第179話 安全靴
真正面に三体の白いデカブツ……どう躱すか。
「まずは俺が行こう!」
イグニスが俺達の前を走りながら剣を抜いた。
「悪いが退いて貰おう。『バーンウェーブ』」
イグニスは剣から赤い波動を放つと、それを受けたデカブツ共は吹き飛び倒れ転がる。
その隙に俺達は走り抜けた。
案外大したことがないのか?デカブツ共はワラワラと現れるも、そこまでは速くない。ヘルメットを被った俺にはまるでついて来れなかった。
「ルナ、これなら大丈夫そうだな」
「はい、過度に心配する必要はありませんが、そろそろ次が来ますので、気を抜き過ぎないで下さい」
ん?なんか意味深な言い方。
「え!?今度はほっそ〜!」
次に現れたのは同じく真っ白ではあるけどだいぶさっきとはフォルムが違う。
腕と脚がムチの様に細くニョロニョロと動いている。
「無闇に近づかない様にして下さい。今度は速いですから」
速い?コイツがか?
その瞬間、凄まじい速さで鋭くムチが放たれた。
「バシッ」
しかしその攻撃は俺の目の前で止められる。
「油断するなって言っただろ」
アポロンが俺に当たる直前にムチを手で掴んで止めてくれた。
「あ、すまない。助かったよアポロン」
「良いって気にすんな!ここは俺がやろう。みんなはついて来てくれ」
高速で無数に繰り出されるムチの様な腕をアポロンは手で捌きながら前へと進み、敵の前に着くと、手を相手の腹部に当てると動きを止めた。
「アポロンすごい!?前よりもまた一段と腕を上げたんじゃないか?」
「ま〜な、親父に技を習ったからな、前よりも色んなことが出来る。今コイツにやったのも『振波」と言う技だ!相手に振動を送って一時的に動きを止める。傷つけたくない相手には持って来いの技だ!さ〜さっさと行こうぜ!早くマーリンに行きたいからな」
「そうだな。でもその前にルナに聞きたいんだけど、この山に出るヤツは他にどんなヤツがいるんだ?先に知っておいた方が対処しやすい」
「そうね。基本的にはさっきの二種類だけです」
「基本的に?他にも出る可能性があるのか?」
「あります。でもまず遭遇することはないかと、この山は聖騎士団の訓練にも使用されるのですが、十回以上登っても遭遇する可能性がほとんどありません」
「そっか、それなら安心だな。ちなみにどんなヤツなんだ?」
「見た目は真っ白な騎士です。昔亡くなった聖騎士団の魂が山へと還り現れると言い伝えでは言われていますけど、迷信ですね。特に根拠はありません。ですがもしも遭遇したら気をつけて下さい。さっきまでの相手とは格段に強い。レベル70相当の剣士を相手にすると思って下さい」
「なるほど、分かったよ。ルナありがとう」
俺はホッとして先を急いだのだが、この山はそこまで甘くなかった。
…………▽
遭遇率が低いじゃなかったの?
山の頂上付近に近づいた時だった。雑木林から真っ白な騎士が現れる。
どうも俺達引きが良いみたいだな。
それぞれがそんな皮肉なことを頭に浮かんだ時だった。真っ白な騎士の後ろからゾロゾロと同じ騎士が出て来たのは、一匹ならともかくこの数はヤバい!
「ルナ……これはどういうことだ?」
声をかけ軽く視線をルナに送る。
「分かりません。こんなこと……申し訳ない!私のミスです。まさかこんなことに………」
ルナはやや落ち込む表情をするが、冷静だ。決して相手から目を離さず、いつでも動ける戦闘態勢を取っている。
「ルナごめん、なんか勘違いするような言い方しちゃったよ。別に責めてないから気にしないでくれ。それと今回はボクが先行する」
「タクト、それは流石に無茶です。数が多すぎます。全員で行きましょう」
「たぶん大丈夫だから任せてよ!頼むよ!試したいことがあるんだ」
俺は笑顔で答える。
「もう!タクト、そんな顔をされては断れないではありませんか!」
なぜか嬉しそうなルナ、俺が今どんな顔をしているのか分からないけど、実は安全靴のスキルを使えることに内心ワクワクしています。その辺が顔に出ているのかな?
ルナの許可を得られた。
俺はいそいそと前に出た。
さてとしっかりと試しておかないとな。
安全靴とは工事現場や重い機械や部品を扱ううえで足を保護する特別な靴、靴の先端には先芯と言う硬いパーツがついて重い物を足元に落としても守ってくれる。
もちろん、今俺が履いている安全靴は普通じゃない!俺だけの特別な靴だ!
「お前達で試させて貰おうか」
俺が戦闘態勢に入ると真っ白な騎士が一斉に攻めてくる。
この騎士達速いな〜ヘルメットのお陰で反応はできるけど、素だったら斬られたあとに気が付きそうだな。
…………でも今回は躱さない。
騎士達が俺に向かって剣を振り下ろした。
「ザクッ」……剣は深々と斬り裂いた。当然だと思う。想定外の攻撃だ!反応出来るわけがない。
空間転移の応用……これは反射だな!
俺に向けて振った剣は俺には当たらず、騎士達は自らの剣に斬り裂かれ倒れる。