第156話 悪魔憑きの契約者とそれぞれの戦い!
悪魔憑きの契約者を斬ったナイフの斬れ味は流石ではあるのだが、思っていたより普通、ナイフと言っているが、これは俺も良く使っていた電工ナイフって言う工具だな。用途としてはケーブルの被覆を削り取り芯線を剥き出しにするのに使う。
「今のところは普通に感じるけど………あ〜やっぱり違ったか、これは中々凶悪だね〜」
頭の中にナイフの使い方が流れ込んで来た。どうやら使い方を間違えていたようだ。
俺は姿勢を低くしナイフを構える。
「それじゃ〜ここからが本番だな!」
ナイフに魔力を込めるとナイフが歪んで見えた。
このナイフの周りの空間が捻れ始めている証拠。
良い感じだ!そろそろ行ける!
「でも待てよ……コイツも元は人間だよな。この道具は流石にえげつないよな〜」
俺は道具のスキルの凶悪さに攻撃を躊躇う。
「なに言うてんねん!さっきそいつの腕斬り飛ばしてやろう。今更やん!」
「いや〜腕はたぶん治せるから良いけど、ナイフの効果はどうなるかまだ分からない。コイツら相手には控えるよ」
俺は出したナイフをカンナに返しライトを貰う。
「そか、ま〜コイツらはライトで十分そうやしな、ほな行こか〜」
カンナは言ったと同時に契約者の前に飛び出す。契約者の強靭な腕がカンナを襲う。しかしその攻撃は当たらない。カンナは空間転移で瞬時に移動契約者の後ろに立っていた。
「なんや!ウスノロやな〜、話にならへん」
カンナの挑発に見事に乗った契約者は大振りでカンナを殴ろうとするが、カンナはヒョイッと軽く後ろに飛び攻撃を躱す。
「お〜あったあった、ここだな!」
俺はカンナが作ってくれた隙を狙い契約者の呪印にライトを当てる。前に比べて照度が上がっておりあっという間に呪印は消え、契約者は元の姿に戻り倒れた。
「ナイスカンナ!上出来だ!」
「やったー!褒められたんや!」
嬉しそうなに笑うカンナ。
「さてと、こう言うヤツが山ほど居る訳だ!チョイと急ぎ目で行きますか」
俺は倒れている契約者だった男の治療(腕に絆創膏を貼り)騒ぎ声がする方へと向う。
「カンナ、どのくらい契約者は居そうだ?」
俺は契約者(悪魔憑き)がどのくらい居るかカンナに聞いた。
カンナの空間認識能力が非常に高く、目で見るのではなく感じるらしい。この町くらいなら気配を特別に消すスキルでも使っていなければ全ての人を認識出来るのだ!
「う〜ん……分かった!112人!気配でなんとなく分かるコイツらは悪魔憑きや!……!?あれ……なんやすごい速さで気配が消えて行く。これは……ノルン達や!かなり顔張っとるみたいや!」
「そうか……それじゃ〜俺達も負けていられないな!」
俺はライトを使い契約者達を倒して行った。
◆ノルンの視点
敵は悪魔の力を強敵……そう思っていた。確かにステータスは高いのかもしれない。だけど契約者自身がその力を上手く扱えていない。そう、力に振り回されている。そんな感じ。
オーガの様な大きな身体で拳を振るう。
速くて重い拳ではあるけれど振りかぶり過ぎて隙だらけだし目線で攻撃する場所もバレバレ、こんなの躱して下さいって言っているようなもの、私は攻撃を見極めギリギリで躱しそのまま腹部に一閃………ゆっくりと倒れた。
「はぁ〜面倒ね!」
私は炎の鎖を放ち敵を拘束、殺す方が楽だとは思うけど、一般市民相手だと出来れば助けたいと思う。どうにもならない強敵ならともかく、このレベルならそのくらいの余裕はあった。
「ノルンの方も終わったわね。こっちも終わったわ!次に行きましょうか」
「お母様!?……お疲れ様です」
私は唖然とする。
お母様は非常に優れた魔法使いと聞いてはいたのだけれど……ここまでとは思っていなかった。
そして怖い!
お母様の後方で人がぶら下がっている。その数……十人、炎の鎖でジリジリと徐々に焼き敵達の泣き叫ぶ声が聞こえる。
私が一人を相手にしている間に、これだけの数を倒し捕らえたみたいだけど。一体どうやったのか?見当すら思いつかない。私は改めてお母様の強さを思い知らされた。
◆バロンの視点
私はスカーレットとノルンと別行動をしていた。
少々おかしな話ではあるが、ヴァルトと二人で敵の処理にあたっている。
ヴァルトは見た目ではいかにも上流階級の人間と思われる雰囲気なのだが、実際は違う。彼は本当は冒険者になりたがった。しかしセドリックと言う名家に生まれ不自由な生活を送ることを余儀なくされていた。それでも戦士にはなれる。彼は身体を鍛え、剣の技術を磨いた。その努力は実を結び彼の実力は冒険者で言えばAランク相当にまでになっている。
「聖なる力よ!我に力を『ホーリースラッシュ』」
ヴァルトは敵の懐に素早くもぐり込むと聖魔法を剣に付与し斬り裂く。聖なる力の効果により悪魔を消し去るまでは行かないが一時的に動きを止めることが出来た。
「ヴァルト、忙しくて腕がなまっているってことは無さそうだな」
「それはもちろんさ、先生が毎日剣を握るのだけは忘れるなって教えてくれたからな。持てば自然と手が動くから不思議なもんさ」
「それはいつの話だよ!そんな昔の話を持ち出すなよ」
私はローラン提督の紹介で一時の間、ヴァルトに剣を教えたことがあった。彼が17の時、当時彼は剣術が伸び悩んでいた事と相手に出来る人が少なかったことが理由、彼は素直な上に確かな才能があった。もしも彼が冒険者としてもっと経験を積んでいれば国一番の剣士になっていたかもしれない。それだけに一剣士である私から言わせると勿体なく感じたこともあった。
「バロン、変なヤツがいる。あれは危険かもしれない」
「あ〜そうだな」
前から歩いて来るのは今まで倒した敵とは雰囲気が違う。身体が大きかったりゴツかったりしない。ただの普通の人に見える。見た目だけは……
「ヴァルト私が行く。隙があれば介入しろ。ただし無理はするな」
「あ〜分かった」
ヴァルトは短い返事をして剣を構えた。
私は一気に接近に斬り込む。
動く様子はない!
私の動きについて来れないのか?
んっ!?
身体は動いていないが確かに目線をこちらに向けた。しかし私の攻撃を受けようとも躱そうともしない。ならば斬るしかない。そのまま剣を振る。
「ガチン……」
金属同士が衝突する音がした。
私の剣が生身の身体に弾かれたのだ!?
硬い!?人の硬度ではない!
敵の腕が私に伸びてくる。
何をするつもりだ!
「させません!」
「ガチン」
ヴァルトがその腕を斬り上げる。
また弾かれた。
仕方あるまい!鉄をも斬り裂く斬撃をするまでだ!
しかし、私が剣を振る前に一人の少年がやって来る。
「あ!いたいた、喰らえ!」
一瞬で敵に接近し一太刀で斬り伏せる。
まったく我らが町長には驚かされてばかりだ。
それ程強そうには見えない少年、しかし私は思う。彼こそがこの国に今最も必要な人物だと。




