第17話 美味しいご飯と番犬
「さ〜たくさん食べて!まだまだ母さん頑張るから!」
テーブルの上は料理で埋め尽くされている。気合入りすぎだから、それにもう良いから落ち着こうか。
俺はまた台所に向おうとしている母さんを引っ張り椅子に座らせる。
まだまだ一杯作りたいと言ってスネていたが、すでに見ただけでもお腹がいっぱいになりそうな量だ、ここは我慢してもらおう。
「母さんありがとう、それじゃ〜頂きま〜す」
俺はやや慌てて挨拶して食べる。だって先生はテーブルに穴が空くんじゃないかと思えるくらい睨みつけてるし、ニキに関してはよだれがやべーから取り敢えず拭いておいてやるか。
「ん〜うま!」
母さんのご飯は美味しい、今食べてるのは芋の煮っころがしだけど、味がしっかりと染み込んで、何より味付けの濃さが絶妙、それにしてもこの世界では、どんな調味料を使っているんだろう?母さん昔から料理は私の仕事だから取らないで〜って言って教えてくれなかったからな。別にとりゃ〜しないんだけど。
「母上、ご飯おかわりしたいのじゃ」
「は〜い先生、待って、山盛りよね!」
「うむ!宜しく頼むのだ!」
くそ〜今だに理解が出来ない。ローム先生の体のどこにご飯がはいっているんだ?
ガツガツと御椀をかじりつく勢いで食べる先生の姿につい見入ってしまった。
さて今日のお客さんのニキはどうかな。
「え!?どうしたニキ………」
ニキは一口食べると目を瞑り噛みしめるように食べていた。なんか先生とは対象的に静かだぞ!意外だ!
「ニキどうだ!うまいか?」
俺はニキの傍まで行き、小声で話しかける。
喋る犬は魔物と間違いなく思われ騒ぎになると思い事前に喋るのを我慢するようにお願いをしていた。
「タクト、美味い!何を食べても美味い!何より母親の愛情が詰まっているのだ。一口一口味わって食べている」
味わって食べているからそんな食べ方していたのね。ちなみにそんな食べ方する犬はいないと思うから、美味しいならガツガツ食べてくれた方が怪しまれないんだけど。
それから今日の話を父さんと母さんに話をして楽しく食事をした。(ドラゴン討伐とかじゃなくて薬草採取の話ですが)
……………▽
食事を終え、先生とニキを連れて自分の部屋に戻る。
「う~苦しい食い過ぎた〜」
「先生ちょっとは加減してください!何杯ご飯食べるんですか!」
ゴロゴロ転がる先生、妖精とは思えない玉のような風貌になるまで食うんじゃない!
「ニキはどうだった!満足出来たか?」
「…………」
ニキはしかばねのようだ、じゃな〜い!
「どうした?ニキ、全然動かないけど、お〜いニキ〜」
俺が声をかけても反応しないから、モフモフしながら話しかける。
「おーすまん、あまりの美味しさで、つい思い出していた」
「お、お〜そっか」
ニキって固まること多いな。
「それにしてもタクトはいいな〜こんな美味しいご飯を毎日食べれるのか!うらやまし〜い!」
「わーそんなにゴロゴロ転がるな!毛が落ちる」
ニキが床を駄々っ子みたいに転がる。
「もう!二人共ゴロゴロしないの、毛が落ちて掃除するの大変なんだから」
「タクト、ワザとか?我はそんなに毛は生えてはおらん」
先生から抗議が入る。はいワザとです!
ニキはピョンっと飛びベットの上に乗ると俺の横に来て座る。
「本当に羨ましい。あの料理にとても愛情がこもっているのを感じた。それに家族で楽しそうにしている姿、見ているだけで俺もほっこりした気分になれたのだ!」
「そっか、俺もそう思う」
「フッ、なんだその言い方はまるで当事者じゃないみたいな言い方だぞ」
「フッ、そうだな、おかしい」
俺はつい含みのある笑い方をしてしまい。ニキに違和感を感じさせてしまう。
「タクト〜あんな優しい家族が居て、まさか不満に思っているわけじゃないだろうな〜、言っておくが世の中ってのはもっと辛い家族もいるんだぞ!俺の姉ちゃんなんて冷たいのなんのって、凍えてカッチンコッチンになるくらいだ!弟は弟で何考えてるか分からないし、言うこと聞かないしで大変なんだから………」
ニキの愚痴が止まらない。最初は俺を諭す様な話でもするのかと思ったけど、どんどん話がズレていった。ま〜ニキに言われるまでもない。あの二人は最高の親だって言うのは俺が一番分かっている。
「あ!悪い熱く語り過ぎた!とにかく俺はタクトが羨ましいってことだ」
「おいワン公!着地もズレてるのじゃ」
先生から鋭い突っ込みが入りムッとするニキ
「そう言えば妖精はなんで居るのだ?お前はタクトの家族ではないだろ」
ニキは先生にワンワンと吠える。
「フッ、確かに我はタクトと血の繋がりがある訳では無い!だが!我はタクトの先生で居候させて貰っている。しかも親公認、つまり家族と言っても過言ではないのじゃ」
「ワーン」と大口開けて衝撃を受けるニキ。
「それは本当かタクト」
ニキは詰め寄るように俺の足元でおすわりをする。
「あ、あ〜本当だけど」
「そうか、そんな手があったとは!」
俺は特に気にせず答えると、ニキが考え込む。しばらく唸っていたが、何かを思いついたのか、こちらに興奮した笑顔を向ける。
「なら俺もタクトの先生になり居候しよう」
「え!?ニキ何を言ってるの!」
「おい!ワン公、これは我の特権だぞ!」
ニキはなんでこんな事を言い出したのか、まずは話を聞かないと。
「ニキなんで家に居たいんだ?」
「さっきも言ったろ。俺はここの家族が羨ましいってだから俺も先生をやる!」
「先生と言ってもな〜……」
俺は頭をかきながら考える。
「そうだぞ!図々しい、だいたいワン公に先生が務まるか!ワン公は番犬でもやっているのじゃ」
「そうか?確かに俺は先生って柄じゃないな、それじゃ〜番犬で良いや!俺がこの家を守るのだ!」
「何をバカなことを言っておるのじゃ」
「なんだ、妖精には関係ないのだ」
先生はピューンとニキに向かって飛び、抗議をしながらニキとじゃれ合っている。
「ニキ、遺跡はどうするんだ?ニキはそこの番人を任されてるんだろ。勝手にやめたらマズイんじゃないのか」
「ん?別に問題はないのだ。遺跡にはまだ宝具が大量にあるが俺が守れと言われたのは、こいつだけだからな」
ニキが出したのは赤い宝玉、アンディーが遺跡から
盗んだ物だ。
「これさえあればどこに居ても問題はないのだ!」
その宝玉を守れと言う約束であれば問題ないか、でも、その宝石にそんな価値があるのか?ただの赤いビー玉みたいなんだけどな〜……ま〜いいか!
「分かったよ!取り敢えず父さんと母さんに聞いてみる。それで良いか!」
「おお!宜しく頼むのだ!」
ニキは嬉しそうに雄叫びをあげ、その後ろで先生がムスッとした顔をしていた。後で機嫌を取っておこう。