第172話 タクト家へ訪問①
イリスがみんなに声をかけてくれたので案は大量に出たけど……結果それはそれでどれにして良いのか分からず混乱した。
「そんなに慌てて考えなくても良いわよ!じっくりと家に帰って考えなさい」
あまりにも悩んでいる俺を見かねてか、イリスは一度休む様に言ってくれた。イリスって案外優しいよね!ま〜案外とか言ったら怒られるから言わないけどさ。
「うん、分かったイリスありがとう。今日は帰るね!」
俺達は教会を出る。
「あ!そうだルナさんの家がまだありませんでした。う〜ん……今日は家に泊まります?」
「え!?……♥」
ルナさんは何を思ったか顔を真っ赤にしている。
「ちょっと待ったー!」
「え、なに?なんか問題でもある?ノルン」
「あるのかないのかじゃないわよ!何でいきなり家に連れて行くのよ!ルナお姉様に何するつもりよ!」
ルナとは違った意味で顔を真っ赤にしたノルンに詰め寄られる。
「ま〜待て待てノルン、変な勘違いするな!ルナはこの町が初めてなんだし、右も左も分からない状態で放り出す訳にいかないだろ!」
「それなら別にタクトの家じゃなくても良いわよね!私の家にしましょう。ルナお姉様」
しかしルナは手で制してビシッと断った!
「ノルンありがたい話だが断らせてもらう!なぜかは言わなくても分かるな!これは私にとってチャンスだ!一気に親睦を深めて親密度を上げて見せよう!」
「はぁー!そんなこごご……」
ノルンが怒鳴って抗議を始めようとした時、後ろからスカーレット様が口を押さえる。
「ノルン、そんなに怒鳴って端ないわよ!良いじゃない一日くらい、あなたとタクトくんの関係はその程度で覆るものなの?大丈夫よ!少しは余裕を持った姿を見せなさい。その方がカッコいいわよ」
ん〜……と少し唸ったから
ノルンは引き下がってくれた。
残念ながらスカーレット様が思う余裕感は
一切なかったけど、カッコいいではなく
可愛くは見えた。
…………▽
◆ルナの視点
ノルンと別れてからタクトの家に向かっていた。男性の家に行くと思うと自然と胸が高鳴る。今まで感じたことのない感情、心地よくもあり張り詰める緊張感もあり、ある意味戦場へ向かうのと同じくらい気合を入れねば…………
「あ!見えてきました!あの大木が見える傍に家があるんですよ!行きましょう」
タクトが教えてくれた場所には立派な大木がそびえ立ち、そこにポツンと一軒家が……私の家の屋敷の様に大きく立派ではないけど、私には輝いて見えた。
家の前に着くとドアを開ける前に何かが飛び出して来た!
「あ〜ん!おかえりタクト」
飛び出して来たのは女性、彼女はタクトを押し倒すと頬ずりしながら触りたい放題。
うぬぬぬ、この女一体何者よ!
「母さん……強すぎだよ!痛いから……」
「えへへ……ごめんね!タクちゃんの匂いがしたと思ったら我慢出来なくって!」
「あ…そうなんだ…匂いって、ボクってそんなに臭いのかな〜」
「うふふ…いい匂いよ〜フレグランスな匂いがする」
「母さん、それってどんな匂いだよ!」
私はしばらく二人のやり取りを見ていた。
タクトの匂い、どんな匂いなんだろう?あとで嗅がせてくれるかな〜……じゃないや!この方がタクトのお母様、もしかしたら私のお義理母様になるかもしれない方、失礼のないようにしないと!
「母さん、そろそろ良いかな、お客様を待たせてるからさ」
「あら、本当……ごめんなさい」
タクトのお母様はタクトの上からどくと私の方を向き笑顔で謝罪を述べた。
その行動にそれほどおかしなところはなかったと思うのだけど、なぜか背中に汗をかいていた。
「タクトおかえり、さっきバロンに会ったけど今回も大活躍だったってな〜」
「え!バロンさんそんなこと言ってたの、別に大したことはなかったよ」
家に入ると優しそうな男の人が椅子に座り本を読んでいた。この方がタクトのお父様、この方にも悪い印象を与えないように気をつけないと。
「タクト、そちらのお嬢さんは………もしかしてセドリック家の御令嬢ルナさんかな?」
「え!?そうですけど……申し訳ありません。私…タクトのお父様とお会いしたことがありましたでしょうか?」
「いや、大丈夫だよルナさん、初めてさ、私が一方的に君を知っているだけ、人の名前と顔を覚えるのは得意なのでね」
「そうなのですか……」
私は貴族ではありますが、お父様達の様に顔はあまり知られていないと思いましたが、でも知って貰っているのは良いことですね!少々腑には落ちませんが。
私は少し落ち着き改めて周りを見回す。入る前にも思ったけど、この家は見たことが作りをしている。壁も床もすごく洗練された作り。
「ルナさん、この家が気になるかな」
「あ!すいません、キョロキョロと見回して失礼でした」
何してるのよワタシ!
いきなり心配しているじゃない!
「そんなことはないから気にしないでくれ。私も初めて入った時は同じ様にキョロキョロと見てしまった。しかし住んでみると快適だよ!寒くもなく暑くもない。ある意味天国だよ」
お父様が言われる通り、ここはとても過ごしやすい室温、よく見ると天井付近に付いている箱から風が出ている。あれがこの部屋の室温を安定させているのか?
「そうだ、二人共お腹は空いていないか」
「うん!父さんお腹ペコペコだよ!」
「そうか、ならご飯にしよう、母さん〜」
そう言えば、あれから時間がだいぶ経って、私もお腹がペコペコだった。
それからタクトのお母様が手際よく食事の用意をしてくれた。私も手伝おうかと声をかけたのだけどお客様だからと言われ断られてしまった。印象アップのチャンスだったからちょっと残念。
「お待たせ!いっぱい食べてね!タクちゃん」
すごい量の料理!?これを一人で……タクトのお母様は料理が上手なのね。それにタクちゃんか私も言ってみようかな……」
美味しい!?……こんなに美味しいなんて……
お母様の料理はどれも一口食べては驚くくらい美味しいかった。屋敷で出される料理と違って庶民的な料理なのに、それに負けないくらい美味しいの、むしろ私はコチラの方が好きかも。
「うふふ、ルナさんお味はどうかしら」
お母様が優しく微笑み話しかけて来た。
「はい!とても美味しいです」
「良かったわー」
なぜかしら、お母様の見た目は好意的に見えるのに、「どう、あなたにこんな美味しい料理は作れないでしょ〜」と挑戦的な声が聞こえる気がした。これは表面上の情報に騙されてはいけない。油断はしてはダメよルナ!
私が気を引き締めていると、そこにバタバタと慌ただしい音をたて誰かが飛び込んで来た。
「いい匂いなのだ!」
「お腹空いた〜ご飯!ご飯!」
ノリノリで入って来たのは妖精と喋る犬!?
二人は部屋に入ると一目散にご飯を食べ始める。
その姿をタクトはニコニコと見守っていた。
私はまだまだタクトのことを知らなければならないと改めて思い知らされた。




