第166話 一触触発
「タクトさんお疲れでしょ、お休みください」
ルナさんにベットに休むように勧められるが、それどころではない。早いところルナさんにヴァルト様を説得して貰わないと。
「あの〜ルナさん、疲れてはいますけど、ベットで寝るほどではないので大丈夫です。それよりもまだ体調はおかしいですか?それなりに時間も経ちましたし、意識が戻ったら正常になっているかと思ったのですが」
「体調ですか?まったく問題ありませんよ。むしろ今までにないくらい晴れやかな気持ちです」
すごく嬉しそうなルナさん。
見た目の体調が悪いとは思っていないのだけど心と言うか?中身というか?俺に対する当たり方が柔らかくなったし優しくなった。そしてそれ以上に俺を見る目線が好意的で少し戸惑う。
「タクトさん、お話があります!」
「あ!?はい!どうしましたか?」
また頬に手を当て赤く染め手を握られる。
何を言われるのか……
「タクトさん、私と結婚してください!お願い致します」
「………………へぇ!?」
結婚………そこまでとは!?せいぜい好きだと言われるくらいかと思っていたが、これは良くない。もちろん嬉しいけど、スキルの影響でこんなことをするのは自分としては心苦しい。絶対ダメだ!
「ルナさん、大変嬉しく思います!だけどダメです!ダメなんです!ルナさんは今正常な判断が出来なくなっています。ですので一度冷静になりましょう。大丈夫です。絶対に元に戻りますから」
俺はなんとか落ち着いて貰おうと必死に言った。
「タクトさん、私は正常ですよ。ま〜その……心臓がドキドキして冷静とは言えないかもしれませんが………ポッ」
お…おう………カワイイとか言いたいけど、それ以上に危機感を感じている。これは非常にマズイ状況だ!説得がほぼ不可能なのではないかと思えてしまう。
………こう言う時は……現実逃避だな!おやすみ〜
俺はベットに寝て布団をかぶり夢の中へ……
…………▽
しかしあれだな。嫌なことから逃げても何も好転しないことが多い、それどころかより悪くなることもあるから皆は逃げずに戦うんだぜ!
起きたけど、どこに居るのかも分からん皆様に心の中でメッセージを送る現実逃避をしている俺、さて……そろそろやるか。
「私はタクトさんと結婚するの!」
「あら、ルナお姉様どうかなされたのですか?ルナお姉さんともあろう者が、随分と可笑しなことを言われますのね!」
目の前でルナさんとノルンが火花を散らし睨み合っている。なんとなくの状況で俺が関係していることだけは分かる。
「あ!?目が覚めたんですねタクトさん」
「はい……おかげさまで休めました」
俺の顔を見てキラキラした眼差しを向けるルナさん、正直キャラ変し過ぎてついていけない。
「いつまで寝てるのよ!タクトのバカ!お父様達の話は終わったから早く帰るわよ!」
「了解!すぐ行くよ!」
こっちはいつも通り、ややキツめの言い方だけど、さっさとしろと目で圧力をかけている。
「ノルン待ってください。タクトさんには
まだ大事な話があります!」
「いいえ、待ちません!先程のような戯言、聞く耳を持ちませんわ」
またしても俺の前で睨み合う二人、あれ?この二人仲が悪いんだっけか?おかしいな〜。
以前聞いた覚えがある。ルナさんとノルンが言い争いをしたことがあると、確かバロンさんがセドリック家に行った時の話、当時から剣士に憧れていたノルンは若くして聖騎士団に入隊したルナさんに憧れており、ルナお姉様と慕っていた。その日セドリック家の兵士の訓練にバロン様と一緒にノルンも参加することになった。
ノルンは兵士達の訓練に参加し嬉しかったと言っていたらしい。ここに関してはバロンさんにあとで聞いた。
訓練で模擬戦をすることになった。相手はルナさん、かなりボロボロ負けたらしい。当たり前と言えば当たり前なのだが、ノルンが諦めず突っ込んでいかなければそこまではされなかったと後からバロンさんに聞いた。
そして負けたノルンにルナさんが言った言葉は、「ノルン、あなたには剣士の才能はないわ!今すぐにやめなさい!あなたの剣には何の重みも感じないから………」
ノルンは唖然として、そして激怒した!階級が上の貴族様と言うこともあり、その場では何も言わなかったらしいが、この後俺が永遠とその話を聞くことになり、強くなるためにさらに危ないことをする様になった。
俺もそれに付き合わされるので非常に
迷惑な話である。
そう思ったけど、バロン様の話では、これはルナさんがノルンを焚き付ける為にやったらしい。彼女からは素晴らしい剣術の才能を感じた。だけど何のために剣を振るのかを分かっていない。それが分からなければ真の剣士にはなれない。だからわざと言った。
出来ればもう少し分かりやすく、なんなら直接説明した方が良かったとその時の俺は思った。
そして今、それ以来のわだかまりが一切解決せず、二人は向かい合う。
………一触触発、そんな感じだ!
「なんや、冷静に考え事しとるようやけど、ええんか?あれ!そろそろバトルで!」
いつの間にか現れたカンナに言われ気がつく。
なにー!?それはマズイ!
「二人共待つんだ!冷静になろう!」
俺が二人の間に入ろうとした時……すでに遅かった。
「ルナお姉様、お手合わせ願いますか!」
「えぇ〜良いですわよ!ノルン、あなたがどれほどの者か見定めましょう!」
すでに止められる雰囲気ではない…………
次回 ノルン VS ルナ