第159話 女神ヘカテー
「あなたが女神ヘカテー様なのですか?何度かはニキから聞いてはいましたが」
「そうですか、では話が早くて助かりますね。先程も言いましたが私は冥界の管理者であり生と死を司る女神です。ですのであなたを生き返らすことは造作もありません」
ヨッシャー!ツイてる〜!
女神様なら確かになんでもありだよな!
「それにあなたは死んでいますが死んでいませんし」
「はぁ?……どういうこと……」
言っている意味が分からん!
死んでるの?死んでないの?どっち!
「ここは冥界とあなたが居た世界の狭間に当たります。あなたは確かに死んではいますが、あの世ではありません。
恐らく強制的に魂をこちらに送られたのでしょう。しかし冥界に直接送る力はなく、ここへと送られた。そしてここを彷徨ううちに冥界へと誘われる。そうすれば完全なる死を迎える。それがあなたを殺した者の狙いでしょう。ですので肉体に問題がなければ帰れますよ」
「良かった〜ありがとうございます!ヘカテー様、あなたにお会い出来なかったら彷徨って死んでいたのならあなたは命の恩人です!本当にありがとうございます!」
「いえ、そんなことはありません、私もニキがお世話になっていますから、少しでも恩返しが出来て嬉しく思います」
ニキと知り合いになっていて良かった〜。
それにしても冥界の管理者って言うからもっと恐ろしい方かと思ったけど、随分と優しい方だ。想像と大分違う。
「一応確認なのですが、タクトさんには生きる意志はございますか?」
「もちろんです!まだまだやりたい事がありますから」
「それは良いことです。初めにも確認しましたが、ここは生きる者が来てはいけません!その理を揺るがす者は許しません!どんな存在でも!」
なんだ!?突然、ヘカテー様の雰囲気が変わった。ゴーーっと音の表現をしたくなる威圧を感じる。それに身体がゾクゾクして震えが止まらない!?
怖い!?恐い!?強い!?
一気に恐怖を植え付けられた。
「あなたをこちらに送り込んだ者、許せませんね。私は地上の民に手を出すことは出来ません。ですのでタクトさんにお任せしたいと思います」
「え、え〜もちろんです!今度は負けません」
動揺しつつもなんとか答える。
「ありがとうございます。宜しくお願いしますね!そうですね〜。ただお願いするのも申し訳ありませんしそうですね〜」
う〜ん……と考えるヘカテー様。
こちらからは影しか見えないのでどんな顔をしているか分からないけど、女神様をそんなに悩ませるのは申し訳ない。それにそもそも生き返らせてくれるだけで十分なんだけど……
「あ!良いことを思いつきました!タクトさん私の使徒になりませんか?」
「え!?……それは………」
いきなり何を言い出すのか!
そんな簡単に女神の使徒になれるものではないだろう。それに俺はすでにイリスの使徒でもある。たぶん重複はまずいだろうし、何よりイリスが怒る!それはマズイ。
「あの〜大変有り難いお話なのですが〜、ボク……イリス様の使徒なんです!ですのでヘカテー様の使徒になる訳にはいかないかと……」
俺は大変申し訳無さそうに返事をする。
「あら!?……本当!イリスの使徒だったの!」
ヘカテー様から驚きの声が、しかし何故か嬉しそう。
「実はそうなんです。ですので先程のお話は……」
「ダイジョブよ!私とイリスは仲良しだから!同じ使徒が出来るなんて嬉しいわ!」
影しか見えないのに嬉しそうな姿がバッチリ見える。どんだけ嬉しいんだよ!結構もの静かな人かと思っていたけど、実は違うのか?喋れば喋るほど印象が変わっていく。
「本当に大丈夫なのでしょうか?イリス様は怒ると恐い気がするんですけど……」
ビリビリ……空気が明らかに変わった!?
「あぁ!?なに!あなた私がイリスに嫌われてるとでも思うわけ!」
ひい〜……声は出てないけど恐怖で喋ることも動くことも出来ない。な、な、なんでこんなことに!
「あぁ〜、お前さ〜ちょっとは考えて言えよなぁ!私とイリスの仲だぞ!同じ人間を使徒に出来るなんて嬉しいに決まってるだろ!もしも違ったら………お前を地獄に落とす!」
おえぇ〜〜!!
ヘカテー様の威圧で恐怖、驚き、吐き気のトリプルアタック!?も〜うどうしたら良いか分かりませーん。
「でぇ!どうするんだよ!オマエ、使徒になるのかぁ〜、それともならないのかぁ〜よ〜〜〜く考えろよ!」
考えるまでもない。
断れないです。
これならイリスに怒られる方がマシ。
「謹んでお受けします!」
「あら!そう!良かった!」
恐ろしい空気が一気に霧散する。
色々が人がいるんだ。色々な女神がいたって良いけど、あんまりこの人とは関わるのはよそう。
女神ヘカテー
彼女はいわゆる二重人格で危険な女神なのかもしれない。