前の男として扱いたい時にしっかり覚悟を決めさすための言い回し、それに対して俺はしっかりと応えないとな!


「父さん、ボクはニキの面倒をしっかりと見るよ!なにか問題があったら責任はボクが全部取る。もちろんそんな事にならないように躾もするよ!」


「うん、分かった。タクトなら出来るって信じてる。だけど気負い過ぎるなよ。ここには父さん、母さんがいるんだ。頼れよタクト」


「うん、分かった!ありがとう父さん、母さん」


 良かった。上手く話が纏まった。俺はホッと一息ついてパンを一口かじる。その時に気がつくべきだった。ニキが物欲しそうに俺を見ていたことに……


「はーい、ニキちゃんのよ」

 

 ニキは出された食事を見て………


……「パンがないのだ!」


 母さんは固まり、静寂が広がる。


「今ニキちゃん……喋った?」

 母さんからボソリと一言、俺はと言うと、マンガの如く汗をダラダラとかいて動揺、そして父さんはそれに気がつく。


「タクト、まずは責任を果たそうか!」

「はい、分かりました」

 

 こういう時には父さんに逆らう気にはなれない。俺はガックリと肩を落とし、ニキが喋れる犬と言う事を認める。


「う〜ん、これは困ったな〜喋れる犬、聞いたことがない。魔物なのか?それとも新種の犬?何にしても判断がつかない」

 

 父さんは手に顎を乗せ悩んでいる。父さんはニキが危険かどうかを問題と考え、判断しようとしているけど知識的にそれが難しいようだ。


 母さんはひたすらニキを見て黙っている。


「すまない!少し考えさせてくれ、ニキを飼うかは保留にするよ」


 父さんはそう言って仕事に出かけ、母さんは台所に戻り食器を洗う。俺はニキと先生に今日は部屋で大人しくしているようにと強く言って、父さんを追いかけ仕事に出かけた。


◆ニキの視点


「まったくワン公は、せっかく許しを貰ってのに食欲に負けよって、後でもう一回タクトに謝っておくのじゃ」


「分かったのだ!妖精」

 あれは完全に俺が悪かったのだ。タクトには本当にすまない事をしてしまったのだ。


 俺は反省をしつつションベンがしたくなったので外に出て手頃な木を探す。


「ふーブルッと来るのだ!………殺気、もう少し抑えてくれないか!チビッちまう」


 ニキの後ろにはいつの間にか人が立っていた。


「あなたはタクトに危害を加えない?」

 冷たい声で問いかける。

 

「あ〜しないのだ!」


「……………分かった。でももしもタクトに危害を加えたら原型が無くなるまで切り刻んで殺す!」


 ニキの後ろには誰も居なくなっていた。


「はぁー驚いた!人間にしてはずいぶんと強い殺気を放つ………おっといけね〜本当にチビッちまう〜」


 俺は慌ててションベンをして部屋に戻った。

 

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